★ここが重要!

★要点
大日本印刷(DNP)と横浜市立大学COI-NEXT拠点「Minds1020Lab」が、オリジナルキャラクターを介したオンラインカウンセリング「アニメ療法®」の実証実験を開始。18〜29歳を主対象に、全6種のキャラクターから選び、心理士がアバターで介入し、前後の心理指標で効果測定する。
★背景
若年層の“生きづらさ”と支援アクセスのギャップが拡大。医療の外側にある資源を組み合わせる「社会的処方」の潮流が広がる中、物語への没入・感情移入を活用するデジタル介入で、偏見の壁・通院ハードル・人手不足をまたぐ新しいケアの回路が求められている。

医療とコンテンツの距離を、キャラクターが縮める。DNPと横浜市立大学COI-NEXT「Minds1020Lab」は、若者の“生きづらさ”に向けたオンラインの「アニメ療法®」実証を立ち上げた。アバターの心理士と出会い、物語を通じて自己を語り直す。目的は単純だ。支援にたどり着けない人の前に、軽くて近い入り口を置くこと。

キャラクターを“もう一人の自分”に。6種のアバター×オンライン面接

アニメ療法の提唱者であるパントー・フランチェスコさんは、この療法について、「フィクションの要素を持ちながら、人間の葛藤、身体的、関係的、社会的苦悩をリアルに描く作品の鑑賞を通じて、精神の治癒効果を狙う療法」と定義する。
実証の設計は明快だ。参加者(18〜29歳)は、物語背景を備えた6種類のオリジナルキャラクターから“伴走者”を一つ選ぶ。心理士はそのアバターを自らの姿として介入し、オンラインでカウンセリングを実施。セッション前後に標準化された心理指標への回答を行い、効果を数値で追う。
対面を前提にしない。表情や声色のプレッシャーを和らげ、匿名性と投影の余地を広く確保する。相談の最初の一歩でつまずく若者に、アクセス可能な“低摩擦”の場をどう作るか。その問いに対する、キャラクターという実装。

“物語の処方箋”はなぜ効くのか? 没入と投影、語り直しの力

アニメ療法の要は、感情移入と自己物語の再構成にある。フィクションであっても、葛藤や疼痛に触れる作品は、現実の体験を遠回しに扱う安全地帯になる。キャラクターを介して距離を取りつつ、自己像に光を当てる。
重要なのは、作品を見せること自体ではない。選定、視聴前の目標設定、視聴後の言語化、そして心理士によるメタ認知の支援——この一連のデザインが“効き目”を生む。DNPはキャラクターデザインとシステム構築を担い、学術拠点は臨床設計と評価を司る。産学連携の分業で、再現性と継続運用を狙う。

社会的処方としての実装、医療の外側をつなぐ設計

薬と診断だけが解ではない。孤立・就労・学業・家庭——医療化しきれない問題群に対して、地域・教育・カルチャーを束ねる「社会的処方」が国際的に浸透してきた。今回の実証は、文化資源(アニメ/キャラクター)を心理支援の“ハブ”に据え、必要に応じて医療・福祉・教育へ橋渡しする回路づくりでもある。
オンラインで完結する強みは、地理・時間・費用の制約を削る点だ。反面、継続率や重症度への配慮、個人情報の守り方など課題も明確になる。実証は2026年6月まで。エビデンスと運用ノウハウがそろえば、自治体・学校・企業のウェルビーイング施策に展開する余地は大きい。

評価と標準化、そして“偏見のない窓口”へ

社会実装の鍵は三つあるだろう。第一に評価。心理指標の変化だけでなく、離脱率・再来率・相談先への接続率を追うこと。第二に標準化。作品選定プロトコル、セッション構成、倫理・セキュリティの指針を公開し、外部検証に耐える形にすること。第三に窓口。若者が最初にアクセスする場所(学校・SNS・コミュニティ)へ、偏見のない導線を張ることだ。
キャラクターは逃避の装置ではない。自分に近づくための媒体だ。物語が心の筋力を取り戻す手がかりになるなら、支援の入口はもっと増やせるはずだ。

※オンライン実証の参加案内(募集枠に達し次第終了):
https://forms.office.com/Pages/ResponsePage.aspx?id=Zm1jvv7LuEGJXO5cvYvHVUyuGMYOnwNOl5LCmE2cbjlURVdQWThQSjNYWkNITVY1WEVQNFBJVEYyQi4u
アニメ療法について
https://shinsho.kobunsha.com/n/n5fc4ffa25f20

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