
★要点
気象庁気象研究所は9月1日、7月中旬から8月上旬にかけての西日本の記録的な高温について、地球温暖化の影響を分析した結果を発表した。
気象庁の3か月予報を使い、2026年の条件を反映させた「予測型」の解析では、対象とした高温の発生確率は8.9%、再現期間に換算すると約11年。温暖化がなかったと仮定した実験では、確率はほぼ0%だった。
一方、1991〜2020年の30年間の気候を基に同じ高温の発生確率を見積もると1.1%、再現期間は約90年になる。研究チームは、この差には近年の急激な気温上昇と、今年特有の海面水温の状態が影響したとみている。
「11年に一度」は、今後ずっと同じ確率で起きるという予測ではない。それでも、過去の気候だけを物差しに暑さのまれさを考えてよいのか、重要な問いを投げかける数字だ。
★背景
2026年の夏、西日本の平均気温は1946年以降で3番目に高く、最高気温40℃以上の「酷暑日」は延べ36地点と、2010年以降で最も多かった。一方、関東では千葉で1時間に115mmという記録的な大雨が降った。西は酷暑と少雨、東は豪雨。極端さが両方向に現れた夏だった。
しかも今年は、顕著なエルニーニョ現象が続いている年でもある。過去の統計では、エルニーニョの年の西日本は夏の気温が低めになる傾向がある。ただし、必ず冷夏になるわけではない。今回は、記録的な暑さになった。
自然の揺らぎだけでは説明しきれない夏。その中身を、観測と解析の数字から読み解く。
「90年に一度」の暑さが、「11年に一度」になった。
数字だけを聞くと、少し大げさに感じるかもしれない。これは、気象研究所の解析が示した二つの発生確率を、再現期間に言い換えたものだ。過去30年間の気候に基づく値と、2026年の条件を反映させた予測型の解析による値。何と何を比べた数字なのかを押さえると、今年の暑さの意味が見えてくる。
2026年7月中旬から8月上旬。西日本は、記録的な高温に見舞われた。7月の中旬と下旬の平均気温は、どちらも1946年以降で最も高かった。国内で初めて、5日続けて全国のどこかで40℃以上が観測された。
そして9月1日、気象研究所と気象庁は、この夏の暑さに地球温暖化がどれだけ関わっていたのかを、数字で示した。
問われているのは「異常な夏」だけではない。私たちが前提にしてきた「ふつうの夏」の物差しそのものである。
異常気象の「犯人捜し」ではなく、確率の比較
今回の分析に使われたのは、「イベント・アトリビューション」と呼ばれる手法だ。
温暖化が進んだ今の気候と、温暖化がなかったと仮定した気候。その両方の世界で、起こりうる大気の流れをコンピューターで何度も計算する。そして、同じような高温がどれくらいの確率で起きるのかを比べる。
一つの猛暑を、温暖化だけで説明しようとするのではない。温暖化がある場合とない場合を比較し、その猛暑の起きやすさがどれほど変わったのかを調べる方法である。
気象研究所と文部科学省の「気候変動予測先端研究プログラム」の研究チームは、気象庁が提供する3か月予報をモデルの条件として与える「予測型」の確率的イベント・アトリビューションを行った。温暖化がなかった場合との比較には、大規模な気候シミュレーションのデータベース「d4PDF」も用いている。
対象は、7月11日から8月5日までの平均で見た、西日本上空約1,500mの気温(東経127.5〜137.5度、北緯30〜40度の範囲)だ。地上のある地点で40℃を超える確率や、西日本の夏全体の平均気温の確率ではない。
結果は明快だった。
・2026年の条件を反映させた予測型の解析:8.9%(再現期間は約11年。誤差幅〈95%信頼区間〉は6.0〜12.2%)
・温暖化がなかったと仮定した実験:ほぼ0%
・1991〜2020年の気候を基にした推計:1.1%(再現期間は約90年。誤差幅は1.0〜1.3%)
温暖化がなければ、計算上ほぼ起こりえなかった暑さ。それが、今年の条件では8.9%の確率になった。
注目したいのは、三つ目の数字との違いだ。「温暖化がなかった気候」と「1991〜2020年の気候」は、同じものではない。
