カナデビア株式会社と国立循環器病研究センター(NCVC)が共同開発した「AIを用いた胎児不整脈診断支援システム」が、「第7回 日本オープンイノベーション大賞」において厚生労働大臣賞を受賞した。世界初となるこの技術は、高度な専門知識を必要とする胎児の不整脈診断を、AIによって誰でも再現可能にするものであり、妊産婦医療に大きな変革をもたらす可能性を秘めている。

AIによる心臓領域の抽出

診断の壁を越えるAI。高難度領域に挑んだ技術革新。

胎児期における不整脈は、全妊娠の1〜5%程度の割合で発生するとされており、決して稀な症例ではない。しかし、その診断には熟練した超音波検査技術と専門的な知識が求められるため、医療現場では診断のバラつきが課題となっていた。
この状況を打破すべく、カナデビアと循環器専門医療の中核を担うNCVCは、2019年から共同でAIによる診断支援技術の開発に着手。2024年にプロトタイプの完成に至った。
本システムは、超音波Bモード画像から取得された胎児の心臓四腔断面画像をAIが解析し、心臓の4領域の動きから時系列データを生成。これをFFT解析(高速フーリエ変換)によって周波数データに変換し、独自アルゴリズムで不整脈の有無と種別を自動判定する仕組みだ。高い解析精度と再現性が評価され、今回の受賞につながった。

安全な出産に向けて、医療現場に寄り添う技術へ。

この診断支援システムがもたらす最大の意義は、「誰でも正確な診断が可能になる」点にある。従来は限られた専門施設でしか対応できなかった胎児不整脈の早期発見が、地域の一般病院でも実現可能となる。これにより、出産前からの適切な対応が可能となり、妊産婦と胎児の安全性を大きく高めることが期待されている。
今後、両者は2026年までの薬事申請を目指して、さらなるシステムの精度向上と実証研究を進める構えで、複数の医療機関との共同研究を予定しており、AIの学習精度は飛躍的に高まる見込みだ。
またカナデビアは中期経営計画「Forward 25」の柱としてライフサイエンス領域への本格参入を掲げており、本プロジェクトはその象徴的な取り組みとなる。単なる医療機器の開発にとどまらず、社会課題を起点としたソリューション創出に舵を切ったかたちだ。

AIが変える周産期医療の風景。「命を守る技術」の社会実装へ

AIによる胎児不整脈の診断支援という取り組みは、単に技術革新の枠を超え、「安心して子を産み育てられる社会」の実現に直結するものと言える。少子化が進む日本において、出産時のリスク低減と医療現場の負担軽減は、重要な政策課題のひとつとされているからだ。
今回の受賞は、AIが人命に関わる医療領域でも現実的かつ信頼できるソリューションとなり得ることを証明した。特に、地域間の医療格差や専門人材の偏在といった課題に対して、有効な一手となる可能性を秘めている。
AIと医療の融合が加速する中で、本技術は「診断の民主化」を象徴する取り組みとして、今後のスタンダードを塗り替えていく存在となるだろう。カナデビアとNCVCの挑戦は、医療AIの未来を指し示す道標となりつつある。

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