★ここが重要!

★要点
雨庭とは、屋根や舗装面に降った雨を浅い窪地へ集め、一時的にため、土や植物を通してゆっくり地中へ浸透させる植栽空間である。
熊本大学では、キャンパスの赤レンガや落ち葉を使い、学生が参加して雨庭を整備した。東京都世田谷区では、建築材料のALCを再利用した人工土壌によって、雨水の保水・浸透性能を確かめる実証が始まった。熊本では大学、銀行、飲料メーカー、保険会社などが連携し、雨庭の効果測定、標準化、金融支援まで視野に入れた組織を設立。武蔵野市では、市民が公園に二つの雨庭をつくった。
雨庭は小さな庭に見える。
しかし、浸水対策、地下水涵養、暑熱緩和、生物多様性、資源循環、環境教育を一つの空間で実現できる「地球の修理技術」である。

★背景
都市では、道路、駐車場、建物の屋根など、水を通さない面が増えた。雨は地中へ染み込む前に、雨どい、側溝、下水道、河川へ一斉に流れ込む。
気候変動によって強い雨のリスクが高まる一方、下水管、河川、地下貯留施設を際限なく大きくすることはできない。国土交通省は、河川管理者だけでなく、自治体、企業、住民など流域のあらゆる関係者が水を受け止める「流域治水」への転換を進めている。
2026年3月に策定された「グリーンインフラ推進戦略2030」では、雨庭の活用が国の施策として明記された。雨庭に取り組む官民連携プラットフォーム会員を2030年度までに500者へ増やす目標や、維持管理、評価、金融に関する制度整備も掲げられている。雨庭は、一部の先進的な自治体や研究者が取り組む実験から、全国へ広げる社会インフラへ移り始めた。

雨が降る。
屋根をたたき、道路をぬらし、駐車場を流れていく。
雨どいから側溝へ。側溝から下水管へ。下水管から川や海へ。
それが、都市の当たり前だった。
雨は、人の暮らしと生態系に欠かせない水である。それなのに都市へ降った瞬間から、できるだけ早く敷地の外へ追い出すべきものとして扱われてきた。
舗装された街に激しい雨が降れば、水は地中へ染み込む時間を失う。
短時間に下水道へ集中し、管が受け止め切れなくなれば、道路や住宅地へあふれ出す。川の堤防を高くし、下水管を太くするだけでは、激しさを増す雨に追いつけない。
そこで、雨をもう一度、地面へ返そうとする動きが広がっている。
その一つが「雨庭」だ。
浅い窪地に、石、土、植物を配置する。屋根や舗装面から雨を導き、一時的にため、ゆっくり地中へ浸透させる。
一つの雨庭が、都市全体の洪水を防ぐわけではない。
それでも、住宅、マンション、学校、公園、ホテル、店舗、企業、道路沿いに、小さな受け皿が増えていけば、都市は少しずつ水を抱えられるようになる。
雨を速く流す都市から、雨を受け止める都市へ。
雨庭は、都市と水の関係を小さく反転させる。

雨を「捨てる水」から「地域へ戻す水」へ

雨庭は、屋根や舗装面に降った雨を下水道へ直接流さず、浅い窪地へ集め、土壌や植物を通して地中へ浸透させる空間だ。
基本的な構造は、決して複雑ではない。
雨を導く流入口。
一時的に水をためる窪地。
水が染み込みやすい土壌や砕石。
短時間の冠水と乾燥の両方に耐えられる植物。
そして、受け止められる量を超えたとき、水を安全に外へ逃がす越流経路。
国土交通省は、雨庭に雨水流出の抑制、地下水涵養、水質浄化、緑化、ヒートアイランド緩和などの機能が期待できるとしている。
従来型の治水設備は、地下貯留槽や下水管など、完成後には人の目に触れないものが多かった。
雨庭は違う。
花が咲く。
昆虫が訪れる。
人がベンチで休む。
子どもが、雨のたまる様子を見る。
雨庭は治水施設であると同時に、水循環を目で見て理解できる場所でもある。
地下に隠された設備ではなく、日常の風景として存在するインフラ。
水を管理するだけでなく、人と水の関係をつくり直す庭なのだ。