1991年から2020年の30年間は、天気予報で「平年」と呼ばれる基準の期間にあたる。この期間の気候から見積もった発生確率は1.1%だった。それに対し、今年の条件を反映させた解析では8.9%となった。
研究チームは、この増加には近年の急激な気温上昇と、今年特有の海面水温の状態が影響したと考えている。8.9%と1.1%の比を、そのまま温暖化だけによる増加倍率と読むことはできない。
極端気象アトリビューションセンター(WAC)も、7月11〜25日の西日本〜東日本南部の上空約1,500mの高温を分析した。2026年の条件では約2.7%(約37年に1度)、温暖化がなかった場合は約0.006%(1万年に1度より低い頻度)と推計している。ただし、対象期間や範囲が気象研究所とは異なるため、二つの確率を直接比べることはできない。それでも、温暖化がなければ極めて起きにくかったという点で、両者の結論は重なる。

西は酷暑と少雨、東は豪雨
気象庁が同じ日に公表した「異常気象分析検討会」の結果から、今年の夏を数字で振り返ってみる。
西日本の夏の平均気温は、平年より1.2℃高く、1946年以降で3番目の高さ。7月中旬と下旬の10日ごとの平均気温は、いずれも1946年以降で最も高かった。
最高気温が40℃以上になる「酷暑日」は、8月31日時点で延べ36地点。2010年以降で最も多い。同じ地点で別の日に観測すれば、その都度数える「延べ」の集計で、36の異なる地点という意味ではない。7月21日から25日にかけては、全国のいずれかの地点で5日続けて40℃以上となり、国内で初めての記録となった。35℃以上の猛暑日は、延べ7,528地点にのぼる。
九州北部では、8月の降水量が1946年以降で最も少なかった。暑さと少雨が重なった夏である。
一方、東日本の太平洋側は雨が多かった。
8月13日の夕方から14日未明にかけて、千葉市では1時間に115mm、24時間に367mmの雨が降り、どちらも観測史上1位を記録した。台風第15号は、東の海上から茨城県に上陸するという、初めての経路をたどった。夏に発生した台風は17個と、平年の11.0個を大きく上回った。
気象庁は、千葉の豪雨についても、温暖化による雨の量の変化を調べる「量的イベント・アトリビューション」の結果を会議資料で示した。対象は8月13日15時から14日3時までの12時間。実際の豪雨を再現した実験と、温暖化の影響を取り除いた「擬似非温暖化実験」を比べた。
その結果、関東平野周辺で平均すると、温暖化によって気温が1.3℃上がり、降水量が22.6%増えたと推計された。ただし、これは一定の範囲と時間の平均値だ。千葉の観測点の1時間115mmや24時間367mmが、そのまま22.6%増えたという意味ではない。雨の降る場所の分布そのものも、二つの実験の間で変わっていた。
高温の分析は「起きやすさ」を、大雨の分析は「量の変化」を評価している。暑さと雨の両方に温暖化の関わりが示されたが、数字が表す中身は区別して読む必要がある。

エルニーニョの年なのに、なぜ暑かったのか
今年の夏を読み解くうえで、エルニーニョ現象との関係は欠かせない。
エルニーニョ現象とは、南米ペルー沖から太平洋の赤道付近にかけて、海面の水温が平年より高くなる現象だ。気象庁によると、過去の統計では、エルニーニョの年は西日本の夏の気温が低めになる傾向がある。
今年のエルニーニョは、とりわけ強い。7月の監視海域の海面水温は基準より2.5℃高く、1997年と並んで7月として過去最大。8月には3.4℃高くなり、1949年以降で8月として最も高かった1997年を上回った。
それなのに、西日本は記録的に暑かった。
鍵を握ったのは、上空の偏西風、亜熱帯ジェット気流の位置だ。
エルニーニョの年は、このジェット気流が南に下がり、気温が低めになりやすい。ところが今年は、逆に北へ上がっていた。
