
★要点
国立公園の区域や保護のルールを見直す手続きが、各地で同時に動いている。
環境省は2026年10月23日、釧路湿原国立公園の公園区域と公園計画を見直す「第2次点検」の環境省原案を公表し、意見募集を始めた(11月21日まで)。公園区域を2,444ha広げて31,098haとし、最も規制の厳しい特別保護地区も732ha拡張して7,188haとする案だ。政府が2025年12月にまとめたメガソーラー対策パッケージにも、釧路湿原国立公園の区域拡張が盛り込まれていた。
同じ10月19日には、三陸復興国立公園(南三陸金華山地域)で志津川湾奥部の海域公園地区を429ha広げる案と、伊勢志摩国立公園の第7次点検の案についても意見募集が始まった。10月22日には、アジアの国々が保護地域以外で生物多様性を守る「OECM」を進めるためのロードマップ(2026〜2030年)の公表について、環境省が発表した。
生物多様性条約COP17が会期最終日を迎えるなか、「陸と海の30%を守る」目標の国内の現場で何が起きているのかを読み解く。
★背景
2022年の生物多様性条約COP15で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」は、2030年までに陸と海のそれぞれ30%以上を保全する「30by30」を掲げた。日本では、陸域の21.0%、海域の13.3%が保護地域やOECMとして保全されている(2025年8月時点、環境省)。
目標に近づく方法は、新しい保護区をつくることだけではない。すでにある国立公園の「線」、つまり区域の境界や、どこでどの程度の開発を認めるかという規制の線引きを、自然や社会の変化に合わせて引き直すことも、その一つだ。
国立公園の区域や計画は、定期的に「点検」される。指定したら終わりではなく、点検と修正を繰り返して保護の仕組みを保つ。その意味で、国立公園は手入れを続けるインフラでもある。
国立公園の地図には、目に見えない線がいくつも引かれている。
公園の内と外を分ける線。
建物の新築や土地の改変を厳しく制限する場所と、一定の行為を許す場所を分ける線。
その線が、いま各地で引き直されようとしている。
北海道の釧路湿原では、湿原の周りの森や川沿いへ。
宮城県の志津川湾や三重県の伊勢志摩では、陸から海へ。
COP17が会期最終日を迎えるこの時期に、国内で進む保護区の「点検」と、私たちが意見を届けられる手続きを追う。
釧路湿原、2,444haの拡張案――最も厳しい「特別保護地区」も732ha増
釧路湿原国立公園は1987年に指定された、日本最大の湿原を中心とする国立公園だ。釧路湿原は1980年にラムサール条約湿地に登録されており、タンチョウやイトウの生息地としても知られる。
環境省は2026年10月23日、この国立公園の公園区域と公園計画を見直す「第2次点検」の環境省原案を公表した。第1次点検(2011年)から10年以上が経ち、自然や社会の条件が変わったことを踏まえた見直しだ。
原案では、公園区域を28,654haから31,098haへ、2,444ha広げる。内訳は、釧路市の一部1,259ha、釧路町の一部172ha、鶴居村の一部1,167haを加え、釧路町の一部154haを外すというものだ。
保護の強さを決める「保護規制計画」も変わる。工作物の新築や土地の形状変更などに最も厳しい規制がかかる特別保護地区は6,456haから7,188haへと732ha増え、特別地域全体も19,591haから21,822haへと広がる。このほか、自然再生施設や歩道などの施設計画、自然体験活動計画も見直す。
意見は11月21日まで、e-Govの意見提出フォーム、郵送、電子メールで受け付けている。共同通信によると、中央環境審議会の答申を経て、2027年3月に拡張される見通しだという。

なぜ今、線を引き直すのか――湿原の縮小とメガソーラー
変更書の原案は、拡張の理由として湿原そのものの変化を挙げている。
釧路湿原では、湿原面積の減少やハンノキ林の増加などの問題に対応するため、湿原環境の再生や河川の蛇行復元といった自然再生事業が行われてきた。原案はそのうえで、「流域保全の観点から、湿原の富栄養化や土砂流入の軽減などを図る必要がある河川周辺やその付近の森林」について区域の拡張を検討するとしている。湿原だけを囲うのではなく、湿原に水や土砂を送り込む周りの森や川沿いまでを、一体として守ろうという考え方だ。
もう一つの背景が、湿原周辺で相次いだ大規模太陽光発電所(メガソーラー)の建設だ。政府が2025年12月の関係閣僚会議でまとめた「メガソーラー対策パッケージ」には、「自然環境の保護」の項目として、湿原環境等の保全強化のために「国立公園としての資質を有する近隣地域について釧路湿原国立公園の公園区域を拡張し、公園区域内の開発を適切に規制する」ことが明記され、令和8年度中の区域拡張を目指すとされた。
再生可能エネルギーの拡大と自然の保全。どちらも気候と生態系を守るための取り組みだが、場所の選び方を誤れば衝突する。国立公園の線引きは、その衝突を前もって避けるための道具でもある。