「スポンジのような都市」をつくる世界の動き

都市の中に水を受け止める場所を増やす考え方は、日本だけのものではない。
世界では、雨庭、湿地、公園、透水性舗装、緑化された屋根などを組み合わせ、都市全体を水を吸収する「スポンジ」のように変える取り組みが進んでいる。
国連環境計画は、こうした「スポンジシティ」を、集中豪雨や都市型洪水への対応力を高める方法として紹介している。ベルリン、武漢、サンサルバドルなど、各地の都市が自然を利用した雨水管理へ動き始めた。
コンクリートや下水道を否定する考え方ではない。
人工のインフラだけですべての水を制御するのではなく、土、植物、湿地、地形が本来持っている保水・浸透機能を回復させる。
灰色のインフラと、緑のインフラを組み合わせる発想である。
日本の「流域治水」も同じ方向を向く。
川の中だけで洪水を防ぐのではなく、森林、農地、公園、学校、企業、住宅地など、雨が降る流域全体で水を受け止める。
一滴の雨にとって、行政区域や土地の所有者の違いは関係ない。
上流で地面へ染み込まなかった雨は、下流の誰かの水害リスクになる。
雨庭を考えることは、自分の敷地だけを守る話ではない。
流域全体の一員として、降った雨をどのように扱うかを考えることなのだ。

大学の赤レンガと落ち葉が、水循環の教室になる

熊本大学では、工学部講義棟の横に、土木・建築系の四つの研究室が連携し、雨庭を含む広場を整備した。
地面を約30センチ掘り、培養土、竹炭、大学構内の落ち葉を混ぜて土壌を改良。ツワブキ、ギボウシ、フッキソウなどを植えた。
屋根に降った雨を窪地へ導く水路や、周辺に設置されたベンチには、熊本大学を象徴する赤レンガを使用した。2026年7月23日の仕上げ作業には、研究室の学生など約20人が参加した。
赤レンガ、竹炭、落ち葉。地域にある素材が、水を受け止める空間へ変わる。
この雨庭は、完成した設備を学生が眺めるだけの場所ではない。
自分たちで地面を掘り、土を混ぜ、植物を植える。雨が降れば、水がどこから入り、どの程度たまり、どの速さで消えていくのかを観察できる。植物が育たなければ、土や水の流れを見直す。
つくることと、学ぶことと、手入れすることがつながっている。
地球の修理技術は、専門家だけが扱う巨大な設備とは限らない。
人がつくる過程へ参加し、その後も変化を見守ることで、技術は教育になり、やがて地域の文化になる。

建物の廃材が、雨を受け止める土になる

東京都世田谷区のガーデンカフェ「ときそら」では、旭化成ホームズと世田谷トラストまちづくりが、ALCを原料とする再生人工土壌を使った雨庭の実証を始めた。
ALCは「軽量気泡コンクリート」と呼ばれる建築材料だ。住宅や共同住宅の外壁、床などに使われる。
今回使用された「ボストンファームⅡ」は、旭化成グループの商品ライフサイクルから排出されたALCを主原料に、剪定枝堆肥などの有機資材を組み合わせた人工土壌である。
実証では、雨庭としての保水性や浸透性に加え、植栽の生育状況を確認する。将来的には、住宅やマンションの外構への展開を目指すという。
ここでは、二つの循環が重なっている。
一つは、建築材料を土壌として使い直す資源循環。
もう一つは、屋根や舗装面に降った雨を、もう一度地中へ戻す水循環である。
建物に使われた材料が、役目を終えた後、次の建物の周囲で雨を受け止める。
循環経済とグリーンインフラを、一つの庭でつなぐ試みだ。
ただし、「再生材料を使った」という言葉だけで、環境性を判断してはならない。
長期使用によって、土壌の保水・浸透性能はどう変化するのか。成分が周囲へ流れ出す可能性はないのか。泥や細かい粒子によって目詰まりしないか。植栽は健全に育つのか。交換が必要になった土壌を、次にどう処理するのか。
実証とは、技術の利点を示すだけの場ではない。
弱点や限界を見つけ、安全に長く使う条件を探る場所でもある。

