★ここが重要!

★要点
都市が排出し続ける二酸化炭素(CO₂)を単なる排出物ではなく「地上の炭素資源」と捉え、回収から原料化までをつなぎ直す試みが進み始めている。
JFEエンジニアリングは2026年9月3日、東京都三鷹市・調布市が共同運営する「クリーンプラザふじみ」において、多孔性材料「MOF(金属有機構造体)」を用い、ごみ焼却施設の実排ガスから直接CO₂を分離・回収する国内初の実証試験を開始すると発表した。2025年にノーベル化学賞を受賞した京都大学の北川進特別教授と2021年度から共同研究を重ねてきた技術で、CO₂と水を同時に吸着・脱着できる特性を活かし、水分を含む排ガスを事前除湿せず、加熱を伴わない減圧操作のみで低消費エネルギーに回収する独自プロセスの確立を目指す。
一方、回収されたCO₂の出口技術でも前進があった。東北大学などの共同研究グループは9月7日、ルテニウム(Ru)を炭素材料中に単原子状態で高密度固定した触媒を開発し、CO₂の水素化反応によって99%以上の高選択率でギ酸を合成することに成功したと発表した。
「排出する→捕まえる→原料へ戻す」という炭素循環の修復ルートをつなぐ、日本の独立した2つの最先端技術を読み解く。

★背景
ごみ焼却施設(清掃工場)は、都市の衛生環境と廃棄物処理を担う不可欠な社会インフラである一方、廃棄物由来のCO₂を排出する都市型インフラでもある。
これまでのCO₂回収技術(CCUS)は、アミン水溶液などを用いた化学吸収法が主流だったが、排ガスの事前除湿やCO₂を取り出す際の加熱エネルギー、設備コストが普及の壁となっていた。
同時に、回収したCO₂を地下に埋める(CCS)だけでなく、化学品や燃料へと再資源化する(CCU)ための高効率な触媒技術が求められてきた。
多孔性配位高分子/MOFの基礎研究から生まれた材料設計と、東北大学などの先端触媒科学。それぞれ独立して進化する技術群のボトルネックが解消されることで、煙突から空へ逃げていた炭素を、再びものづくりの起点へと引き戻す道筋が見え始めている。

街の境界に建つ、清掃工場の高い煙突。
そこから立ち上る白い排気は、都市が便利に暮らした結果として吐き出される、不可避な炭素の終着点だった。
だがいま、その煙突を「資源の採掘現場」へと見立て直す試みが始まっている。
2026年9月、ノーベル化学賞にもつながった多孔性材料研究の知見を活かし、ごみ焼却の実排ガスから事前除湿を行わずに低エネルギーでCO₂を回収する実証が、東京の多摩地域で始まった。
そして時をほぼ同じくして、CO₂を効率よく有用化学品の原料へと組み換える、次世代の金属単原子触媒が開発された。
空へ捨てていた炭素を捉え、分子の形を変えて街へ戻す。
それは、化石燃料を掘り出す地下の鉱山に依存する社会から、都市の排出物を循環させる「地上の炭素鉱山」への転換である。
二つの先端技術が切り拓く、炭素修復の現場を追う。

クリーンプラザふじみの挑戦――ノーベル賞につながったMOFの力

2026年9月3日、JFEエンジニアリングは、東京都の「ふじみ衛生組合 クリーンプラザふじみ(三鷹市・調布市)」において、金属有機構造体(MOF:Metal-Organic Framework)を活用した排ガスCO₂分離回収の実証試験を開始した。ごみ焼却処理施設の実排ガスを用いたMOFによる回収実証は、同社調べで国内初の試みとなる。
実証期間は2026年度末までを予定している。
この技術の基盤にあるのは、MOF研究のパイオニアとして2025年にノーベル化学賞を受賞した京都大学の北川進特別教授との共同研究だ。JFEエンジニアリングは2021年度から北川氏の研究グループと連携し、実用化に向けた吸着材開発を進めてきた。
これまで清掃工場の排ガスからCO₂を回収する際、大きな障害となっていたのは排ガスに含まれる「水分」と「希薄なCO₂濃度」だった。
清掃工場の排ガスは水分を多く含み、CO₂濃度はおよそ10%程度と比較的薄い。従来のアミン吸収法などでは、水分が回収効率を落とすため大規模な事前除湿設備が必要となり、設備投資とランニングコストを著しく押し上げていた。
今回投入されたMOFは、金属イオンと有機配位子が規則正しく結びついた、ナノメートルサイズの無数の孔を持つ多孔性結晶材料だ。北川氏らとの共同研究で見出されたこのMOFは、CO₂と水を同時に吸着・脱着できる特性を持つ。これにより、水分を含む清掃工場排ガスを事前に除湿せず、低消費エネルギーでCO₂を分離・回収する独自プロセスの確立を目指している。

共同研究で見出したMOF
清掃工場(クリーンプラザふじみ)

