★ここが重要!

★要点
プラスチックに代わる素材が模索されるなか、バングラデシュの天然繊維「ジュート(黄麻)」が再び注目を集めている。土に還る植物素材としての特性に加え、地域産業や職人文化を支える存在として評価が高まっている。そうした土地の力に着目し、20年以上にわたり現地でものづくりを続けてきたのがマザーハウスだ。
★背景
サステナビリティが企業や消費者の共通課題となるなか、問われているのは環境性能だけではない。素材が生まれる土地や産業、人々の暮らしまで含めて価値を捉える視点である。自然素材への関心の高まりは、「何を買うか」だけでなく、「どんな未来を支えるか」という選択へと広がりつつある。

脱プラスチックの流れが世界で加速するなか、かつて身近だった自然素材が新たな価値を帯び始めている。
その一つがジュート、別名・黄麻だ。バングラデシュでは「黄金の糸」と呼ばれ、長年にわたり地域経済を支えてきた植物繊維だ。環境配慮型素材として注目される一方、その価値は素材そのものにとどまらない。土地の気候、農業、職人の技術、そして産業の歴史を映し出す存在でもある。
近年、そうした地域資源の可能性に改めて光を当てる動きが広がっている。バングラデシュで創業し、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を理念に掲げるマザーハウスの取り組みも、その流れの中に位置づけられるだろう。

“黄金の糸”と呼ばれる植物繊維

ジュートはインドやバングラデシュを主産地とする天然繊維である。
高温多湿な環境で育ち、比較的短期間で収穫できることから、古くから地域の重要な農産資源として利用されてきた。繊維は麻袋やロープ、敷物など幅広い用途に活用され、現在も世界各地で利用されている。
バングラデシュで「黄金の糸」と呼ばれる背景には、その経済的な重要性がある。ジュート産業は長年にわたり輸出を支え、多くの雇用を生み出してきた。単なる植物繊維ではなく、地域の暮らしと深く結びついた産業資源と言える存在だ。

プラスチック以後の時代に、なぜジュートなのか

近年、ジュートへの関心が再び高まっている。
理由の一つは、生分解性を持つ天然素材であることだ。使用後に自然環境の中で分解される特性を持ち、循環型社会を目指す動きの中で注目を集めている。
世界では海洋プラスチック問題や資源循環への関心が高まり、企業にも素材選択の見直しが求められている。そうした中で、自然由来の素材を改めて活用しようという動きが広がっている。
ただし、ジュートの価値は環境性能だけではない。
土地の気候が育み、農家が栽培し、職人が加工する。その過程そのものが地域の産業や文化を支えている。素材を選ぶことは、そうした背景にある社会や経済との関わりを選ぶことでもある。

バングラデシュを、素材と職人の国として見る

日本ではバングラデシュに対して、「安価な生産拠点」という印象が先行することが少なくない。
しかし、その見方だけでは現地のものづくりの力を十分に捉えることはできない。
株式会社マザーハウス(所在地:東京都台東区、代表:山口絵理子)は2006年、バングラデシュで創業した。創業以来掲げてきた理念は、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」ことだった。
その背景には、途上国と呼ばれる地域にも優れた素材や技術、人材が存在するという考えがある。生産コストの安さだけでなく、地域が持つ創造力そのものに価値を見出そうとする視点だ。
バングラデシュはジュートをはじめとする豊かな天然素材の産地であり、多様な手仕事や職人文化が根付く国でもある。近年はファッションやライフスタイル分野においても、その可能性に注目が集まっている。

バッグの向こう側にある、作り手の顔

マザーハウスは創業20周年を記念し、バングラデシュでのファクトリー見学とモノづくり体験ツアーを実施する。
参加者は自社工場「マトリゴール」を訪問し、職人たちの仕事を間近で見学するとともに、ものづくり体験にも参加できるという。
興味深いのは、この企画が観光ではなく「関係づくり」を目的としている点だ。
グローバル化が進んだ結果、私たちは商品を手にしても、その背景にいる作り手の存在を意識する機会が少なくなった。だからこそ、生産現場を訪れ、実際に働く人々と出会う経験には大きな意味がある。
消費者と生産者が直接つながることで、商品は単なるモノから、人と人を結ぶストーリーへと変わる。

グリーンファクトリーは、地域に開かれたものづくり拠点になるか

2025年には、自社工場マトリゴールの3階増床が発表された。
増床によって生産能力の向上だけでなく、研究開発機能の拡充や雇用創出も期待されている。さらに同社は、学校や保育施設などを併設した「グリーンファクトリー」構想を掲げている。
この構想が目指しているのは、工場を単なる生産設備として捉えないことだ。
働く場であり、学ぶ場であり、地域コミュニティとつながる拠点として位置づける。産業と地域社会が共に発展する仕組みを模索する挑戦とも言える。
持続可能性は、環境だけの問題ではない。地域に雇用が生まれ、人が育ち、産業が続いていくこともまた重要な要素だ。

素材を選ぶことは、未来を選ぶこと

ジュートは、環境配慮型素材として語られることが多い。
しかし、その本質はもっと広いところにある。
そこには土地の気候があり、農業があり、職人の技術があり、地域産業がある。そして、その価値を世界へ届けようとするブランドの挑戦がある。
私たちはバッグや雑貨を選んでいるようでいて、実はその背景にある社会や未来にも目を向けているのかもしれない。
自然素材への関心が高まる今、重要なのは「環境にやさしいかどうか」だけではない。その素材がどこで生まれ、誰によって支えられているのかを知ることだ。
黄金の糸は、今日も世界のどこかで新たな製品へと姿を変えている。
その一本一本が、遠く離れた土地の営みと、私たちの暮らしをつなぎ続けているのである。

ジュート:https://asabo.jp/knowledge/jute/
マザーハウス:https://www.motherhouse.co.jp/pages/about
バングラデシュ モノづくり体験ツアー:https://www.motherhouse.co.jp/pages/bgdtour

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