わずかな光をデジタル処理で増幅する暗所視支援システム。明るい場所で見るのと同様、自然な色彩で映像を再現する
★ここが重要!

★要点
暗い環境でも色の差を強調し、視界に写る対象をAIが判別してテキストで提示するスマートグラスを披露。色の認知補助と状況理解をワンデバイスで実現し、アクセシビリティと安全を同時に押し上げる。
★背景
高齢化、夜間労働の増加、災害時の停電リスク——“見えにくさ”は日常の生産性と安全に直結する課題。エッジAIと軽量光学の進化で、視覚拡張の実装コストが下がった今、ウェアラブル×支援技術の社会実装が加速する。

スマートグラスは、ただ情報を重ねる道具ではなくなった。vixionの新機軸は、暗所で色の違いをはっきりと判別させる表示制御と、視界内の対象をAIが即時に認識して文字で知らせる“認知補助”。視覚の弱点を補い、判断の速さを底上げする。エンタメや観光はもちろん、夜間の作業現場や防災で効くリアルプロダクトだ。

「色がわかる」を軸に——夜・室内・非常時の可視化。

デモの肝は“暗いところでこそ効く”という割り切りだ。一般的なカメラ映像のゲイン上げではなく、色差を強調する画像処理をかけ、赤・青・緑といった基本色の境界をくっきり出す。街灯の乏しい路地でも、配線の色分けや標識の識別がスッと入る。色覚特性の多様さに配慮した表示プリセットを持たせれば、個人差にも追随できる。停電時の避難でも、経路誘導や非常口マークの“見つけやすさ”は命綱になる。

最新モデルの「NOZOMi」は、眼鏡をかけて見ている光景や対象物について、AIが生成した文字情報をレンズに投影する

AIが視界を要約する——「それ、何?」に即答。

視界に入った物体をAIが推定し、名称や役割を即時にテキストでオーバーレイ。暗がりでの「人・自転車・段差」などリスク要因の早期察知に効く。点字ブロックの途切れ、濡れた床、作業現場の立入禁止表示——小さな変化ほど事故に直結する。音声読み上げと組み合わせれば、手ぶら・目線固定のまま情報を得られる。子どもや高齢者にとっても自然に扱える“直感インターフェース”だ。

使いどころは広い——安全・接客・学びの三層展開。

まずは安全。夜間警備、インフラ点検、イベント運営など、暗所での識別は現場の定番課題だ。次に接客。観光地で外国語表記を即席の“色ガイド”と名称表示で補えば、ルート案内が噛み合う。最後に学び。理科実験や美術鑑賞で色成分の見え方を強調しながら解説を重ねれば、理解の勘所が掴みやすい。既存のAI技術の“組み合わせ”で、体験の質を跳ね上げる構図である。

ハードは軽く、処理は近く——電力とプライバシーの設計。

ウェアラブルの成否は快適性に尽きる。軽量フレーム+低消費電力の映像パイプラインに加え、推論の多くをデバイス側(エッジ)で完結させれば、レイテンシ低減とプライバシー保全を両立できる。ネット接続は辞書更新やモデル最適化時のみ——この割り切りが現場での信頼に直結する。オンデバイス化はバッテリー課題とも表裏一体だが、用途別プロファイル(省電力・高精度・連続稼働)を切り替える設計が鍵になる。

アクセシビリティから“共用インフラ”へ。

この種の視覚補助は、個人の“困りごと”を起点に広がる。やがては施設側のデータ連携——館内の色分け規格、危険箇所のメタデータ、混雑・段差情報——と噛み合えば、街そのものが“やさしく見える”ように変わる。個人デバイスと空間インフラの二層実装。普及のカギは、色・案内・警告などの表示ルールの簡素な標準化にある。

Maintainable®︎NEWS EYE
“見えにくさ”を減らす社会へ——色・安全・案内を数字で見える形に
◎この技術の広がりには、個人の感想だけでなく「どれだけ社会が変わったか」を示す共通の“ものさし”が必要だ。
たとえば、暗所での誤認がどれくらい減ったか、転倒やヒヤリとした経験がどれだけ減ったか、目的地にたどり着くまでの時間がどの程度短くなったか、多言語の案内がどれほど伝わりやすくなったか。こうした成果を地域や施設ごとに共有すれば、導入の効果が一目でわかる。
施設や自治体が館内配色や避難サインのデータと連携し、街全体で“見えやすさ”を底上げする。
ウェアラブルが個人を助けるだけでなく、公共空間そのものをやさしく変える。そのとき初めて、視覚拡張は“社会のインフラ”になる。

取材・撮影 柴野 聰

ホームページはこちら

あわせて読みたい記事

NIGO®  MAINTAINABLE FASHION / Nothing About Us Without Us

【アフター大阪・関西万博】あの感動を街に解き放つ「世界横丁×場外ショーケース」——食と技術をつなぐ、アフターEXPOの実装

【日本初!津波避難誘導サイン】岩手県盛岡市発。東北エヌティエス、道路(市道)施工可能な、高輝度蓄光塗装による津波避難誘導用「RM蓄光シート」開発に成功。