偏西風が北へ大きく蛇行し、上空のチベット高気圧に伴う背の高い高気圧が西日本付近に張り出した。高気圧の下では空気が下に向かって降り、圧縮されて温まる。そこに強い日差しが重なり、太平洋高気圧のふちを回る暖かい空気も流れ込んだ。さらに、温暖化で大気全体の気温が底上げされていた。
気象研究所は、地球温暖化がこのジェット気流の北上と、それに伴う気温の上昇に、部分的に寄与した可能性があるとしている。
エルニーニョの年に涼しくなりやすいという統計的な傾向だけでは、個々の年の夏は決まらない。海面水温、大気の流れ、温暖化による気温の底上げを、重ねて見る必要がある。

日本の夏は5位、世界の6〜8月は観測史上1位
視野を広げると、もう一つの姿が見えてくる。
気象庁によると、2026年の日本の夏の平均気温は、基準値(1991〜2020年の平均)より1.02℃高く、統計を取り始めた1898年以降で5番目だった。
5位と聞くと、少し落ち着いた夏のようにも思える。だが、1位は2025年の+2.36℃、2024年と2023年は、ともに+1.76℃で同率2位。ここ数年の夏が、それほど突出していたということだ。日本の夏の気温は、長い目で見ると100年あたり1.41℃のペースで上がっている。
一方、世界の6〜8月の平均気温は、基準値より0.63℃高く、1891年以降で最も高かった。2023年を上回る記録である。気象庁のこの世界平均は、陸の地表付近の気温と海面水温を合わせて求めた指標だ。
日本の中にも差があった。北日本と西日本は平年より1.2℃高く、東日本は0.8℃高かった。沖縄・奄美は平年並みだった。
一つの国の順位だけを見ていると、気候の変化を見誤る。毎年必ず記録が更新されるわけではないが、長期的な上昇傾向の中で、日本の夏も年ごとに揺れながら暑くなっている。


次の夏に向けて、「想定」を更新する
暑さは、命と暮らしに直接かかわる。
総務省消防庁によると、8月に熱中症で救急搬送された人は全国で24,956人。そのうち65歳以上の高齢者が59.1%を占め、発生場所は「住居」が39.1%と最も多かった。
暑さへの備えの最前線は、屋外だけではない。住まいの中にもある。
イベント・アトリビューションの数字は、恐れるためのものではない。社会の「想定」を、根拠をもって更新するためのものだ。
住まいの断熱や冷房、学校の暑さ対策、屋外で働く人の勤務のあり方。暑さへの備えには、過去の経験だけでなく、変わりつつある気候を反映させる必要がある。
「11年」という数字を、そのまま設備の設計値や、次の猛暑が来る時期に置き換えることはできない。それでも、かつてまれだった暑さが、ある年の条件では起きやすくなる。その変化を社会の備えへ取り込めるかどうかが、次の夏への準備になる。
気象庁が9月9日に発表したエルニーニョ監視速報では、エルニーニョ現象は冬にかけて続く見込みとされた。最盛期には、監視海域の海面水温の基準値との差が、観測史上最も高かった1997年12月の+3.6℃に匹敵するとみている。こうした見通しも、新しい観測と予測に応じて更新されていく。
観測し、解析し、数字で示す。気象の観測と研究の積み重ねが、私たちが気候の変化を「勘」ではなく根拠で語ることを可能にしている。
※なお、2026年夏の高温については別の研究グループによる解析も公表されているが、対象期間や解析手法が異なるため、発生確率の数値を単純に比較することはできない。
参考:
令和8年7月中旬から8月上旬の西日本の記録的な高温に地球温暖化が寄与(気象庁気象研究所)
https://www.mri-jma.go.jp/Topics/R08/080901/080901_press.html
令和8年夏を対象とした異常気象分析検討会の結果について(気象庁)
https://www.jma.go.jp/jma/press/2609/01c/kentoukai20260901.html
令和8年度異常気象分析検討会 資料5_2「令和8年8月千葉豪雨について(量的イベント・アトリビューション)」(気象庁)
https://www.data.jma.go.jp/extreme/kaigi/2026/0901/r08_1st_gidai5_2_202609.pdf
