
★要点
建物を建てる前、再エネ設備を置く前から、数十年後の「行き先」を決めておく。そんな出口設計の実装が相次いでいる。
2026年8月19日、大林組とAGCは、三菱UFJ銀行本館の解体(床面積約12万㎡)で生じた廃窓ガラス149トンを再資源化し、うち81トンを透明フロート板ガラスへ水平リサイクルしたと発表した。解体現場から出る廃棄窓ガラスを、建築用フロート板ガラスの原料の一部としてフロート法で再利用する取り組みは国内初で、CO2削減量は約49トンを見込む。
また清水建設は2026年5月、使用済み風車ブレードのケミカルリサイクル技術を国内で初めて確立。2030年代に毎年2,000〜2,500トン発生する廃ブレードの受け皿を整えた。
原料の珪砂などを輸入に頼る日本において、解体現場や発電所は新たな国内資源の供給源になりつつある。
★背景
都市の大型ビルが次々に更新期を迎え、FIT開始後に導入された風車も2030年代から耐用年数(20〜25年)を迎える。
だが、窓ガラスは異物混入の懸念から、高い透明性が求められるフロート板ガラスへの再投入が難しく、再生されても、型板ガラスや網入りガラス、断熱材など、元の透明な窓ガラスよりも品質要求の低い用途に回されることが多かった。
さらに板ガラスの主原料である珪砂やソーダ灰などは天然資源であり、調達コストや輸入リスクの影響を受けやすい。
解体廃棄物を高品位な原料へと戻す仕組みは、環境対策にとどまらず、国内の資源安全保障を固める戦略でもある。
ビルが取り壊されるとき、窓ガラスは砕かれ、アスファルトの下に埋められてきた。
頑丈につくられた風車の翼も、役目を終えれば行き場を失いかけていた。
けれど2026年、都心の解体現場から出た窓ガラスは再び透き通る板ガラスへ戻り、風車の翼は、製鋼プロセスで使われる加炭材として再生される道が開かれた。
壊した後の出口を決めてから、最初の基礎を打つ。
「解体」から始まる循環経済の現場が、動き出している。
窓ガラスから窓ガラスへ――国内初の透明フロート板ガラス水平リサイクル
建築現場において、ガラスのリサイクルは長年の難題だった。
コンクリートや鉄骨は回収・再利用のルートが確立されているが、板ガラスはサッシの金属片、シール材、飛散防止フィルム、合わせガラスの中間膜などの異物が混入しやすく、高い透明性と均一性が求められる建築用フロート板ガラスへの再投入は技術的に敬遠されてきた。そのため、再生されても型板ガラス(凹凸のあるガラス)や網入りガラス、断熱材(グラスウール)へのカスケード利用が主流だった。
この壁を突破したのが、大林組とAGCの協業である。
舞台となったのは、延床面積約12万㎡の大規模解体工事である「三菱UFJ銀行本館」の現場だ。
大林組は解体時にガラスをサッシから丁寧に分別回収し、中間処理施設で徹底的な異物除去と破砕(カレット化)を実施。品質基準をクリアしたカレットをAGCの鹿島工場へ搬入した。
回収された廃棄窓ガラス149トンのうち、81トンが建築用の透明フロート板ガラスへ水平リサイクルされた。解体現場から出た廃ガラスを、汎用性の高い透明フロート板ガラスの原料の一部として再利用したのは、国内初の試みである。
この水平リサイクルにより、原料となる珪砂やソーダ灰を新規に採掘・精錬するプロセスを抑制でき、約49トンのCO2排出削減効果を見込む。
ビルの窓から出た資源が、再び別のビルの窓になる。
都市の中でガラスが循環する具体的なルートが、実工事のスケールで証明された。



2030年代の風車更新期――毎年2,000トン超の廃ブレードをどうするか
窓ガラスが都市の循環なら、再エネの現場で迫っているのが風力発電設備の循環である。
日本国内では2000年代以降、風力発電の導入が加速した。風車設備の耐用年数は一般的に20〜25年とされており、2030年代には初期に導入された風車が一斉にリプレイス(更新・撤去)の時期を迎える。
最大のボトルネックは、風を受けて回転力を生む巨大な「ブレード(翼)」の処分だ。
清水建設の試算によれば、2030年代には日本国内で毎年2,000〜2,500トンもの廃ブレードが発生すると見込まれている。
ブレードは強風や過酷な気象条件に耐えるため、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)や炭素繊維強化プラスチック(CFRP)といった複合材料で頑丈につくられている。樹脂と繊維が強固に結合しているため、破砕して埋め立てるか、セメント焼成時の熱回収(サーマルリサイクル)に頼らざるを得ず、真の意味での再資源化が極めて困難だった。
