★ここが重要!

★要点
文化審議会は10月16日、京都府舞鶴市の「吉原」を重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に選定するよう、文部科学大臣に答申した。官報告示を経れば、重伝建は全国131地区となる見通しだ。
同じ日の答申では、大阪城天守閣など8件を重要文化財に新たに指定するよう求めた。1931年(昭和6年)に建てられた鉄骨鉄筋コンクリート造の天守閣は、1997年から国の登録有形文化財で、今回は重要文化財への指定が答申された。
福岡県柳川市の「畳REBIRTH」は、文化財の古畳や庭園の落ち葉などを堆肥にしてい草を育て、新しい畳を文化財に戻す取り組みで、2026年度グッドデザイン賞を受賞した。古畳30枚、落ち葉1,400Lなどを利用し、新たにつくった畳80枚を御花の大広間に敷いた。
残っている文化財の背後には、手入れし、修理し、使い方を考え続けてきた人がいる。その仕事を知る機会が、この秋、各地で生まれている。

★背景
重伝建は、市町村が定めた伝統的建造物群保存地区のうち、国が特に価値が高いものを選定する制度だ。個々の建物だけでなく、町割りや路地、建物と一体となった周囲の環境も保存の対象になる。
文化財の保存は、古いものをそのままにしておくだけでは続かない。日常の維持管理、必要な修理、適切な保存環境が欠かせない。
文化財を使い続ける人、修理の技術を継ぐ人、材料を育てる人。そのつながりまで見えてくると、保存の意味も少し変わってくる。

入江に沿って、細長い敷地の町家が並ぶ。その裏手には、舟をしまう舟屋。
京都府舞鶴市の吉原は、約300年前に漁師たちが現在地へ移り、その後に形づくられてきた町だ。この町並みを、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定するよう答申が出た。
同じ日には、大阪城天守閣を重要文化財に指定する答申も出された。市民の寄附で建てられた、昭和の鉄骨鉄筋コンクリート造の天守である。
柳川では、文化財から出た古畳を堆肥にし、い草を育て、新しい畳を戻す取り組みが評価された。修理中の倉庫を見学する機会や、美術品の保存・修理を伝える展覧会も続く。
何が新たに文化財として評価され、何が修理によって受け継がれるのか。この秋の動きから、「直して残す」仕事を見ていく。

舟屋が並ぶ漁師の町、131番目の重伝建へ

文化庁によると、文化審議会は10月16日、新たに1地区を重伝建に選定するよう答申した。対象は「舞鶴市吉原」。官報告示を経れば、全国の重伝建は43道府県108市町村、131地区となる見通しである。
吉原は伊佐津川河口の東側、吉原入江に沿って広がる。保存地区は南北約550メートル、東西約130メートル、面積約8.9ヘクタール。文化庁が示す種別は「猟師(漁師)町」だ。文化庁の資料は、「猟師町」を城下町に形成された漁師の町を指す言葉だと注記している。
吉原は、もともと田辺城下の湾岸沿いに、東西2つの町に分かれた猟師町として成り立っていた。享保12年(1727年)の大火で焼失し、翌13年(1728年)に現在地へ移転。その後、段階的に町が形成された。
間口2間ほどの短冊形の敷地には、幕末から昭和30年代ごろまでに建てられた伝統的な町家が並ぶ。裏手には付属屋や舟屋が建つ。入江沿いの舟屋は、外壁を塗り込めた「大壁」とするのが特徴で、舟を引き込むため、1階は入江側に大きく開いている。
地区の鎮守社である水無月神社や、入江や舟屋へ通じる小路・路地も、町並みと一体となって歴史的な風致をつくっている。選定基準は「伝統的建造物群及び地割がよく旧態を保持しているもの」だ。
一軒の建物だけでなく、家と家、水辺と道の関係を残す。町並みの保存は、そこで暮らし、建物を手入れしてきた時間を、まとまりとして受け継ぐ仕事でもある。

吉原入江と舟屋を含む舞鶴市吉原の町並み。重伝建への選定が答申された。(出典:文化庁発表資料)

昭和の天守が、登録有形文化財から重要文化財へ

同じ日、文化審議会は8件の建造物を重要文化財に新たに指定し、1件を追加指定するよう答申した。答申どおり指定されると、建造物の重要文化財は2,619件、5,624棟(うち国宝235件、305棟)となる。
新規指定の対象は、明和2年(1765年)に上棟した京都・建仁寺の法堂、明治42年(1909年)の奈良ホテル本館、建築家・清家清が昭和29年(1954年)に建てた自邸「私の家」など、時代も構造も幅広い。
大阪城天守閣もその一つだ。文化庁の資料によると、特別史跡大坂城跡の天守台に建つ、5重8階建ての博物館施設。豊臣期の壮大な天守の再現を意図し、昭和6年に、永久性のため鉄骨鉄筋コンクリート造で建てられた。設計にあたっては、「大坂夏の陣図屏風」などの史料や、現存する天守の調査を手がかりにした。
いわゆる「大大阪」の時代に、大阪城公園の整備と一体で計画され、市民の寄附によって実現し、大都市大阪の象徴となった。文化庁は、均整の取れた堂々たる外観が意匠的に優れていること、そして以後の全国各地における天守再建の手法の先駆けとなったことを評価している。
大阪市によると、天守閣は平成9年(1997年)に国の登録有形文化財に、令和7年(2025年)に大阪市の有形文化財に指定されている。今回は、国の重要文化財への指定が答申された。建てられてから95年。昭和の鉄筋コンクリートの建物も、時を経て歴史の一部になる。
同じく対象となった新潟県新発田市の「蔵春閣」は、実業家の大倉喜八郎が明治45年(1912年)に東京・向島の別邸に設けた、木造2階建ての迎賓施設である。建築後に3度の移築・曳家(建物をそのまま移動させる工法)を重ねたが保存状態は良く、現在は喜八郎の郷里である新発田市に移されている。
時代や素材が違っても、建物を評価し、適切に手を入れ、次の使い方へつなぐ。その積み重ねが、歴史を残している。

