★ここが重要!

★要点
利益の100%を地球環境に還元する検索エンジン「Ecosia」が、日本のスマホ新法(スマホソフトウェア競争促進法)の“チョイススクリーン”導入に合わせて日本語インターフェースを公開し、検索という日常行為を気候アクションに変える選択肢が現れた。
★背景
気候危機への不安は高い一方で、行動は伸び悩む日本の現実と、少数の巨大企業が支配してきた検索市場——その二つの“行き詰まり”を、制度改革と「グリーンな検索エンジン」が同時に揺さぶり始めている。

検索バーに指を置く。その一瞬が、地球への投票行動だとしたらどうだろう。
利益の100%を地球のために使い、植林や再生可能エネルギー事業に投資する検索エンジン「Ecosia(エコジア)」が、日本語インターフェースを本格展開した。タイミングを合わせるように、スマホの検索エンジンなど“特定ソフトウェア”の独占を是正する「スマホソフトウェア競争促進法(スマホ法)」が段階的に施行され、12月中旬までに多くの利用者のスマホ画面に「デフォルト検索を選ぶ」ポップアップが表示される。
検索は生活のインフラだ。そのデフォルトを変えることが、気候危機とデジタル独占のどちらにも一手を打つ行為になりつつある。

スマホ新法×エコ検索——“デフォルト”が政治になる

スマホ法は、スマートフォン上で必須となるOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンといった「特定ソフトウェア」に対し、公正な競争環境を整えるための新しい枠組みだ。巨大プラットフォーマーに一定の義務を課し、利用者が自ら選択できる余地を広げる狙いがある。
その象徴が「チョイススクリーン」と呼ばれる仕組みだ。スマホの初期設定時などに、デフォルトの検索エンジンやブラウザを複数の選択肢から選べるようにする。これまで半ば自動的に決められてきた“検索の入口”が、一人ひとりの意思で選び直される。
Ecosiaは、この制度変更のタイミングをにらんで日本語インターフェースを整えた。検索結果ページや設定画面をローカライズすることで、日本の利用者が英語UIの壁を意識せずに使えるようにしたわけだ。
規制の目的は本来、競争促進とイノベーションだ。しかし今回、その副産物として、検索市場に「環境を第一に掲げるプレーヤー」が本格参入する。デフォルトはただの便利設定ではなく、価値観のインフラになる。そんな時代への入口である。

利益100%を地球へ。“検索ビジネス”の再定義

Ecosiaの特徴は、気候危機をビジネスの“外付けCSR”ではなく、事業の中心に据えている点だ。広告収益から運営経費を除いた利益の100%を、植林や再生可能エネルギーなど地球環境のためのプロジェクトに投じると公言し、その仕組み自体を変更できない形でロックしている。
同社はすでに世界35カ国以上で、累計2億4,000万本超の植林を支援してきたと説明する。検索クエリはサーバーを回し、サーバーは電力を消費する。その“もともと環境負荷を伴う行為”を逆手にとり、再エネ電力で賄いながら森を増やす——そんな二重のカーボンオフセット構造を設計している。
加えて、Ecosiaは太陽光発電所のポートフォリオを自社で構築し、「すべての検索を2回まかなえるほどの再エネ電力を自前で生み出している」とアピールしている。いわば検索エンジンであると同時に、再エネ事業者でもある。
従来の検索ビジネスでは、「より多く検索を集める→広告を売る→利益を配当・再投資する」が当たり前の資本循環だった。Ecosiaはその終点を「株主」から「地球」に差し替えた。その違いは、個々のユーザーから見たとき、検索結果のインターフェースの差よりも大きいかもしれない。