雨庭を、一軒の庭で終わらせない

熊本県立大学、熊本大学、肥後銀行、サントリーホールディングス、MS&ADインシュアランス グループ ホールディングスは、一般社団法人「熊本ウォーターポジティブ・デザインセンター」を設立した。
熊本地域では、開発によって水田や畑が減り、地下水を育む機能の低下と水害リスクの増大が懸念されている。
同センターは、雨庭の普及や設置支援だけでなく、効果測定、仕様の標準化、自治体施策への反映を目指す。菊陽町、嘉島町などへの支援を通じて、すでに3カ所の雨庭を設置した。
さらに、地下水涵養量などを価値として評価し、行政支援、金融機関の優遇措置、クレジットなどへつなぐ資金の仕組みも検討する。
雨庭の普及には、いくつもの「誰が」という問いがある。
誰が費用を負担するのか。
誰が設計するのか。
誰が施工するのか。
誰が効果を測るのか。
誰が、落ち葉を取り、植物を手入れし、浸透性能を維持するのか。
環境に良いから設置しよう、という善意だけでは広がらない。
効果を数値で示せなければ、企業も行政も予算を付けにくい。一定の設計基準がなければ、施工品質がばらつく。技術者が育たなければ、設置数を増やせない。手入れする主体が決まっていなければ、数年後には機能を失う。
熊本の試みは、雨庭を単発の環境活動から、測定、標準化、人材育成、行政、金融を備えた地域の仕組みへ変えようとしている。
雨庭をつくる事業から、雨庭を使い続ける産業へ。
社会実装の成否は、設置後にかかっている。

水を戻すことが、地域経済を守る

熊本は、豊かな地下水に支えられた地域だ。
生活用水だけではない。農業、食品、飲料、観光、工場など、地域の産業と雇用が地下水という自然資本に依存している。
地下水を使う企業が増える一方で、田畑が宅地や工業用地へ変われば、雨が地中へ染み込む場所は減っていく。
水をくみ上げる場所と、水が地下へ戻る場所は、同じとは限らない。
だからこそ、「使った水と同じ量を自社の敷地内で戻す」という単純な計算では足りない。水がどこから流れ、どこへ染み込み、どの地下水や湧水につながっているのか。流域として考える必要がある。
熊本ウォーターポジティブ・デザインセンターが掲げる「ウォーターポジティブ」とは、水への負の影響に対し、水源涵養や自然の保全などによって、流域内に同等以上の水を還元する考え方だ。
水は、企業活動の外側にある環境問題ではない。
事業を続けるための基盤であり、地域に暮らすための資本である。
雨庭によって地下水へ戻った水の量を測り、企業や金融機関の取り組みとして評価できれば、雨庭は単なる植栽費ではなく、地域資本への投資になる。
雨を地面へ返すことが、地域の産業と暮らしを守る。
自然保全と経済を分けない仕組みが、熊本から始まろうとしている。

市民がつくる、小さな流域治水

東京都武蔵野市は、市内で過去に浸水した地域にある市立みやび青葉公園で、市民ワークショップの参加者約20人と二つの雨庭を整備した。
公園は緩やかな傾斜地にあり、雨は南北にある側溝へ集まる。
雨庭は、その側溝へ水が入る前の場所に配置された。
一つ目の雨庭は、窪地を掘り、底に粒の大きな石を入れて貯留・浸透機能を確保。斜面に植物を配置し、雨水流出の抑制と植栽環境の両方を重視した。
もう一つは、広い表面積によって浸透能力を高め、公園利用者が歩く場所であることを考慮し、踏みつけに強い植物を採用した。
雨庭に唯一の正解はない。
同じ公園の中でも、水の流れ、利用者の動線、植栽、景観によって設計は変わる。
武蔵野市のように都市化が進んだ地域では、大規模な貯留池や地下施設を新たにつくれる土地は限られる。
だから、公園、学校、道路、住宅、民間施設など、小さな空間へ水を受け止める場所を分散させる。
一つの大きな施設へ、すべての雨を集めない。
地域全体に、小さな受け皿を増やす。
雨庭の本当の力は、一つひとつの規模ではなく、流域の中でつながることによって生まれる。
そして、市民がつくる過程へ参加することにも意味がある。
土を掘り、石を入れ、植物を植えれば、雨庭は行政が設置した知らない設備ではなくなる。
自分たちの街で、水がどこを流れているか。
大雨のとき、どこに集まるか。
自分の庭や建物で、何ができるか。
雨庭づくりは、地域が水害を自分ごととして考える防災教育でもある。

市立みやび青葉公園「雨庭づくり体験」の様子
(武蔵野市役所 環境部 下水道課の公開資料より)
市立みやび青葉公園の雨庭(吉祥寺北町2丁目16番地)
令和7年度、市内の浸水実績のある地域に位置する市立みやび青葉公園において、市民ワークショップ参加者約20名とともに、雨庭が2つ設置された。園内はゆるやかな傾斜地形であり、雨水は流末に位置する側溝で集水されるため、それぞれ南北の異なる側溝の手前に雨庭を配置している。
設置当初(2月)時点の雨庭の様子
設置3カ月後(5月)時点の雨庭の様子