重要文化財への指定が答申された大阪城天守閣。1931年に鉄骨鉄筋コンクリート造で建てられた。(写真提供:大阪市)

古畳を土へ、土からい草へ、もう一度畳へ

建物を直すには、材料が要る。その材料を、文化財の維持管理から生まれる資源で育てようとする取り組みがある。
福岡県柳川市の一般社団法人SAMURAI REBIRTHが進める「畳REBIRTH」だ。「文化財廃材を活用した資源循環型デザイン」として、2026年度グッドデザイン賞を受賞した。
舞台は柳川藩主立花邸「御花」。7,000坪の敷地全体が国指定名勝「立花氏庭園」に指定されている。
文化財で使われていた古畳や庭園の落ち葉などを堆肥にし、その堆肥を使って熊本県八代市の生産者がい草を育てる。収穫したい草で新しい畳をつくり、文化財へ戻す仕組みである。
発表によると、2023年10月から2026年1月までの取り組みで、古畳30枚、落ち葉1,400Lなどを利用し、約800Lの堆肥をつくった。配合には、もみ殻、米ぬか、鶏ふん、赤土なども使われている。い草の栽培面積は約900平方メートル。2026年1月には、新たにつくった畳80枚を、御花の大広間(100畳間)に敷いた。
30枚の古畳をそのまま加工して80枚にしたわけではない。堆肥化と、い草の栽培を介して、次の材料づくりに生かした取り組みだ。
文化財に敷く畳のオーナーとなり、資金面から保全を支える「畳オーナー」への申し込みは80名。畳には、生産者の情報にたどり着けるトレースタグも付けられた。
古畳を処理する人、堆肥をつくる人、い草を育てる人、畳を使う人。それぞれの仕事が見えるようにすることで、文化財の手入れに関わる入口を増やしている。
プロジェクトの概要は、10月31日から11月4日まで東京ミッドタウンで開かれる「GOOD DESIGN EXHIBITION 2026」で展示される予定だ。

柳川藩主立花邸「御花」の大広間。畳REBIRTHの舞台となった。(出典:一般社団法人SAMURAI REBIRTH発表資料)
古畳や落ち葉などの堆肥化、い草の栽培、新しい畳の製作・敷設をつなぐ循環の仕組み。(出典:一般社団法人SAMURAI REBIRTH発表資料)
御花に敷かれた再生畳。タグから、い草生産者の情報を確認できる。(出典:一般社団法人SAMURAI REBIRTH発表資料)

修理中の重要文化財を、内側から見る

ふだんは見る機会の少ない修理の現場を、公開する動きもある。
舞鶴市は10月25日、保存修理工事中の重要文化財「赤れんが6号棟」の特別見学会を開く。「舞鶴市文化財保存活用地域計画講座」「近代化遺産連続講座」の一環で、「日本遺産MONTH」「近代化遺産全国一斉公開2026」の一つでもある。
見学は10時30分、13時30分、15時からの3回で、各回15人、参加は無料。事前申込制で、申し込みの受け付けは10月22日までだった。
赤れんが6号棟は、2008年に重要文化財に指定された「舞鶴旧鎮守府倉庫施設」を構成する建物の一つ。市の保存活用計画によると、旧海軍の需品庫3棟の一つとして1901年(明治34年)に起工し、1902年(明治35年)に竣工した。
市が公開した写真には、耐震補強のための基礎工事の様子が写っている。120年を超えるれんが倉庫の姿を残しながら、これから使うための安全性をどう確保するか。外から眺めるだけでは見えない、保存の仕事である。
吉原の町並みへの答申と、赤れんが倉庫の修理。舞鶴では、文化財を評価する場と、実際に支え直す現場が、同じ秋に動いている。

赤れんが6号棟で行われている、耐震補強のための基礎工事。(出典:舞鶴市発表資料)

