
★要点
JR小山駅に、ゴミを約5分の1に自動圧縮し、満杯状況を通信で知らせるスマートゴミ箱「SmaGO」が計9台導入。観光庁採択事業として、北関東の主要ターミナル駅でごみ回収の効率化と美観維持を同時にねらう。
★背景
人流増加と人手不足が重なる中、観光地・ターミナル駅ではごみ問題がインフラ課題になりつつある。IoTと圧縮機構を組み合わせたスマートごみ箱は、回収回数の削減とポイ捨て抑制を両立し、“ごみを減らしながら都市体験を上げる”新しい装置として広がり始めた。
駅のごみ箱は、ふだん意識されにくいインフラだ。だが、観光客と通勤客が交錯するターミナルでは、一日の人流をもっとも正直に映す存在でもある。栃木県のJR小山駅に導入されたスマートゴミ箱「SmaGO」は、その“当たり前の箱”を、データを生む環境装置へと変えようとしている。ごみを自動で圧縮し、満杯のタイミングを知らせ、清掃回数を減らす。オーバーツーリズムと人手不足が同時進行する日本の駅で、静かに始まった「ごみインフラDX」の実験だ。
新幹線停車駅がラボになる。ごみ箱から始める駅インフラのアップデート
JR小山駅は、東北新幹線と在来線3路線が交差する北関東の結節点だ。通勤客に加え、ビジネス客や観光客が行き交うこの駅では、人流増加とともにごみも増え、回収回数と清掃負担が重くのしかかってきた。
導入されたのは、フォーステックが展開するスマートゴミ箱「SmaGO」。駅構内の3カ所、新幹線・在来線それぞれの改札内コンコースに、一般ごみ・ビン・カン・ペットボトルの分別セットを含む計9台が並ぶ。見た目はJR東日本カラーの緑×白で統一された、少し大きめのごみ箱だが、その内部は従来とまったく違う。
人が増えるほどごみ箱はすぐ満杯になり、回収頻度は上がる。だがスタッフの人数は簡単には増やせない。高齢化と人手不足が同時に進む中、駅の清掃は「気合と根性」だけでは回らなくなっている。小山駅は、そんな現場課題を正面から認めたうえで、「ごみ箱そのものを賢くする」という解き方を選んだ。
ターミナル駅は、地域にとっては巨大なショーウインドウであり、観光客にとってはまちの第一印象を決める空間でもある。ポイ捨てごみが目立てば、ブランド力より先に「だらしない印象」が刻まれる。SmaGOは、駅の“顔”を守るための、見えにくいインフラ投資でもある。

ごみを約5分の1に圧縮する。IoTスマートゴミ箱のしくみ
SmaGOの特徴はシンプルだが強力だ。
ひとつ目は「圧縮」。内部に搭載した圧縮機構で、ごみを自動的に押し固める。結果として容量は約5分の1に圧縮され、同じ容積でも従来のごみ箱の数倍のごみをため込める。表参道・原宿エリアでは回収回数を約75%削減、大阪・道頓堀エリアでは周辺のポイ捨てごみを約90%減らしたという導入効果が報告されている。
ふたつ目は「つながること」。蓄積量はセンサーで計測され、満杯の手前でクラウドに通知される。清掃スタッフは、感覚ではなくデータで回収ルートを組めるようになり、「とりあえず一周見て回る」巡回は減らせる。
三つ目は「見せ方」だ。SmaGOはラッピングデザインを自由に変えられる。分別ルールをわかりやすく伝えるサインから、企業協賛や観光PRまで、ごみ箱を“町のメディア”としても使える。広告収入で運用コストの一部をまかなう設計も可能だ。
IoT機器としてのスマートさと、単なる箱ではない「見せる器」としての顔。その両方を持つことで、SmaGOは“ごみ問題”を「環境活動」や「まちのブランディング」へと接続する。

観光公害と人手不足、“ごみ”が先に悲鳴を上げる
観光客が増えれば売上は伸びる。だが、最初に悲鳴を上げるのは収容人数ではなく、ごみ箱とトイレだ。
インバウンドの回復と国内旅行の増加で、地方都市のターミナル駅には再びスーツケースがあふれている。一方で、ごみ収集や清掃を担うのは、非正規や高齢スタッフに依存しがちな現場だ。人件費は抑えられがちで、採用も難しい。結果として、増えるごみと減る人手の板挟みになる。
観光地の「オーバーツーリズム問題」は、混雑や騒音だけでは語れない。路地裏のごみ、満杯のごみ箱、あふれたペットボトル。それらは、市民生活と観光の摩擦が最初に現れる場所だ。
SmaGOのようなスマートごみ箱は、決して魔法の箱ではない。だが、ごみ量の“見える化”で、イベントやシーズンごとのピークを把握する。そのデータをもとに、清掃シフトやごみ箱の配置計画を組み替える。さらに、ポイ捨てが減ったエリアの様子を、市民と共有する、といったサイクルの起点になりうる。
ごみを拾う人の善意だけに頼るのではなく、「ごみがたまる前に動ける仕組み」を作ること。都市の急増する負荷に対して、そうした“予防型のごみマネジメント”へ移行することが、これからの観光地やターミナル駅の条件になりつつある。
駅は“環境インフラ”のショーケースになれるか?
SmaGOの導入は、駅にとって単なる清掃効率化の話にとどまらない。
駅は毎日数万人が必ず通過する公共空間だ。新しい環境技術を社会に見せる「ショーケース」としても最適な場所である。そこに置かれたスマートごみ箱は、回収回数の削減によるCO₂排出の低減、ポイ捨て減少による景観保全、分別促進によるリサイクル率向上といった効果を目に見える形で示すことができる。
ラッピングに「このごみ箱は太陽光で動き、ごみ回収トラックの走行を減らしています」と書けば、それ自体が環境教育になる。「ごみを出さない」「資源を循環させる」という抽象的なメッセージが、駅の日常風景の中で具体的なインフラとして立ち上がる。
すでに不要品回収を可視化するデジタルサービスや、資源循環のプラットフォームは各地で立ち上がりつつある。ごみに新たな価値を与え、自治体と生活者をつなぐ試みも進んでいる。
駅のスマートごみ箱は、それらと連携しうる「リアルの入口」だ。駅で集めたデータが、まち全体の資源循環やごみ削減施策へとつながっていく。
鉄道駅2例目となる小山駅での導入は、北関東の一拠点の話で終わらせるには惜しい。人手不足に悩む地方都市、観光公害に直面する人気エリア、ポイ捨てに頭を抱える繁華街——それぞれの現場でSmaGOのようなスマートインフラが「ごみとの付き合い方」を更新していくとき、駅や街路は、より静かで清潔で、働く人にとっても持続可能な場所へ近づくだろう。
ごみ箱は、ただ“捨てる場所”ではなくなる。都市のストレスと環境負荷を吸収し、未来に向けてデータを吐き出し続ける、小さな社会インフラ。その変化は、足元から始まっている。
ホームページはこちら
あわせて読みたい記事

東京ドームシティ、IoTスマートゴミ箱「SmaGO」を、国内過去最大規模となる118台一斉導入!

【生成AIが“ごみ分別”を変える?】NECソリューションイノベータ「ごみ処理ゲーム」が示した行動変容のリアル。

不要品の価値を最大化する「Trash Lens」、対応自治体を400以上拡大
