
★要点
東急不動産などが、再生建築物件を組み入れた国内初の「再生建築ファンド」を組成した。対象は渋谷の2物件で、旧耐震・築40〜50年超のビルを、躯体活用と耐震・用途更新により、累計経済的耐用年数100年超の資産へ再評価する。新築比で工事に伴うCO₂排出量と廃棄物量も大幅に削減した。
★背景
建築費の高騰、脱炭素圧力、既存ストックの増加。日本の都市は、スクラップ&ビルド一辺倒では回らなくなった。問われているのは、古い建物を“残すべきもの”として語ることではなく、“投資できる資産”として市場に流通させられるかどうかである。国土交通省も中小ビルの改修投資を促すモデル調査事業を進めている。
古いビルは、長く「建て替えるべきもの」として扱われてきた。特に旧耐震の建物は、安全性への不安、法適合の問題、金融評価の低さから、価値より先にリスクを見られてきた。だが、東急不動産らが組成した「再生建築ファンド」は、その常識をひっくり返しにきた。テーマは、保存ではない。情緒でもない。金融である。築古ビルを壊さず再生し、100年超の資産として市場に流通させる。つまり再生建築を、“いいこと”から“投資対象”へ変える挑戦だ。
再生建築が“特殊解”から“金融商品”に変わる
今回組成されたファンドは、東急不動産、TLCM、SMFLみらいパートナーズ、NCSアールイーキャピタル、第一生命保険、横浜銀行、再生建築研究所などが参画する私募ファンドで、最大運用期間は5年。1号ファンドには「COERU渋谷イースト」と「COERU渋谷道玄坂」の2物件が組み入れられた。いずれも旧耐震または築50年前後のビルだったが、基礎や柱など既存躯体を活かしつつ、耐震性・安全性の改善、用途変更、デザイン更新を行い、経済的耐用年数を60年延伸、累計で100年超と評価されたという。
ここで決定的なのは、「再生建築ファンド」という器ができたことだ。再生建築そのものはこれまでもあった。だが多くは設計や開発の話で終わり、市場に広く流通する“資産クラス”にはなっていなかった。今回の組成は、再生建築を不動産市場と金融市場の共通言語に近づける一歩と言える。
壊さないからこそ、炭素と廃棄物が減る。建築時CO₂の主戦場
ファンドの環境価値は明快だ。東急不動産の説明では、2物件は新築と比べて工事に伴うCO₂排出量を約66〜89%、廃棄物量を約74〜95%削減したとされる。
いま建築の脱炭素は、運用時の省エネだけでは語れない。資材製造、解体、施工に伴うエンボディードカーボンが重くなっているからだ。既存躯体を活かす再生建築は、この“建てる瞬間の排出”に直接効く。近年はNearly ZEBや既存杭活用など、運用と建設の両面から炭素を下げる事例が増えてきた。新築を前提にしない発想は、もはや例外ではなくなりつつある。
旧耐震は“金融の嫌われ者”だった。そこに値札を付け直す
旧耐震物件は、金融市場で高い評価を得にくい。これは安全性だけでなく、「この先も稼げるのか」という心理的不安が大きいからだ。今回のファンドでは、遵法性の是正、安全性の確保、経済的耐用年数の延伸によって、通常の築古・旧耐震物件を大きく上回る評価を得たと説明されている。ノンリコースローンも、シニアレンダーに横浜銀行、メザニンレンダーに商工組合中央金庫を迎えて実現した。
つまり勝負は、建物を直すことではない。市場の恐怖をどう減らすかだ。期中には建物状況、オペレーショナルカーボン、モニタリング結果の公開も行い、「築古物件への根本的な心理的不安」を払拭したいとしている。これは再生建築の技術論であると同時に、信頼の設計論でもある。
COERUの実験——サウナとスタートアップと、渋谷という市場
組み入れ物件の中身も象徴的だ。COERU渋谷イーストは、老朽化した旧耐震の小規模ビルを、スタートアップ向けセットアップオフィスへ改修した案件で、下階を増築しガラスファサード化、上階を減築して吹き抜けやルーフテラスを設けることで、採光や執務環境を改善した。COERU渋谷道玄坂は、もともとのカプセルホテル・店舗・サウナという履歴を引き継ぎつつ、上層階をセットアップオフィスへ転換し、サウナ機能も残した。
この設計が面白いのは、「古い建物を保存した」のではなく、「渋谷という立地と今のマーケットに合う姿に再編集した」ことだ。外部委員会の講評でも、地域性を踏まえた改修内容、スタートアップ向けのリーシング戦略、新築級の賃料水準の実現などが評価されている。再生建築は、ノスタルジーでは回らない。市場に刺さって初めて成立する。


制度と認証が背中を押す。モデル事業、DBJ、グッドデザイン
2物件は、国土交通省の「中小ビルのバリューアップ改修投資の促進に向けたモデル調査事業」に採択され、さらにグッドデザイン賞、DBJグリーンビルディング認証も取得したとされる。国土交通省はこの事業で、老朽不動産の更新を進めるため、改修による効果の把握と発信を行うモデル事業を実施している。
この制度的後押しは大きい。なぜなら、再生建築の課題は「本当に価値があるのか」が見えにくいことだからだ。認証、外部評価、モデル採択。こうした第三者のまなざしが揃うことで、ようやく金融や投資家は動ける。再生建築は、技術だけでは広がらない。評価の仕組みが必要なのだ。
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