佐賀県唐津市の横枕地区で、環境省が認定する「自然共生サイト」を舞台にした循環型農業が展開されている。NPO法人唐津FARM&FOODが運営するこの農園では、農薬や化学肥料を用いず、地域の有機資源を活用した栽培が行われ、この土地で育まれたミントやビーツは、単なる作物としてだけでなく、地域の生態系や暮らしとの関係を可視化する存在になっている。

環境省が認定する「自然共生サイト」とは。
「自然共生サイト」は、環境省が2023年度より制度化した、生物多様性の保全と人間活動の両立を目指す取り組み。農地や森林、草地などが、絶滅危惧種を含む動植物の生息・生育環境として機能している場合に、一定の基準を満たすことで認定される。
唐津市横枕地区の農園はこの認定を受けており、耕作地の一部がトンボやカエル、在来種の昆虫などの生息地としての機能を維持しながら活用されている。農業の現場において、自然との共生が制度として評価される例は全国的にも増えており、環境負荷の少ない農法の価値があらためて注目されている。
無農薬・無化学肥料で育つモヒートミントとビーツ。
横枕農園では、豚糞堆肥や鶏灰など、地域の畜産業から出る副産物を活用した堆肥によって土づくりが行われている。農薬や化学肥料を一切使わず、自然の循環を重視した農法が貫かれており、作物はゆるやかに、しかし確実に育つ。
夏季には、香り高い「モヒートミント」と、鮮やかな赤紫色の根菜「ビーツ」が主力作物として収穫される。モヒートミントは、キューバ発祥のカクテル「モヒート」に使われる品種で、炭酸水や冷水に浮かべて楽しむほか、サラダやデザートのアクセントにも適している。農園では食材利用に加えて、ミントの葉を湯船に浮かべて入浴剤代わりにするなど、暮らしの中での多用途利用も紹介している。


一方のビーツは、抗酸化成分ベタシアニンを豊富に含むことで知られ、スムージーやサラダ、スープといった調理例が多い。横枕ではウクライナの人々との交流を通じて、本場のボルシチやビーツサラダ「ヴィネグレット」のレシピが開発され、地域イベントでも活用されている。

農地が担う生態系の一部としての役割。「どこで・どう育ったか」に目を向ける時代へ。
横枕農園の農地は、単に作物を育てる場ではなく、地域生態系の一部として管理されている。例えば、草刈りのタイミングや方法も、昆虫の産卵期や小動物の移動に配慮して決定される。こうした対応は、従来の生産性重視型農業とは異なる視座に基づいており、「農地=人工物」という常識を問い直すものだ。
自然と共生する農業は、気候変動や生物多様性の危機といった課題に対応するための現実的な手法として、今後の農業政策や地域づくりにも反映される可能性が高い。自然共生サイトは、そうした新しい農業モデルの実践と検証の場として機能している。
食品の栄養成分や価格だけでなく、「どこで、どのように育てられたか」という視点が、今後の食の価値を大きく左右する要素になっている。横枕農園のように、自然との共生や地域循環に重きを置いた農業は、そうした視点の広がりを先取りする事例と言えるだろう。消費者の関心が「作物の背景」に及ぶようになった今、生産と環境、地域社会のつながりを可視化できる農のあり方が求められている。


唐津FARM&FOODのホームページ
https://karatsu-f-f.com/
横枕農園のホームページ
https://karatsu-f-f.com/yokomakura.html