雨庭は、どんな豪雨にも効く万能設備ではない

雨庭をつくれば、豪雨対策は完了する。
そう考えるのは危険だ。
2026年に『Journal of Hydrology』へ掲載された研究では、バイオリテンション施設について、土壌の構成、透水性、表面の貯留深、下部の貯留層との接続方法などを変えた54通りの設計を比較した。
研究が示したのは、通常の雨と極端な雨では、有効な設計条件が異なるということだ。雨庭の水文学的性能は、雨量や構造によって大きく変わり、非常に強い雨に対しては効果に限界がある。
重要なのは、「雨庭があるか、ないか」ではない。
どの屋根や舗装面から、どれだけの水を集めるのか。
窪地に、何立方メートルの水をためられるのか。
土は、どの程度の速さで水を通すのか。
大雨の前から土壌がぬれていた場合、どれだけ余裕が残っているのか。
地下水位はどこにあるのか。
雨庭が満水になったとき、水をどこへ安全に逃がすのか。
敷地全体と、周辺の排水系統を含めた設計が欠かせない。
雨庭は、河川改修、下水道、調節池、地下貯留施設を置き換えるものではない。
それらと組み合わせ、都市全体にかかる負担を小さく分散する技術だ。
小さな雨には、しっかり働く。
大きな雨には、流出を遅らせる。
能力を超えた雨には、安全にあふれさせる。
どこまで受け止め、どこから先を人工のインフラへ渡すのか。
自然の力を使うからこそ、その限界を正しく理解する必要がある。

土を深くすれば、高性能になるわけではない

雨庭をつくる際、高価な改良土壌を深く入れれば性能が上がるように思える。
しかし、重要なのは土の量だけではない。
雨庭へどの程度の流出水を導けるか。表面に一時的に水をためる空間があるか。水が土へ入る前に、ごみや泥が流入口を塞がないか。満水時の水が安全に流れるか。
雨庭は、土壌製品だけで完成する設備ではない。
集水、貯留、浸透、越流という一連の水の動きを設計する必要がある。
また、植物がよく育つ土が、雨水処理に最適とは限らない。
堆肥や有機物を多く含む土は植物の生育を助ける一方、条件によっては窒素やリンなどを水へ放出する可能性がある。
自然素材だから安全。
植物が育つから環境に良い。
そう単純には言えない。
雨水を地下へ浸透させるのか。ろ過後に排水路へ戻すのか。周辺に河川や池があるのか。
目的と場所によって、適した土壌は異なる。
雨庭は、見た目が似ていても、一つひとつ異なる水処理施設なのだ。

つくった後に、誰が手入れをするのか

雨庭は、完成した瞬間がゴールではない。
雨を受け止め続けるには、一般的な植栽管理に加え、水の流れを維持するメンテナンスが必要になる。
流入口を、落ち葉や泥が塞いでいないか。
雨庭へ水が入らず、すべて側溝へ流れていないか。
土壌が踏み固められ、水が染み込みにくくなっていないか。
豪雨によって、土や石が流されていないか。
植物が枯れて、地表が裸になっていないか。
反対に、一種類の植物だけが広がっていないか。
排水口や越流経路が塞がれていないか。
雨がやんだ後、長期間水が残り、蚊が発生する状態になっていないか。
こうした確認を、誰が、どの頻度で行うのか。
管理組合なのか、施設管理会社なのか、造園会社なのか。
自治体なのか、地域住民なのか。
設置前に決めておかなければならない。
国土交通省の「グリーンインフラ推進戦略2030」でも、維持管理手法の情報を集め、2027年度までに効率的な維持管理のガイドラインを策定する方針が示された。自然の機能を使うインフラには、コンクリートとは異なる管理知識が必要になるためだ。
美しい庭として設計しても、雨が流れ込まなければ雨庭として機能しない。
治水性能だけを追い、人が立ち入れず、地域から愛されない空間にすれば、手入れは続かない。
土木。建築。造園。生態学。地域参加。
そしてメンテナンス。
雨庭は、これまで別々に扱われてきた分野をつなぐ技術である。