脱炭素のために回し始めた風車が、数十年後に引き取り手のない巨大な産業廃棄物になる。
この矛盾を解消しなければ、再エネの持続可能性そのものが揺らぎかねない。
ケミカルリサイクルが拓く、複合材料の出口
この難問に対し、清水建設は2026年5月、使用済み風車ブレードを製鋼用の加炭材として再生するケミカルリサイクル技術を国内で初めて確立した。
開発された技術は、廃ブレードを切断・破砕し、加炭材原料の製造・品質管理、配合比率、圧縮成形手法を最適化するものだ。風車ブレードに含まれる炭素成分を、鋼材製造時に炭素含有量を調整する加炭材として活用することで、コークス類など限りある資源の代替材として利用できる。
従来、風車ブレードは埋め立てやサーマルリサイクルに頼らざるを得ないケースが多かったが、この技術により、廃ブレードを「処理が難しい複合廃棄物」から「製鋼プロセスに投入できる再生資源」へと転換する道が開かれた。
風車のブレードを「壊しにくいゴミ」から「回収可能な複合資源」へと変える。
2030年代に本格化する大量更新期を前に、国内で処理技術が確立された意義は大きい。


輸入資源への依存と安全保障――珪砂の供給リスクに備える
建材や部材の水平リサイクルは、温室効果ガス削減という環境面だけでなく、資源の安全保障という側面からも死活問題となっている。
たとえば、板ガラスの主原料である珪砂やソーダ灰などは天然資源であり、調達コストや輸入リスクの影響を受けやすい。カレットを原料として再利用できれば、バージン原料の使用量を抑え、原料の輸入依存低減にもつながる。新興国の開発需要や採掘規制、海上輸送の混乱によって調達コストは上昇傾向にあり、サプライチェーンの地政学的リスクに常にさらされている。
カレット(ガラスくず)を再利用して板ガラスを製造する場合、天然資源の消費を抑えられるだけでなく、溶解温度を下げられるため製造時のエネルギー消費量とCO2排出量を直接削減できる。
風車のブレードに使われる特殊樹脂や高機能繊維も同様だ。化石資源や海外サプライチェーンに頼る材料を国内の廃棄物から回収できれば、外部環境に左右されない強靭な産業基盤を築くことができる。
掘り出して使い捨てる一方通行のサプライチェーンから、国内のストックを資源として回し続ける閉ループへ。
都市やインフラの解体現場は、資源を輸入に頼る島国における「国内鉱山」としての役割を担い始めている。
「解体」から設計するサーキュラー・コンストラクション
大林組・AGCの窓ガラス水平リサイクルと、清水建設の風車ブレードリサイクル。
2つの動きに共通しているのは、「出口」が定まって初めて「入口」の価値が決まるという思想だ。
これまでの建設や再エネ事業は、設計・調達・施工という「上流」の最適化に注力してきた。解体や廃棄といった「下流」は、数十年後の誰かに委ねられていた。
だが、処分場が逼迫し、資源調達のリスクが高まるこれからの時代、解体容易性やリサイクル先が確保されていない構造物は、将来の重大な負債となりかねない。
どこから調達し、どう使い、解体時にどう分別して、どの工場に戻すのか。
解体の手法とリサイクルの受け皿を最初からセットで設計する「サーキュラー・コンストラクション」への転換が求められている。
ビルの窓から窓へ。風車の翼から次の資材へ。
壊すことは、終わらせることではない。次のものづくりの始まりにすることだ。
解体現場から始まる循環の線が、都市とエネルギーの未来を形づくっていく。
【参考】
大林組:ニュースリリース(三菱UFJ銀行本館解体工事における廃棄窓ガラスの透明フロート板ガラスへの水平リサイクル/2026年8月19日)
https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20260819_2.html
AGC:Glass Plaza サステナビリティニュース
https://www.asahiglassplaza.net/sustainability/news/
清水建設:ニュースリリース(使用済み風車ブレードのケミカルリサイクル技術を国内初確立/2026年5月)
https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2026/2026009.html
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