デンカアステック株式会社は、60年以上にわたり培ってきた雨どい製造の技術をもとに、平常時と災害時の双方に機能する「フェーズフリー防災」システムを開発している。雨水の集排水に関する専門性を生かし、日常生活での水利用から豪雨・地震災害時の水確保や浸水対策までを一貫して担う仕組みは、世界初の挑戦として注目される。

雨水を“捨てる”から“活かす”へ。日常と非常時をつなぐ仕組み。

「防災」というと、多くの人が特別な準備や備蓄を思い浮かべるだろう。しかしデンカアステックが進める「フェーズフリー防災」は、日常生活の中で使っている仕組みがそのまま非常時にも機能する点に特徴がある。
第一の柱は雨水の利活用だ。家庭用水の2割以上を占めるトイレ洗浄に、雨水を日常的に活用できる「雨水タンクシステム」を開発。これにより平常時は環境負荷を軽減し、断水時には無電力で使用可能なトイレ水源を確保できる。従来の仮設トイレ不足や衛生環境悪化といった避難所の課題に対し、家庭レベルでの自立的な備えを可能にする技術だ。

第二の柱は豪雨災害への対応である。近年頻発する内水氾濫では、床下浸水による生活基盤の破壊が深刻な問題となってきた。火災保険が適用されないケースが多い45センチ未満の床下浸水に対し、同社は世界初となる「フェーズフリー型浸水対策資材」を開発中だ。一度設置すれば日常時は意識せずとも稼働し、非常時に自動的に効果を発揮する仕組みで、すでに草加市の実験施設で検証が始まっている。

浸水対策資材検証装置

この発想の背景には、2014年に提唱された「フェーズフリー」という新しい防災概念がある。日常と非常時の境界を取り払い、どの局面でも自然に役立つ仕組みをつくること。直感的に使え、普及しやすく、災害への意識を常に喚起するデザインが求められる。雨どいメーカーとして積み重ねてきた「水を集め、流す」技術を社会インフラへ昇華させようとする同社の挑戦は、この理念を体現している。
災害大国・日本において、備えを「特別な行為」とせず生活の延長に組み込むことは、これからの防災の方向性を示している。雨どいから始まった技術が、いつかは街全体を守るインフラへと拡張するかもしれない。雨水を“活かす水”へ転換するデンカアステックの取り組みは、防災の未来像を描く試金石になるだろう。

ホームページはこちら