マンションの駐車場を、雨の受け皿へ変える

雨庭は、広大な土地を必要とする技術ではない。
マンションの植栽帯を少し掘り下げ、雨どいから雨水を導く。
使われなくなった機械式駐車場の一部を撤去し、雨庭と緑地へ転換する。
駐車場の端にある小さな余白を、透水性舗装と植栽を組み合わせた空間に変える。
学校の校庭脇につくり、環境教育に使う。
ホテルの庭に設け、地域の在来植物と水循環を来訪者に伝える。
企業の敷地につくり、雨の日に水が動く様子を見られるようにする。
公園や道路沿いへ配置し、街全体を雨の受け皿に変える。
導入する場所によって、優先する機能は異なる。
浸水対策を重視する場所。
地下水涵養を重視する場所。
暑熱緩和や緑陰を重視する場所。
生物多様性を高めたい場所。
地域交流や環境教育に使いたい場所。
すべてを一つの雨庭に求めれば、設計は複雑になり、管理も難しくなる。
重要なのは、雨庭をつくること自体を目的にしないことだ。
その土地で、何が失われているのか。
水をためる機能なのか。
地中へ染み込ませる機能なのか。
緑陰なのか。
生きものの居場所なのか。
人が自然と関わる機会なのか。
回復させたい機能を先に定め、それに合う雨庭をつくる。
地球の修理技術には、正しい診断が必要である。

雨庭の価値を、どう測るのか

雨庭には、多くの効果が期待されている。
だが、「期待できる」という言葉だけでは、行政や企業、管理組合は投資判断を下しにくい。
実際に、どれだけの雨を受け止めたのか。
流出のピークを、何分遅らせたのか。
何立方メートルの水を地中へ浸透させたのか。
周囲の温度は下がったのか。
どのような植物が育ち、どの生きものが訪れたのか。
住民の満足度や利用頻度は変わったのか。
維持管理には、年間いくらかかったのか。
設置前と設置後を比較しなければ、雨庭が本当に機能しているかは分からない。
国のグリーンインフラ戦略は、多様な効果を評価する実用者向けガイドラインを2029年度までに策定する方針を示した。金融面では、政令指定都市があるすべての都道府県で、グリーンインフラに関する融資や金融商品を少なくとも一つ生み出す目標も掲げている。
緑があるから価値がある。
雨庭と名付けたから水害に強い。
そうした自己評価から一歩進み、効果と費用をデータで確かめる。
測定が目的ではない。
より良く設計し、手入れし、次の雨庭へ知識を渡すための測定だ。

ネイチャーポジティブは、雨の日に試される

雨庭は、生物多様性を高める場所としても期待されている。
地域の気候や土壌に合う植物を植えれば、昆虫や鳥の小さな生息地になる。公園、河川、街路樹、住宅の庭、マンションの緑地をつなぐ、生態系の中継地点にもなり得る。
だが、生物多様性に配慮した庭であっても、水害時に周辺へ危険な水をあふれさせれば、地域に受け入れられない。
逆に、治水機能だけを優先し、植物が育たない構造にすれば、緑の持つ多面的な価値は失われる。
防災と自然再生。
人の安全と、生きものの居場所。
どちらか一方を選ぶのではなく、一つの空間で両立させること。
雨庭は、ネイチャーポジティブが理念だけでは成立しないことを教えてくれる。
晴れた日の写真が美しいだけでは足りない。
雨の日に水が入り、豪雨時に安全にあふれ、雨の後に水が引き、植物が生き続ける。
ネイチャーポジティブは、雨の日と、その後の手入れによって試される。

雨を地面に返すことから、都市を修理する

都市は、長い時間をかけて水を排除する方向へつくられてきた。
地面は舗装され、川は直線化され、雨は下水管へ集められた。
その結果、私たちは雨を地域を育てる資源ではなく、早く処理すべき厄介なものとして扱うようになった。
雨庭は、その考え方を小さく反転させる。
雨を受け止める。
地面へ返す。
植物に使ってもらう。
生きものの居場所をつくる。
人が水の流れを見守る。
それだけで、豪雨や地下水の問題が解決するわけではない。
一つの雨庭が、大洪水を止めるわけでもない。
しかし、都市のあらゆる場所に小さな雨庭が増えれば、街は少しずつ水を抱えられるようになる。
下水道へ入る水の量と速度を減らす。
地下水を育てる。
夏の熱を和らげる。
地域の植物を増やす。
雨の行方を、人がもう一度意識する。
大切なのは、雨庭という商品を置くことではない。
雨を受け止められなくなった都市の状態を診断し、土、緑、水、人の関係をつなぎ直すことだ。
地球の修理は、巨大な工事だけで始まるものではない。
一滴の雨を、どこへ流すか。
その選択を変えるところから始まる。