北海道開発局ホームページより
線は海へ――志津川湾と伊勢志摩で進む海域の保護
線の引き直しは、陸から海へも広がっている。
環境省は10月19日、三陸復興国立公園(南三陸金華山地域)の公園計画の変更案について意見募集を始めた(11月17日まで)。宮城県南三陸町の志津川湾奥部で、海域公園地区を429ha広げて6,222haとする案だ。
志津川湾は2018年にラムサール条約湿地に登録された。寒流と暖流の影響を受けて寒い海と暖かい海の藻場が共存し、コクガンなどの渡り鳥が越冬する。湾奥部の干潟は東日本大震災の津波と復興事業の影響を受けたが、回復が見込まれるという。今回の案では、シーカヤックや干潟の生き物調査などを進める「自然体験活動計画」も新たに加える。
同じ10月19日には、伊勢志摩国立公園の第7次点検の案についても意見募集が始まった(11月17日まで)。意見募集の資料は、第6次点検から約10年の間に「耕作放棄地等への太陽光発電施設の設置が進む」など、景観や社会、利用状況に変化があったと指摘する。案では、30by30の達成に向けて、既存の公園区域と一体的に守るべき区域を編入し、島の周辺や陸に接する海域を海域公園地区として指定する方針を示している。
公園の外側をどう守るか――アジアのOECMロードマップ
国立公園などの保護地域だけでは、30%には届かない。そこで重要になるのが、OECM(保護地域以外で生物多様性の保全に役立つ地域)だ。企業の森や里山、社寺林など、保全を主な目的としない土地でも、生物多様性の長期的な保全に貢献していれば対象になり得る。日本では企業の森や里山などを対象とする「自然共生サイト」の認定制度が活用されており、認定区域のうち保護地域と重ならない区域などがOECMとして国際データベースに登録されている。
環境省は10月22日、7月に東京で開いた「アジアにおけるOECMの推進に関する地域ワークショップ」の結果と、「アジア保護地域パートナーシップ(APAP)OECMロードマップ(2026–2030)」の公表を発表した。ワークショップには、アジア12か国の政府関係者など42人が参加した。
ロードマップは、30by30の達成に向けたアジアでのOECM推進の優先行動を示すもので、「政策・制度的基盤の強化」「候補地の特定・認定・報告の拡大」「長期的な質及び保全効果の確保」「パートナーシップ及び協働による管理の拡大」の4つを柱とする。面積を増やすことだけでなく、守られた場所の「質」と「効果」を長く保つことを柱の一つに置いた点が目を引く。

環境省ホームページより
保護区も「点検」して使い続ける
釧路湿原の拡張、志津川湾と伊勢志摩の海域の保護、そしてOECMのロードマップ。
これらに共通するのは、保護区を「一度つくれば終わり」とせず、変化に合わせて点検し、線を引き直し、守り方の質を問い続けるという姿勢だ。
陸域21.0%、海域13.3%という数字は、30%までの距離を示している。ただ、その距離を埋めるのは面積だけではない。湿原に流れ込む川の上流まで目を向けること、海の中の藻場や干潟に線を延ばすこと、守っている場所の効果を確かめ続けること。
意見募集は、釧路湿原が11月21日まで、志津川湾と伊勢志摩が11月17日まで続く。国立公園の線引きは、専門家や行政だけのものではない。地図の上の一本の線に、私たち一人ひとりが意見を届けられる期間でもある。
【参考】
環境省:報道発表「釧路湿原国立公園の公園区域及び公園計画の変更[第2次点検]に関する意見の募集(パブリック・コメント)について」(2026年10月23日発表)
https://www.env.go.jp/press/press_05727.html
環境省:釧路湿原国立公園 公園区域及び公園計画変更書[第2次点検](環境省原案)
https://www.env.go.jp/content/000437320.pdf
環境省:報道発表「三陸復興国立公園(南三陸金華山地域)の公園区域及び公園計画の変更[一部変更]に関する意見の募集(パブリック・コメント)について」(2026年10月19日発表)
https://www.env.go.jp/press/press_05735.html
環境省:報道発表「伊勢志摩国立公園の公園区域及び公園計画の変更[第7次点検]に関する意見の募集(パブリック・コメント)について」(2026年10月19日発表)
https://www.env.go.jp/press/press_05734.html
環境省:報道発表「『アジアにおけるOECMの推進に関する地域ワークショップ』の開催結果及び『アジア保護地域パートナーシップ(APAP)OECMロードマップ(2026–2030)』の公表について」(2026年10月22日発表)
https://www.env.go.jp/press/press_05572.html
内閣官房:大規模太陽光発電事業に関する関係閣僚会議(2025年12月23日)資料2「大規模太陽光発電事業(メガソーラー)に関する対策パッケージ(案)」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/megasolar/dai1/shiryo2.pdf
首相官邸:官房長官 大規模太陽光発電事業に関する関係閣僚会議(2025年12月23日)
https://www.kantei.go.jp/jp/pages/20251223choukan_taiyoukou.html
環境省:令和7年度実施施策に係る政策評価書(事後評価)目標5-2(2026年9月)
https://www.env.go.jp/content/000433311.pdf
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