
★要点
建設現場から排出される廃木材を、同用途の建築資材へと再生して現場へ戻す「水平リサイクル」の社会実装が、床下地材の領域で動き出した。
木質系再生建材の製造を手がける東京ボード工業株式会社と、集合住宅用床下地システムを展開する三洋UD株式会社(三洋工業グループ)は2026年9月8日、建設現場で発生する木くずを回収し、再び床下地材として製品化して供給する「完全循環リサイクル」を共同で開始したと発表した。
特徴的なのは、三洋UDの遮音二重床システム「UDシステムフロア」を採用する新築や改修の施工現場から発生する木くず(端材)を直接回収する点にある。三洋工業・三洋UDが保有する環境省の「広域認定制度」を活用し、東京ボード工業の子会社であるティー・ビー・ロジスティックスが製品納入と端材回収を一元化して担う。回収した木くずを原料として活用し、環境認証を取得済みの再生パーティクルボード「E・V・A®ボード」を製造、再び「UDシステムフロア」の下地材として現場へ再投入する。
動脈物流と静脈物流を統合し、建築物のライフサイクルアセスメント(LCA)におけるCO₂削減ニーズに応える、都市型建設サーキュラーの現場を読み解く。
★背景
日本の建設業界において、建設発生木材の再資源化・縮減率は統計上9割を超えている。しかし、その内訳は製紙用チップや木質バイオマス発電の燃料といった熱回収・カスケード利用も多く、同じ建材へと戻る「マテリアルリサイクル(水平循環)」の比率は決して高くなかった。
一般に解体現場から出る木材は、接着剤、塗料、金具、コンクリート片などが混入しやすく、高品位な再生建材の原料として選別・加工するには相応のコストと負荷がかかる。
これに対し、新築や内装改修の施工現場で発生する端材は、異物混入が少なく、素材の素性が明確な「高純度な木質資源」になり得る。
また、近年の脱炭素化の潮流に伴い、建物運用時の省エネ(オペレーショナルカーボン)だけでなく、建材の製造・輸送・施工段階で発生する温室効果ガス(エンボディドカーボン)の可視化と削減が、デベロッパーやゼネコンにとって重要な課題となりつつある。
施工現場で出る端材を捉え、再び建設現場の床下地材として戻す仕組みが求められていた。
マンションの建設現場では毎日、真新しい木質ボードが職人の手によって採寸され、丸鋸で切り落とされている。
現場の片隅に積み上がるその端材は、数分前まで新品の建材だったものだ。
けれど、一度床から切り離されれば、それは「産業廃棄物の木くず」として分別され、燃料やチップなど、床下地材とは異なる用途へと回っていく。
2026年9月、東京ボード工業と三洋UDが発表したのは、その切り落とされた木くずを、再び次の床下地材へと直接戻す循環の回路だった。
建物を解体する数十年後を待つのではない。
いま建物を建てている足元で発生した端材を、自前の物流網で回収し、再生ボードへ仕立て直して現場へ送り返す。
動脈と静脈の壁を取り払ったとき、建設現場はどのような循環の起点へと変わるのか。
現場発生材に着目する――高純度資源を捉えるサーキュラー
今回の取り組みの核心は、リサイクルのターゲットを「UDシステムフロア」の施工現場で発生する木くずに定めた点にある。
一般的な建物の解体木材は、長年の使用による経年変化に加え、接着剤や釘・金物の混入が避けられず、再資源化の用途が限定されやすい側面がある。
一方で、マンションやビルの内装工事において、床下地を部屋の形状に合わせてカットする際に生じる「施工現場の木くず」は、状態が極めて良い。
不純物の混入が少なく、どの製品から切り落とされたかが現場で特定できるため、原料としての均一性と安全性が高い。
これまで廃棄物として処理されていた現場発生材に焦点を当てることで、同等の性能を持つ建材へと再生するハードルを大幅に下げている。
広域認定と帰り便――動脈と静脈を統合するロジスティクス
しかし、どれほど良質な端材であっても、現場から工場までの回収コストと運搬時の環境負荷がかさんでしまっては、経済的にも環境的にもリサイクルは成立しにくい。
ここで力を発揮したのが、制度と物流の組み合わせである。
通常、建設現場から出る産業廃棄物を運搬・処理するには、自治体ごとの収集運搬業許可が必要となり、手続きと管理が煩雑になる。これに対し、本スキームでは三洋工業・三洋UDが環境大臣から取得している「広域認定制度」を活用している(東京ボード工業へ運搬・処分を委託)。これにより、広域にまたがる現場から自社製品由来の木くずを適正かつスムーズに自社回収できる法的枠組みを確保した。
さらに、実運搬を担うのは東京ボード工業の物流子会社である株式会社ティー・ビー・ロジスティックスだ。
新建材を建設現場へ納入したトラックが、空荷で戻るのではなく、その足で現場の施工木くずを積み込んで工場へと持ち帰る「帰り便」の運行を実現させた。
配送(動脈)と回収(静脈)を一元化することで、収集運搬にかかる追加コストを抑制し、トラック走行に伴う環境負荷の低減を図っている。