修理を終えた絵画と書を、その技法とともに

長野県諏訪市のサンリツ服部美術館は、特別企画展「未来へつなぐ美 作品の保存・修理」を11月29日まで開いている。
2021年以降に修理を終えた絵画と書跡を中心に展示し、修理の工程や技法、作品を守る保存環境も紹介する。
主な出品作品は、国宝の可翁「寒山図」(南北朝時代、14世紀)、重要文化財の「孔雀明王像」(鎌倉時代、13世紀)、「白桃小禽図」(中国・南宋時代、13世紀)、「弘法大師伝絵巻」(鎌倉時代、13世紀)など。
11月1日13時30分から15時までは、半田九清堂の代表取締役社長、半田昌規氏による美術講座「国宝や重要文化財など国が指定した絵画文化財を修理することとは」が開かれる。定員60名で、参加費は入館料のみ。申し込みは美術館の受付か電話で、定員になり次第締め切る。
注意したいのは、11月1日が休館日であることだ。講座の参加者に限り、13時から講座開始までと、講座終了後から15時30分まで展示を見ることができる。
通常の開館時間は9時30分から16時30分。祝日を除く月曜日は休館。入館料は大人1,200円、小中学生400円。11月6日14時からはギャラリートークもある(予約不要)。
修理は、作品を新品のように見せることとは違う。作品が持つ歴史や価値を守り、これからの時間へ受け渡すための仕事だ。修理の工程だけでなく、傷みを進ませない保存環境を知ることも、文化財を理解する一歩になる。

サンリツ服部美術館の特別企画展「未来へつなぐ美 作品の保存・修理」。

残すために、手を入れる。その手を、次へつなぐ

漁師たちが暮らしてきた町並み。市民の寄附で建った昭和の天守。120年を超えるれんが倉庫。次のい草を育てる古畳。修理を経て公開される絵画と書。
「残す」とは、何もしないことではない。ただし、何でも新しくすればよいわけでもない。
そのものの価値を知り、傷みを確かめ、必要な手を入れ、適切な環境を整える。住み続ける町並みと、使い続ける建物と、観覧の条件を整えて守る美術品では、必要な手入れも異なる。
文化財を次の時代へつなぐには、建物や作品だけでなく、それを支える技術、材料、人のつながりも受け継ぐ必要がある。
この秋、文化財の美しさと、その美しさを支える仕事の両方に目を向けたい。

参考:

文化審議会の答申(重要伝統的建造物群保存地区の選定)について(文化庁)
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/94450101.html
地区一覧
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/94450101_01.pdf
地区の概要
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/94450101_02.pdf

文化審議会の答申(重要文化財(建造物)の指定)について(文化庁)
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/94449801.html
指定対象の概要
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/94449801_02.pdf

大阪城天守閣の重要文化財指定に関する答申(大阪市)
https://www.city.osaka.lg.jp/hodoshiryo/kyoiku/0000689032.html
国指定文化財等データベース 大阪城天守閣(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00000299

文化財の古畳を再び文化財へ 「畳REBIRTH」が2026年度グッドデザイン賞を受賞(一般社団法人SAMURAI REBIRTH)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000163679.html

舞鶴市、修理中の重要文化財「赤れんが6号棟」を特別公開(舞鶴市)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000273.000049369.html
舞鶴旧鎮守府倉庫施設保存活用計画(舞鶴市、令和4年8月)
https://www.city.maizuru.kyoto.jp/cmsfiles/contents/0000008/8809/1.pdf

特別企画展「未来へつなぐ美 作品の保存・修理」(サンリツ服部美術館)
https://sunritz-hattori-museum.or.jp/pages/292/

FAQ

Q. 重伝建131地区は、すでに確定した数字ですか?
A. 2026年10月16日の文化審議会の答申に基づく、官報告示後の見込みの数字である。答申では舞鶴市吉原の選定が求められた。答申と、官報告示による正式な選定は区別する必要がある。

Q. 吉原は、なぜ「猟師町」と表記されるのですか?
A. 文化庁の資料が、種別を「猟師(漁師)町」と記しているためである。資料は「猟師町」を、城下町に形成された漁師の町を指す言葉だと注記している。吉原は1727年の大火の後、1728年に現在地へ移転した猟師町で、町家、舟屋、路地などが一体となって歴史的な風致を形成している。

Q. 大阪城天守閣は、今回初めて国の文化財になるのですか?
A. そうではない。現在の天守閣は1931年に鉄骨鉄筋コンクリート造で建てられ、1997年に国の登録有形文化財、2025年に大阪市の有形文化財となっている。2026年10月16日に答申されたのは、国の重要文化財への指定である。文化庁は、意匠的に優れていること、以後の全国各地における天守再建の手法の先駆けとなったことなどを評価している。

Q. 畳REBIRTHでは、古畳30枚を80枚に再加工したのですか?
A. 古畳だけを直接加工して枚数を増やしたわけではない。古畳、庭園の落ち葉、もみ殻などを使って堆肥をつくり、その堆肥でい草を栽培したうえで、新しい畳80枚を製作し、御花の大広間に敷いた取り組みである。

Q. サンリツ服部美術館の展覧会は、いつまでですか?
A. 2026年11月29日まで。通常は9時30分から16時30分まで開館し、祝日を除く月曜日と11月1日は休館する。11月1日は、美術講座の参加者に限り、指定された時間に展示を観覧できる。

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