2026年夏(6月〜8月)の天候(気象庁)
https://www.data.jma.go.jp/cpd/longfcst/seasonal/202608/202608s.html
日本の夏平均気温/世界の夏平均気温(気象庁)
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/sum_jpn.html
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/sum_wld.html
エルニーニョ監視速報(気象庁)
https://www.data.jma.go.jp/cpd/elnino/kanshi_joho/kanshi_joho1.html
日最高気温40℃以上の日の名称について(気象庁)
https://www.jma.go.jp/jma/press/2604/17a/40degree_name.html
2026年7月の高温に関する解析(極端気象アトリビューションセンター)
https://weatherattributioncenter.jp/analyses/extreme-heat-July2026/
令和8年8月の熱中症による救急搬送状況(総務省消防庁)
https://www.fdma.go.jp/pressrelease/houdou/items/kyuuki_20260925.pdf
FAQ
Q. イベント・アトリビューションとは何ですか?
A. 猛暑や豪雨などの極端な現象に、人間活動による温暖化などがどの程度影響したかを分析する研究手法である。今回の研究では、温暖化がある場合とない場合の気候シミュレーションを比べ、対象とする高温の発生確率の違いを評価した。対象期間・地域・指標などの条件によって、推計値は変わる。
Q. 「11年に一度」とは、11年ごとに必ず起きるという意味ですか?
A. そうではない。今回の解析条件での発生確率8.9%を、再現期間に言い換えた表現である。対象は7月11日〜8月5日の平均で見た西日本上空約1,500mの気温で、気象庁の3か月予報を使って2026年の条件を反映させている。11年ごとに必ず起きるという意味でも、今後のすべての年で発生確率が8.9%のまま続くという意味でもない。
Q. 酷暑日とは何ですか?
A. 日最高気温が40℃以上の日のことである。気象庁が2026年4月17日に名称を定めた。35℃以上の日は猛暑日、30℃以上の日は真夏日と呼ばれる。
Q. エルニーニョ現象の年は、本来どのような夏になりやすいのですか?
A. 過去の統計では、西日本の夏は気温が低めになる傾向がある。ただし、必ず冷夏になるわけではない。2026年は亜熱帯ジェット気流が北に寄り、高気圧による下降気流や強い日射、温暖化による気温の底上げなどが高温に関係した。
Q. 日本の夏が「歴代5位」なのに、なぜ深刻なのですか?
A. 2026年も基準値より1.02℃高く、日本の夏の平均気温は長期的に100年あたり1.41℃のペースで上がっている。2025年が1位、2024年と2023年が同率2位と、近年の夏が突出していたため順位は5位にとどまった。世界の6〜8月の平均気温は、2026年に観測史上最高を記録した。
Q. 熱中症はどこで起きることが多いのですか?
A. 総務省消防庁によると、2026年8月に救急搬送された人の発生場所は、住居が39.1%と最も多かった。屋外だけでなく、室内での暑さ対策が重要である。
Q. 千葉豪雨の「降水量22.6%増」とは、何を表した数字ですか?
A. 8月13日15時から14日3時までの12時間を対象に、実際の豪雨を再現した実験と、温暖化の影響を取り除いた擬似非温暖化実験を比べた結果である。関東平野周辺の平均で、温暖化によって降水量が22.6%増えたと推計された。千葉の一つの観測点の雨量に、その割合をそのまま当てはめることはできない。
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