回収木くずを活用した「E・V・A®ボード」から「UDシステムフロア」へ
工場へと運ばれた木くずは、東京ボード工業の再資源化ラインへ投入される。
同社は、都市部から排出される廃木材を選別・チップ化し、木質廃棄物をほぼ100%原材料とする建築用パーティクルボード「E・V・A®(エバ)ボード」を製造する専門技術を持つ。
今回の取り組みでは、回収された施工木くずを100%原料として活用し、環境配慮型パーティクルボード「E・V・A®ボード」を製造。
そして、この再生ボードを床下地材として組み込むのが、三洋UDの集合住宅用二重床システム「UDシステムフロア」である。
「UDシステムフロア」は、コンクリートスラブの上に支持脚を立て、その上に下地パネルを敷くことで高い遮音性能と歩行感、バリアフリー性を実現する置床システムとして、集合住宅等に広く採用されている。
施工現場で床をつくるために切られた木くずが、工場で再生ボードになり、再び建設現場の「UDシステムフロア」の床下地として戻ってくる。
用途を大きく変えず、床下地材として再び建設現場へ戻すクローズドループ型の水平循環が実現しつつある。



EPD認証と建築物LCA――「素性の見える素材」が持つ価値
この水平循環モデルは、建設業界が直面する構造的な課題解決にも直結している。
近年、建築分野では環境性能評価において「建築物LCA(ライフサイクルアセスメント)」の導入が急速に進んでいる。建物の設計から解体に至るライフサイクル全体のCO₂排出量を算定するなかで、建材そのものが製造・輸送過程で排出する「エンボディドカーボン」の削減が焦点となっている。
木材は本来、大気中の炭素を内部に固定する素材である。
端材を再び建材として固定し直すことは、焼却による即時的なCO₂放出を避け、木材由来炭素を建材内に留める期間を延ばす効果が期待できる。
さらに、「E・V・A®ボード」は国際規格の「EPD International」や国内の「SuMPO EPD」といった環境製品宣言を取得済みであり、環境負荷データの透明性が担保されている。
回収元と再資源化プロセスが明確で、第三者認証に裏打ちされた素材であることは、ゼネコンや建築主が建物のライフサイクル環境性能を定量的に証明するうえで、確かな武器となる。

現場を循環の起点にする、建設メンテナンスの思想
これまで、サーキュラーエコノミーの議論は「いかに長持ちさせ、いかに綺麗に壊すか」という建物の入口と出口に偏りがちだった。
だが、建物を建てる「プロセスの途上」にも、多くの資源の出入りが存在する。
東京ボード工業と三洋UDの試みは、日常的な施工プロセスの中で生じる端材を不可視の廃棄物として見過ごさず、再び生産ラインへつなぎ戻す動的な資源管理の実践である。
製造メーカー、床施工システム会社、そして物流子会社。それぞれの強みを持ち寄り、制度と現場オペレーションを噛み合わせることで、完全循環リサイクルのモデルを形にした。
床下地という、完成した建物の表面からは見えない構造体。
目立たない足元から始まったこの水平リサイクルの仕組みは、建設業界が使い捨ての慣習を脱し、都市の中で資源を回し続けるための確かな手本を示している。
【参考】
三洋UD株式会社:ニュース「持続可能な社会に向け、三洋UDは東京ボード工業と共に資源の完全循環モデルを実現しました。」
https://sanyoud.jp/archives/news/%e6%8c%81%e7%b6%9a%e5%8f%af%e8%83%bd%e3%81%aa%e7%a4%be%e4%bc%9a%e3%81%ab%e5%90%91%e3%81%91%e3%80%81%e4%b8%89%e6%b4%8bud%e3%81%af%e6%9d%b1%e4%ba%ac%e3%83%9c%e3%83%bc%e3%83%89%e5%b7%a5%e6%a5%ad%e3%81%a8
環境省:廃棄物処理法に基づく広域認定制度の概要
https://www.env.go.jp/recycle/waste/kouiki/
あわせて読みたい記事

【解体した後から、次の建設を考える】窓ガラスは窓へ、風車ブレードは資源へ

【太陽光の「出口」を誰が引き受けるのか】新法成立、義務化の先送り、そして次世代電池の入口

【静脈産業は、美をつくれるか】大栄環境「ONDO」が示す、廃棄物処理業のデザイン戦略
