★ここが重要!

★要点
Vanguard Industries・東芝・協和海運の3社が、大洋州の未電化地域に電力を届ける新会社「Radiant Technologies(RT)」を設立。バヌアツの商店を拠点に、太陽光発電とアプリ決済を組み合わせたランタン・バッテリーの貸出サービスを開始し、“電線に頼らない”インフラ構築に挑む。
★背景
気候変動の影響を強く受ける島しょ国では、災害への脆弱性と化石燃料依存が課題。大規模な送電網整備が困難な地理的条件下で、再エネ×デジタルの分散型モデルが、生活向上と脱炭素を両立させる現実解として期待されている。

巨大な発電所も、島を横切る長い送電線もいらない。必要なのは、南国の強い日差しと、小さな蓄電セット、そしてスマートフォン。バヌアツ共和国で、新しい電力のかたちが動き出した。Vanguard Industries、東芝、協和海運が立ち上げた「Radiant Technologies」は、島の商店をエネルギーの結節点に変える。巨額投資を待つのではなく、手元の技術で今すぐ灯りを届ける。これは、インフラ整備の順番を書き換える実験で、国境を越えた技術と物流の実践だ。

商店が“発電所”になる——DEPから生まれたエネルギーキオスク

仕組みはシンプルで、力強い。バヌアツのマランパ州、未電化地域の商店(キオスク)に太陽光発電システムを設置する。住民はここで充電済みのLEDランタンやモバイルバッテリーを借り、使い終われば返しに来る。決済はスマートフォンアプリで完結。スマホ決済で利用量に応じて支払える、小口課金型のモデルだ。 この原点は、東芝の社内プログラム「みんなのDX」から生まれた「Delighting Everyone Project(DEP)」にある。大企業のR&D部門で温められた技術と知見を、新会社RTとしてカーブアウト(切り出し)させた。現地で回るオペレーションを確立するため、資産だけでなく、人の知恵ごと移管する。高価な初期投資を住民に強いることなく、「日々の買い物ついでに電気を手にする」という生活動線に組み込まれた、無理のない電化だ。

“届かない場所”をなくす——分散型というレジリエンス

なぜ、この方式なのか。島しょ国において、全土をカバーする送電網(グリッド)の整備は、コストと時間の両面で現実的ではない場合が多い。サイクロンなどの災害時には、大規模集中型のシステムほど復旧に時間を要する脆さもある。 RTが目指すのは、グリッドの到達を待たない「オフグリッド」の解決策だ。各集落でエネルギーを自給し、消費する。小さく分散したシステムは、一部が被災しても全体が止まることはない。バヌアツの「国家エネルギーロードマップ」が描く未来とも合致する。物流を担う協和海運の航路網が、機材の供給を支え、東芝のIoT技術「TOSHIBA SPINEX for Energy」を活用し、運用データの可視化や事業運営を支える。物理的な距離と管理の壁を、デジタルの力で越えていく。

DEPにおけるバヌアツ共和国でのサービスの利用風景

3社の歯車がかみ合う——技術・事業・物流の結合

このプロジェクトにおいて、技術の東芝は、エネルギー管理と決済システムの信頼性を担保する。事業構築のVanguard Industriesは、ベンチャービルディングの手法で、大企業のシーズを市場適合させるスピードとかじ取りを担う。そして協和海運は、半世紀にわたり大洋州で築いた物流網と信頼関係を提供する。 技術があっても、運べなければ使えない。モノがあっても、ビジネスとして回らなければ続かない。三者が揃うことで初めて、支援ではなく「事業」としての持続可能性が見えてくる。

夜が長くなれば、可能性が広がる

電化の意味は、単に明るくなることにとどまらない。夜、子どもたちが本を読める時間が増える。大人が副業や手仕事をする時間が生まれる。情報の窓口であるスマートフォンの充電が容易になれば、孤立も防げる。 バヌアツから始まったこの灯りは、同じ課題を抱える近隣の島々へ、さらには世界の未電化地域へと広がるポテンシャルを秘めている。小さなバッテリーがリレーされ、人々の時間を豊かにする。巨大なインフラが整備されるのを待つ数十年を、今すぐ埋める現実的な希望。RTの挑戦は、その第一歩を刻んだ。

会社概要
Radiant Technologies株式会社(Radiant Technologies, Inc.)
設立:2025年3月
事業内容:大洋州の小島嶼開発途上国の未電化地域向けエネルギーシェアリングサービスの開発、運営
URL:https://rtech.it.com

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