
★要点
2026年9月19日、シティラボ東京で「サステナブルシティ・サミット6」が開かれる。テーマは「多様な価値が織りなすサステナブルシティ」。経済、社会、環境に潜在する価値を見つけ、都市の共有価値へ変える方法を、ソーシャルインパクト、ネイチャーポジティブ、パブリックスペース、地域発の実験から考える。
群馬県みなかみ町では、町、企業、銀行、大学が連携する「UDCみなかみ」が始動した。利根川源流域の自然、上毛高原駅、水上温泉街、廃業旅館などを別々に扱わず、自然再興と地域経済を一つのまちづくりとして進める実践である。
★背景
これまで都市の価値は、地価、人口、商業売上、税収、建物の床面積などで測られることが多かった。しかし、猛暑を和らげる緑、水害を抑える土壌と湿地、人が出会える公共空間、地域文化、住民同士の信頼も、都市の安全と豊かさを支える重要な資本だ。
生物多様性条約の世界目標も、都市の緑地や水辺の面積、質、連続性、利用しやすさを高め、生物多様性に配慮した都市計画を進めることを求めている。都市は、自然を消費する場所から、自然を育て、社会へ価値を返す場所へ変われるか。その転換が問われている。
価値の高い都市とは、どのような都市だろう。
高層ビルが建ち、地価が上がり、多くの企業と人が集まる都市。便利で、速く、消費の選択肢が多い都市。それらは確かに、都市の力を示す。
だが、夏に歩けないほど暑い。大雨のたびに道路が水につかる。公園はあるが、生きものが暮らせない。再開発によって地域の記憶や人間関係が失われる。
それでも、その都市は「価値が高い」と言えるのだろうか。
2026年9月に開かれる「サステナブルシティ・サミット6」が正面から取り上げるのは、都市の中に存在する多様な「価値」だ。
自然、健康、文化、公共性、つながり、地域への愛着。それらを個人の価値観にとどめず、企業が投資し、自治体が政策へ組み込み、地域が手入れを続けられる共有価値へ変える。
熊本で開催されたGLOBAL NATURE POSITIVE SUMMIT 2026が「自然を経済と社会の土台として捉え直す」議論だったとすれば、次の舞台は都市と地域だ。
自然を守る都市から、自然を育てる都市へ。
ビジネスとまちづくりをつなぐ、新しい都市価値の設計が始まろうとしている。
都市の価値は、地価とGDPだけでは測れない
都市開発では、分かりやすい数字が重視される。
投資額。延べ床面積。来街者数。オフィスの入居率。商業施設の売上。周辺地価。税収。
これらは事業性を判断するうえで欠かせない。しかし、都市が長く存続できるかどうかを測るには、それだけでは足りない。
国連の「包括的な富」の考え方では、社会の豊かさを、建物や道路などの人工資本だけでなく、人の知識や健康を表す人的資本、森林、水、土壌、生態系などの自然資本を含めて捉える。
人工資本が増えても、自然資本や人的資本を大きく失えば、将来世代へ引き継げる豊かさが増えたとは限らない。
都市も同じだ。
建物を増やすために樹木を減らし、雨が染み込む土地を舗装すれば、不動産価値は一時的に上がっても、暑熱や水害の危険は高まるかもしれない。
再開発によって人を呼び込んでも、地域の文化、小さな商店、人々の居場所が失われれば、街への愛着やコミュニティの力は弱くなる可能性がある。
サステナブルシティ・サミット6が掲げる「価値化」とは、自然や社会を金額へ置き換えることだけではない。
これまで都市の評価からこぼれていた価値を見つけ、政策、投資、事業、維持管理の判断へ反映することだ。

四つのテーマは、別々ではない
サミットでは、「ソーシャルインパクト」「ネイチャーポジティブ」「パブリックスペース」「プレフィギュレーション」の四つを軸に議論が行われる予定だ。
一見すると、それぞれ別の専門分野に見える。
ソーシャルインパクトは、事業が人や地域へ生んだ変化を測ること。ネイチャーポジティブは、自然の損失を止め、回復へ転じること。パブリックスペースは、道路、公園、広場など、誰もが関われる公共空間を考えること。
そして地域で行われる小さな実験は、望ましい未来の社会を先に試し、成功と失敗から制度や事業をつくる方法になる。
だが、四つは本来つながっている。
公園や街路樹を整備する。雨水を土へ戻す。地域固有の植物を植える。それによって生きものが戻り、暑さや水害が緩和されれば、ネイチャーポジティブになる。
その公園に子ども、高齢者、働く人、観光客が集まり、交流が生まれれば、社会的インパクトにもなる。
住民が計画や手入れへ参加し、地域のイベントや小さな商いに使えば、公共空間の価値が育つ。
さらに、その成果を測り、企業の投資や自治体の予算へつなげれば、一時的な実験から都市の仕組みへ成長する。
都市の価値は、一つの設備や建物だけでは生まれない。
自然、人、空間、経済がつながったときに生まれる。
緑を置く都市から、自然を育てる都市へ
ネイチャーポジティブな都市とは、緑色の場所を増やした都市ではない。
芝生や植栽があっても、地域の生態系と切り離され、強い薬剤や過剰な剪定に依存し、生きものが利用できなければ、自然を回復させる力は限られる。
重要なのは、緑と水の「量」だけでなく、質とつながりだ。
在来種を生かす。河川、公園、街路樹、建物の屋上や敷地をつなぐ。雨水を下水へ流し切らず、土壌へ浸透させる。昆虫、鳥、植物が移動し、繁殖できる環境を整える。