加熱しない、除湿しない――省エネ回収が変える清掃工場の採算

この実証における技術的な特徴は、回収工程におけるエネルギー消費の抑制にある。
従来技術では、一度液体や吸着材に捕まえたCO₂を分離・取り出すために、100℃以上の蒸気などで加熱する必要があった。この熱エネルギーの調達が、ごみ発電の売電量を減らしたり、追加のエネルギー消費を生んだりする課題を抱えていた。
これに対し、JFEエンジニアリングが検証するプロセスは、事前の排ガス除湿を行わずに直接MOFにCO₂と水を吸着させ、脱着時にも加熱を行わない。
真空ポンプで圧力を下げる(減圧する)だけで回収する「減圧脱着」のメカニズムを採用している。
事前除湿を行わず、かつ非加熱での減圧脱着が成立すれば、回収に要するエネルギーコストは従来法から低減される。
ノーベル化学賞にもつながった基礎科学の知見が、コストやエネルギー負荷に悩んできた清掃工場の実務現場へと接続され、現実的な選択肢としてのCCUSへ一歩近づくことになる。

MOFによる吸着プロセスフロー図

捕まえた炭素の行方――99%の選択率でギ酸をつくる単原子触媒

しかし、CO₂を省エネルギーで回収できたとしても、その使い道がなければ循環は成立しない。地中に圧入・貯留するCCSには適地やコストの制約があるため、化学原料として再利用するCCU技術の実用化が不可欠となる。
その「出口」の領域で、注目すべき成果が発表された。
9月7日、東北大学、筑波大学、京都大学、アイントホーフェン工科大学、金沢大学、大阪大学の共同研究グループは、貴金属であるルテニウム(Ru)を炭素材料中に単原子の状態で高密度に固定化した「Ru単原子触媒」の開発を発表した(研究成果は2026年9月3日付でドイツ化学会の学術誌『Angewandte Chemie International Edition』に掲載)。
この触媒をCO₂の水素化反応に用いたところ、99%以上の高い選択率で有用化学品であるギ酸(HCOOH)を生成することに成功した。さらに、繰り返し使用してもRu原子の凝集は見られず、安定した触媒性能を示した。
副生成物が極めて少ない高選択率な合成が可能になれば、将来的には、副生成物の分離や精製にかかる負担を抑えるうえでも有利に働く可能性がある。
合成されたギ酸は、農薬や繊維処理の原料、防腐剤として産業用途が広いだけでなく、近年は水素を安全に貯蔵・運搬できる「有機ハイドライド(水素キャリア)」としての活用も期待されている。
煙突から回収した気体が、エネルギーや化学産業を支える液体資源へとつながる可能性を示した。

点と点をつなぐ――都市型カーボンリサイクルの修理工程

重要なのは、JFEエンジニアリングの回収実証と、東北大学の触媒開発は、現状では直接結びついたひとつの共同プロジェクトではないという点だ。
しかし、この2つのニュースが同じ時期に登場したことは、サーキュラーエコノミーの視点から示唆に富んでいる。
従来、CO₂対策は「排出量をどう減らすか」という守りの議論に終始しがちだった。
だが、いま起きているのは、

第1工程(捕集):ノーベル化学賞にもつながったMOF研究の成果を活かし、都市の排ガスから低消費エネルギーでCO₂を回収する

第2工程(変換):単原子触媒によって、再生可能エネルギー由来の水素とともに高品位な化学原料(ギ酸等)へ組み換える

第3工程(利用):都市の物流燃料、水素エネルギー、あるいは工業製品の原料として消費する

という、壊れていた炭素の物質循環を一本のラインとしてつなぎ直す「修理工程」の模索である。
基礎科学の知見と応用工学の現場がそれぞれのボトルネック(捕集時のエネルギーロス、変換時の副反応や効率)を個別に突破し始めたことで、技術と技術が線として接続される将来像が描きやすくなっている。

煙突を「炭素鉱山」へ変えるインフラ設計

もっとも、今回のMOF実証は1日あたり数kgレベルのCO₂回収性能を確認する段階であり、ただちに清掃工場が大規模な炭素資源供給拠点になるわけではない。
それでも、都市の排ガスを「捨てるもの」ではなく「回収し、使い直すもの」として扱う発想は、清掃工場の役割を大きく変える可能性を持っている。
日本全国には多数のごみ焼却施設が存在し、都市の生活圏に近接しながら日々安定して稼働している。
これまで都市の衛生を保つ裏方インフラだった清掃工場が、MOFと先端触媒の接続によって、炭素資源を回収する「炭素鉱山」へと役割を変えていく未来は、少しずつ現実味を帯びている。
実証規模から商用プラントへのスケールアップや、水素調達のコスト、サプライチェーンの制度設計など、乗り越えるべきハードルは多い。
しかし、地下から化石資源を掘り出す一方通行の文明から、都市が吐き出す気体を素材に戻す循環型の文明へシフトするためには、こうした要素技術の有機的な連環が欠かせない。
都市の排出インフラを手入れし、循環の起点へと仕立て直す試みが、東京の焼却施設から始まっている。

【参考】

JFEエンジニアリング:清掃工場におけるMOFを用いたCO₂分離回収の国内初実証試験を開始(2026年9月3日発表)
https://www.jfe-eng.co.jp/news/2026/20260903.html

東北大学:CO₂を高選択的にギ酸へ変換する高密度Ru単原子触媒の開発(プレスリリース/2026年9月7日公表)
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2026/09/press20260907-01-ruthenium.html

ふじみ衛生組合:クリーンプラザふじみ 施設概要
https://fujimieiseikumiai.jp/

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