
★要点
BASC(Battery Association for Supply Chain)が、電池産業の実装力を底上げする全国型の人材ネットワーク「BATON(バッテリー先進人材普及ネットワーク)」を立ち上げ。設計・製造・リサイクルまでを横断するスキル標準と共通教材で、即戦力を“面”で育てる。
★背景
世界のEV・蓄電市場は急拡大。日本もサプライチェーン再編の渦中にあり、量と質の両面で人材不足がボトルネック。国内製造能力の拡充(目安150GWh級)に向け、教育・現場・自治体をつなぐ“人材OS”の整備が急がれる。
装置より先に人をつくる——。CEATEC会場でBASCが掲げたのは、電池サプライチェーンの隘路を「人材」でこじ開ける構想だった。名称はBATON。企業・大学・高専・自治体を結び、工程横断のスキルを共通言語化。学ぶ→作る→直す→再資源化までを一気通貫で回す。分断された教育と現場を一本線で束ねる試みだ。
分断をまたぐ“共通言語”——スキル標準×共通教材。
電池産業は工程が長い。正極・負極・電解液・セパレータの材料、電極塗工・組立・化成成形の製造、BMSやパック設計、出荷後の評価・回収・再資源化まで、関係者は多層だ。BATONはここに横串を刺す。工程ごとに暗黙知化していたノウハウをスキル標準として可視化し、共通教材に落とし込む。
狙いは三つ。第一に、即戦力の立ち上がり時間を短縮。第二に、工程間の会話を滑らかにし、品質事故の芽を潰す。第三に、地域差・企業規模差を埋める“最低保証”をつくる。結果として、国内の製造・保守の底上げにつながる。

200超の産官学を“面”で動かす——地域クラスターと越境学習。
もう一つの肝は運用設計だ。大学・高専・企業の研修設備や研究棟を“共有実験場”として束ね、地域クラスター単位で学びと実践を回す。たとえば材料メーカーの若手が組立工場でBMS評価を体験し、リサイクル事業者が製造現場の歩留まりデータを学ぶ、といった越境学習を標準メニューにする。
キャリアは垂直ではなく“ジグザグ”に。材料→製造→評価→リサイクルへと移動するロールモデルを整備し、企業間・分野間のハブとなる人材を増やす発想だ。バッテリーは製品であると同時にインフラ。面で普及させるには、人の移動が早いほど強い。

安全と脱炭素のKPIを“人”で担保——実装フェーズに入る日本。
EV・定置用の需要は右肩上がりだが、ボトルネックは現場。歩留まり、異物管理、セルバラツキ、熱暴走、ライフサイクルCO₂。どれも人の判断と習熟が効く。BATONは、技能の習得度を安全・品質・CO₂のKPIとひもづけ、研修と現場成果を閉ループで評価する。
とりわけ重要なのがリユース/リサイクル。二次利用の判定や解体・前処理は事故リスクが高い。標準化された手順教育と実機トレーニングが不可欠だ。バッテリー経済圏の信頼は、最後は“手元の再現性”で決まる。
150GWhの現実解——装置投資と同時に人材投資。
国内の製造能力拡充を現実のものにするには、設備と同時に人材の“先行配備”が要る。装置が届いてから人材募集では手遅れだ。BATONの価値はまさにここ。スキル標準と共通教材を先に用意し、サプライチェーンのどの地点でも同一品質の訓練を受けられる状態をつくる。
結果として、装置立ち上げの期間短縮、品質収束の高速化、そして国内にノウハウを蓄積する“学習効果”が生まれる。外乱に強い供給基盤づくりの基礎体力になる。
Maintainable®︎NEWS EYE
人材OS+地域テストベッドで“即実装”の国へ。
◎BATONを起点に、(1)スキル標準をAPI化して各社の研修SaaSと接続、(2)大学・高専を中心に「セル安全・リサイクル」の常設テストベッドを全国数拠点で共同運用、(3)安全・歩留まり・CO₂の統合ダッシュボードで自治体と共有——の三点を急ぎたい。装置と講義の並走、現場データの往復、地域横断の人材流通。国全体の“学習速度”を引き上げれば、150GWhは数字でなく運用になる。
ホームページはこちら
取材・撮影 柴野 聰
あわせて読みたい記事

世界初! ウランを用いた蓄電池を開発。劣化ウランの資源化で再生可能エネルギーの安定供給へ。

北海道大学、「知のGX拠点」始動。

【東北大学×Nittobo】リサイクルが簡単な電極材料を開発!資源の制約を乗り越えた電池開発に新たな期待。