国連環境計画は、都市に自然を基盤とした解決策を導入することで、洪水や土壌流出への強さ、空気と水の質、極端な暑さへの適応、人々の健康を同時に改善できるとしている。
自然は、開発せずに残しておく空白ではない。
暑さを和らげる空調設備。雨を受け止める防災設備。水を浄化する処理設備。人の心身を整える健康設備。
しかも、それらの機能を同時に提供する生きたインフラだ。
これからの都市では、自然をどれだけ残したかだけでなく、都市活動によって自然をどれだけ育て、回復させたかが価値になる。
みなかみ町で始まった、自然と経済をつなぐ実験
この考え方を地域で実装しようとしているのが、群馬県みなかみ町の「UDCみなかみ」だ。
2026年4月、上毛高原駅前に、みなかみ町、オープンハウスグループ、群馬銀行、東京大学大学院工学系研究科が連携するまちづくり拠点として発足した。
みなかみ町は利根川の源流域に位置し、首都圏へ水を供給する地域でもある。2017年にはユネスコエコパークに登録された。UDCみなかみは、この自然環境を保護区域として切り離すのではなく、観光、駅前再編、地域文化、産業と結び、人口減少時代の中山間観光地域モデルを描こうとしている。
特徴は、駅前だけを整備するのではなく、水上温泉街の再生と一体で考えている点にある。
水上温泉では、旅行形態の変化によって大型旅館の廃業や建物の廃墟化が課題となってきた。再生計画では、旧一葉亭をすべて壊して建て直すのではなく、既存建物を生かす「減築&再生」を採用する。
建物の一部を取り除き、光や風、周囲の風景を取り込む。広場、大階段、宿泊や飲食の機能を組み合わせ、地域の新しい場所へ変える計画だ。
スクラップ&ビルドを避ければ、建設廃棄物や新しい資材の使用を抑えられる可能性がある。地域の記憶を残しながら、新しい利用価値を生み出すこともできる。
ただし、ネイチャーポジティブを掲げただけで、自然が回復するわけではない。
駅前整備によって生息環境はどう変わるのか。水循環や景観は改善するのか。地域の雇用や事業は増えるのか。地元住民は意思決定へ参加できるのか。
「上毛高原駅周辺ミライビジョン」は策定途上であり、自然再興や経済活性化の成果はこれから検証される。
UDCみなかみの価値は、完成した成功モデルであることではない。
行政、企業、銀行、大学が同じ場所に入り、自然と経済を分けずに地域の未来を設計する体制をつくったことにある。

ビジネスは、街から利益を得るだけでなく、街の機能を育てる
企業は都市や地域から、多くの価値を受け取っている。
道路、鉄道、水道、電力。働く人と顧客。地域の文化とブランド。水、緑、景観、気候。自治体が整えた制度と、地域社会が築いてきた信頼。
だが、その価値の多くは、企業が自らつくったものではない。
企業が地域で事業を続けるのであれば、受け取った価値を使うだけでなく、育て直す役割も生まれる。
自然再生へ資金を出す。公共空間を地域へ開く。空き建物を再利用する。地域の事業者と取引する。住民と成果を共有する。効果を測り、改善を続ける。
UNEPは、都市の自然への投資を広げるには、自治体だけでなく、民間の意思決定者、金融、地域ガバナンスを結ぶことが重要だとしている。
サステナブルビジネスとまちづくりの融合とは、環境に配慮した商品を街で売ることだけではない。
企業活動そのものを、地域の自然、暮らし、公共性を育てる仕組みへ変えることだ。
都市の価値を測る、五つの新しい物差し
自然や社会の価値は、数字にしにくい。
だからといって、測らなくてよいわけではない。地価や売上だけで都市を評価すれば、測られていない自然や人間関係は、意思決定の外へ追いやられる。
これからの都市価値には、少なくとも五つの物差しが必要になる。
1.自然を育てたか
緑地面積を増やしただけでなく、地域固有の生きもの、生息環境、緑と水の連続性を回復できたか。
開発前後の状態を調べ、長期的に変化を確認する必要がある。
2.暮らしを安全にしたか
暑さ、洪水、土砂災害、水不足などへの強さを高めたか。
平常時の美しさだけでなく、災害時に人と地域を守る機能を持つか。
3.誰もが関われるか
公共空間や意思決定が、一部の企業、行政、専門家だけのものになっていないか。
子ども、高齢者、障がいのある人、地域住民、来訪者が利用し、意見を伝え、活動へ参加できるか。
4.地域経済へ価値が戻るか
投資によって地域の雇用、事業、商店、農林業、観光、文化が育つか。
地域資源を使って外部だけが利益を得るのではなく、経済的な便益が地域へ循環しているか。
5.手入れを続けられるか
建設や植栽が完成した後、誰が観察し、管理し、費用を負担するのか。
担当者が変わっても活動が続く制度、予算、組織、データがあるか。
都市の価値は、完成時の写真だけでは測れない。
自然が育ち、人が関わり、経済が地域を巡り、長く手入れされる。その時間の中で、都市の本当の価値はつくられていく。
開催情報:
サステナブルシティ・サミット6
「多様な価値が織りなすサステナブルシティ」
開催日:2026年9月19日(土)13:00~19:00
形式:シティラボ東京とオンラインによるハイブリッド開催
会場:シティラボ東京
所在地:東京都中央区京橋3丁目1-1 東京スクエアガーデン6階
主催:シティラボ東京、サステナブルシティ・サミット実行委員会
※発表時点のプログラムであり、登壇者やセッション名は変更される可能性がある。
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