
★要点
東京大学と清水建設の研究チームが、2020年時点の日本国内のカルシウムのライフサイクル全体(埋蔵、使用、廃棄、循環)を初めて数値化。その結果、ビルや道路などの都市インフラに蓄積されたカルシウム(約55億トン)が、国内の天然資源(約46億トン)を上回る“都市鉱山”であることが判明した。
★背景
カーボンニュートラル実現に向け、建設業界はCO2排出削減が急務。特に、セメントの主成分であるカルシウムは製造過程で大量のCO2を排出するが、その全体像が不明なため、効果的なリサイクル戦略が立てにくかった。今回、カルシウムの流れを「見える化」したことで、廃棄されるコンクリートを資源として捉え、脱炭素に繋げる具体的な道筋が見えてきた。
私たちの足元に、日本最大の“鉱山”が眠っているのかもしれない。東京大学と清水建設の研究チームが、都市に蓄積されたカルシウムの総量が、国内の天然埋蔵量を上回るという衝撃的な事実を突き止めた。ビルや道路が、未来の資源の貯蔵庫になる。この発見は、建設業界の常識を覆し、CO2削減のゲームチェンジを引き起こす可能性を秘めている。
都市に眠る55億トン、天然資源を超える“都市鉱山”
セメントの主成分であり、鉄鋼業にも欠かせないカルシウム。その多くはCO2と結合した石灰石として存在し、産業利用の際には大量のCO2を排出する。このカルシウムの流れを、研究チームは原料採取から生産、消費、廃棄、リサイクルまで、日本全体で初めて包括的に分析した。
その結果、驚くべき事実が判明。日本国内の石灰石などに含まれるカルシウムの埋蔵量が約46億トンであるのに対し、すでに建設されたビルや道路、港湾といった都市インフラに蓄積されているカルシウムの総量は、それを上回る約55億トンに達していた。都市は、消費の終着点ではなく、未来のための巨大な資源貯蔵庫だったのだ。


CO2削減の鍵は「フローの見える化」にあり
この研究のもう一つの重要な成果は、カルシウムが産業間でどのように流れ、どのプロセスで特に多くのCO2を排出しているかを、具体的な数値で「見える化」したことだ。 日本の年間カルシウム投入量約6,090万トンのうち、77%が建設分野で使われる。そして、その流れの中で、特にセメント製造時の石灰石の脱炭酸プロセスなどが、CO2排出のホットスポットであることが特定された。 これまで「リサイクルすれば環境に良い」と漠然と語られがちだった議論が、このデータによって大きく変わる。「どのプロセスのCO2を削減するために、どのリサイクル技術を適用するのが最も効果的か」という、科学的根拠に基づいた戦略的な議論が可能になった。

図中の赤色の帯はCO2排出を伴うカルシウム利用を示す。
“廃棄コンクリート”が、CO2を吸収する資源に
この知見は、未来の技術開発にも直結する。例えば、解体された建物から回収したカルシウムを、再びセメント原料として活用する「水平リサイクル」。あるいは、砕いたコンクリートにCO2を吸収・固定させるカーボンキャプチャー技術。 都市に眠る55億トンの“カルシウム鉱山”を、ただの廃棄物として埋め立てるのか、それともCO2を削減するための貴重な資源として循環させるのか。その選択が、日本のカーボンニュートラルの成否を分ける。東大と清水建設が提示したこの新しい地図は、そのための航路を描き始めている。
ニュースリリースはこちら
あわせて読みたい記事

【分解して移せる木造ビル】都市の“余白”を循環に変える——日本橋茅場町「prewood」の挑戦

「CO2を食べる自販機」って何⁈

【循環経済の最前線】なぜ日本は欧州に遅れるのか?──国内外の専門家が静岡に集結、「CLRF2025」開催。