主な発表・研究・参考資料:

■熊本大学の赤レンガ雨庭
テレビ熊本/FNNプライムオンライン「熊本大学のシンボル・赤レンガの『雨庭』整備へ 学生が仕上げ作業」
2026年7月23日報道。
※熊本大学による公式プレスリリースではなく、報道記事を情報源としている。

■旭化成ホームズ/公益財団法人世田谷トラストまちづくり
「旭化成グループのALC商品由来の再生土壌を活用し、暮らしに寄り添うガーデンカフェで『雨庭』を拡大」
2026年7月10日発表。

■熊本県立大学/熊本大学/肥後銀行/サントリーホールディングス/MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス
「一般社団法人『熊本ウォーターポジティブ・デザインセンター』を設立」
2026年5月28日発表。

■武蔵野市
「市立みやび青葉公園の雨庭」
2026年6月9日公表。

■国土交通省
「グリーンインフラ推進戦略2030」
2026年3月策定。

■『Journal of Hydrology』掲載研究
“Design strategies based on hydrological performance of bioretention systems under common and extreme rainfall events”
雨量や構造の異なる条件で、54種類のバイオリテンション設計を比較。

FAQ

Q. 雨庭とは何ですか?
A. 屋根や舗装面に降った雨を浅い窪地へ集め、一時的にため、土壌や植物を通して地中へ浸透させる植栽空間である。下水道や河川へ一度に流れ込む雨水の量と速度を抑える役割を持つ。

Q. 一般的な庭と、雨庭は何が違うのですか?
A. 一般的な庭は、雨水が外へ流れ出る場合もある。雨庭は、屋根や舗装面から雨水を意図的に集め、貯留、浸透、越流させるよう設計されている。水の入口と出口が計画されている点が大きな違いだ。

Q. 雨庭をつくれば、洪水を防げますか?
A. 一つの雨庭だけで大規模な洪水を防ぐことはできない。比較的小さな雨の流出を抑え、大雨時には水が下水道や河川へ到達する速度を遅らせる効果が期待される。河川、下水道、貯留施設などと組み合わせる必要がある。

Q. 雨庭には、どのような効果がありますか?
A. 雨水流出の抑制、地下水涵養、水質浄化、暑熱緩和、景観形成、生物多様性、環境教育、地域交流などが期待される。ただし、設計や立地、維持管理によって得られる効果は異なる。

Q. どのような植物を植えればよいのですか?
A. 短時間の冠水と、その後の乾燥の両方に耐えられる植物が適している。地域の気候や土壌に合う在来種を基本にし、雨庭の底、斜面、周辺など、水分条件の違いに応じて選ぶ必要がある。

Q. 雨庭に蚊が発生する心配はありませんか?
A. 適切に設計され、雨の後に水が数日以内に浸透・排水されれば、恒常的な水たまりにはなりにくい。長期間水が残る場合は、土壌の目詰まり、排水不良、設計上の問題を確認する必要がある。

Q. 雨庭には、どのようなメンテナンスが必要ですか?
A. 流入口の落ち葉や泥の除去、植栽の剪定・更新、土壌の目詰まり確認、土や石の流出補修、越流経路の点検、浸透状態の確認などが必要になる。

Q. 住宅やマンションにも雨庭を設置できますか?
A. 設置できる可能性がある。既存の植栽帯、庭、駐車場の一部などを活用できる。ただし、建物基礎への影響、地下埋設物、地盤の浸透性、地下水位、雨水の越流先などを事前に確認する必要がある。

Q. 雨庭と流域治水には、どのような関係がありますか?
A. 流域治水は、河川だけでなく、森林、農地、都市、住宅、企業など流域全体で雨水を受け止め、水害を減らす考え方である。雨庭は、住宅地や市街地で雨を分散して受け止める手法の一つとなる。

Q. なぜ雨庭を「地球の修理技術」と呼べるのですか?
A. 都市化によって失われた雨水の貯留、浸透、地下水涵養、蒸発散、生きものの生息などの機能を、土、植物、地形、人の手入れによって回復させるためである。自然を完全に元へ戻すのではなく、自然が再び働ける条件を整える技術といえる。

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