気候不安は高い、行動は鈍い。日本の“ねじれ”に差し込む一手

日本人の気候変動への意識は決して低くない。国際調査では「気候変動は自分の日常生活に悪影響を与えている」と感じる人の割合が世界平均を上回る一方、「自分以外の人や政府・企業が十分に行動していない」と見る“他責の感覚”も強いという。
危機感はあるが、どこから何を変えればいいのか分からない。節電やマイボトルといった行動はすでにやっている。だが、もっと構造に効くアクションとなると、ハードルが一気に上がる。この“ねじれ”が、日本の気候アクションのボトルネックになっている。
その意味で、検索エンジンの切り替えは象徴的だ。新たな習慣を一から積み上げる必要はなく、「すでにやっている行為のスイッチ先を変える」だけでいい。検索頻度が高い人ほど環境インパクトは大きくなる。
もちろん、Ecosiaを選んだからといって、すべての問題が解決するわけではない。だが、スマホのデフォルトを見直すという日常的な選択が、「政治や企業に任せきりにしない」という感覚を育てるきっかけにはなる。気候危機を“遠いニュース”から“自分の設定画面”へと引き寄せる行為でもある。

検索窓の向こう側。森とインフラをつなぐ

Ecosiaが資金提供している植林プロジェクトは、アフリカ、ラテンアメリカ、アジアなど多様な地域に広がる。河川流域の再生、農地と森を両立させるアグロフォレストリー、干ばつで傷んだ土地の修復など、対象は単なる“本数稼ぎ”ではなく、地域の生態系や生計回復とセットの取り組みだ。
検索窓のこちら側にいるのは、日本の都市生活者。向こう側には、遠く離れた丘陵地帯や農村の植林現場がある。その距離感は、これまでの寄付プラットフォームとよく似ている。だが検索エンジンの場合、ユーザーにとって「追加コスト」がほとんど発生しない点が決定的に違う。広告収益の配分を変えるだけで、資金の流れを変えられるからだ。
さらにEcosiaは、自社データセンターの電力を再エネで賄うだけでなく、電力網にクリーンエネルギーを供給する発電事業者としても振る舞う。情報インフラとエネルギーインフラを同じ企業が横断して設計する——そんな新しいタイプの“テック企業”像を提示している。
検索結果の精度やスピードは、既存の巨大プレーヤーと比べれば課題もあるだろう。それでも、「自分のオンライン行動がどこにお金を落とすのか」という観点から見れば、Ecosiaのようなサービスは、これからのデジタル・インフラを問い直す実験場になる。

“選べる検索”を当たり前に

スマホ法の本格施行によって、利用者が自分の端末の中身を主体的に選び直す機会は増える。検索エンジンだけでなく、ブラウザやアプリストアも含めて、「なぜこれがデフォルトなのか?」を問い直すことができるようになる。
Ecosiaの参入は、その選択肢のひとつに過ぎない。しかし、「利益の行き先」「電力の出どころ」「植林や社会プロジェクトとのつながり」といった新しい比較軸を、私たちに突きつけている。これまで検索サービスを比べるときの基準は、スピード、精度、UIの好みが中心だった。そこに「地球へのリターン」という項目が加わる。
企業側にも、次の一手が求められる。自治体や教育機関、企業内の端末で、どの検索エンジンを標準にするか。職場や学校単位で、デフォルトを“気候配慮型”にする選択もあり得る。逆にいえば、「なんとなく従来の検索エンジンのまま」にしておくことも、ある種の意思決定になる。
検索することは、考えることだ。そして今、「どの検索エンジンで検索するか」もまた、社会に対する意思表示になりつつある。一本の木を植えるのはハードルが高くても、検索窓の設定を変えるくらいなら、誰にでもできる。
スマホの小さな画面の中に、気候危機とデジタル独占を同時に揺さぶるスイッチが現れた。そのスイッチに手を伸ばすかどうかは、一人ひとりのユーザーに委ねられている。

ホームページはこちら

あわせて読みたい記事

【GOOD NEWS】Ecosiaで「検索」して、地球上に樹を植えよう!

世界32か国調査で日本は最下位。気候変動対策への意識が過去最低水準に。