
★要点
生物多様性条約の第17回締約国会議(COP17)が、10月19日から30日まで、アルメニアの首都エレバンで開かれている。2022年に採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)について、世界全体の取り組みの進展を検討する初めてのグローバルレビューが予定されている。
日本では、経団連などの企業アンケート(回答332社)で、自然との接点を特定する「Locate」に該当する取り組みがあると答えた企業が200社・60%だった。一方、課題として最も多く挙がったのは「指標、目標の設定や計測」(179社)。評価の取り組みが広がる一方で、測り方と目標の立て方に難しさが残る。
日本自然保護協会などは、海洋保護区・OECMの面積を増やすだけでなく、保全・回復の効果という「質」を高めるよう求める提言を公表した。環境省は2026年度、30by30ロードマップの中間評価を行う予定だ。
企業の開示が進むことと、自然の状態が良くなることは、同じ物差しでは測れない。COP17を機に、日本の取り組みをその両面から見直したい。
★背景
GBFは、2030年に向けた23の行動目標を掲げる。陸域・内陸水域と海域・沿岸域のそれぞれ少なくとも30%を効果的に保全・管理する「30by30」も、その一つだ。
条約事務局はCOP17開幕の発表で、世界報告書「State of Biodiversity Action」を紹介し、枠組みへの関与は強い一方、実施はまだ不十分で、加速が必要だと指摘した。
企業にも、自然への依存や影響を把握し、開示する動きが広がる。GBFのターゲット15は、各国が法律や政策などの措置をとって企業の取り組みを促し、特に大企業・多国籍企業・金融機関が、生物多様性に関するリスク、依存、影響を定期的にモニタリング・評価し、透明性をもって開示することを確保するよう求めている。
目標を掲げる段階から、実施を確かめ、足りない条件を整える段階へ。その間に何があるのかを考えたい。
自然を守る、と書く。
自然との接点を調べる。
実際に何が保たれ、何が回復したかを確かめる。
この三つは、似ているようで、別の仕事だ。
10月19日、アルメニアのエレバンで生物多様性条約COP17が開幕した。2022年に世界が合意した昆明・モントリオール生物多様性枠組の実施について、初めてのグローバルレビューを行う節目である。
日本の企業は、どこまで自然との関係を評価しているのか。海の保護区は、どのように効果を確かめるのか。そして、日本はエレバンに何を持ち込むのか。
開幕前後に公表された資料から、日本の取り組みの進み具合と、数字を読むときに見落としたくない違いをたどる。
世界の「通信簿」は、何を測っているのか
環境省によると、COP17の会期は10月19日から30日まで。遺伝子組換え生物等の国境を越える移動などを扱うカルタヘナ議定書の第12回締約国会合と、遺伝資源の取得の機会と利益配分を扱う名古屋議定書の第6回締約国会合も同時に開かれる。日本政府代表団は、ハイレベル会合や交渉会合、サイドイベントなどに参加して積極的に発信し、GBFの実施を推進する観点から議論に貢献するとしている。
焦点の一つが、GBFの実施に関する「集団的進捗のグローバルレビュー」だ。各国の目標や報告を踏まえ、世界全体として2030年の目標にどこまで近づいているかを検討する。
条約事務局は10月19日の開幕発表で、世界報告書「State of Biodiversity Action」を紹介した。締約国の90%近くが国家目標を設定し、70%超が国別報告書を提出、23のターゲットすべてで取り組みが進んでいるという。一方で、締約国自身が「順調」と評価した国家目標は半数に満たない。
これは、各国が報告する実施状況にもとづく評価である。世界の生物多様性がどれだけ回復したかを直接測った数字ではない。目標を立てること、対策を実施すること、生態系の状態が良くなることは、分けて読む必要がある。
資金の動員や、遺伝資源のデジタル配列情報(DSI)の扱いなども議題に並ぶ。条約事務局の通知によると、閣僚級のハイレベル会合は10月27日と28日に予定されている。
大和総研の太田珠美氏は、COP17の注目点をまとめたレポートで、各国の取り組みは進んでいるものの、全体として2030年の目標達成の軌道には乗っていない状況にあると指摘した。

自然関連の開示は、既存の基準を実務につなぐ段階へ
企業の自然関連の開示では、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の動きも注目される。
IFRS財団は、COP17の会期中の10月22日に、自然関連の開示に関する「IFRS実務記述書」を提案する公開草案の公表を記念するウェビナーを開くと案内している。意見募集は120日間で、2027年2月19日に締め切る予定だ。
IFRS財団によれば、ISSBのIFRS S1は、自然に関わるものを含め、サステナビリティ関連のリスクと機会について重要性のある情報の開示を、すでに企業に求めている。今回の実務記述書は、その開示を実務で支えるためのものと位置づけられる。
公開草案は、意見を募る段階の文書だ。新しい基準の施行や、すべての企業への一律の開示義務化とは違う。自然をめぐる情報開示は、ゼロからルールをつくる段階ではなく、既存の要求をどう具体化するかという段階に進んでいる。
企業の評価は進む。課題は「測り方」
日本企業の取り組みを示すのが、経団連と経団連自然保護協議会が10月13日に公表した「企業の生物多様性への取組に関するアンケート結果(2025年度調査)」だ。調査は2026年3月から5月にかけて、経団連の企業会員1,604社を対象に行われ、332社が回答した。2011年から実施されている調査で、コロナ禍の2020・2021年度は行われなかった。
全国の企業から無作為に選んだ調査ではない。以下の割合は、回答した企業の中での状況を表している。
サステナビリティや環境の方針などに生物多様性を記載している企業は250社・75%で、記載先として最も多かった。経営方針・戦略・計画などへの記載は4割前後にとどまるが、報告書は微増傾向にあるとしている。
企業が自然との関係を評価するときには、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が示す手順「LEAP」が使われる。自然との接点を見つける「Locate(発見)」、依存と影響を調べる「Evaluate(診断)」、リスクと機会を評価する「Assess(評価)」、対応と開示に備える「Prepare(準備)」の4段階だ。
今回の回答では、Locateに該当する取り組みがあると答えた企業が200社・60%、Evaluateが195社・59%、Assessが171社・52%、Prepareが145社・44%だった。いずれも分母は回答した332社。報告書は、LEAPの全項目で実施している企業の割合が増加傾向にあり、着実な進展がみられるとしている。
ただし、この設問はそれぞれの取り組みに該当するかを尋ねたもので、各社が手順を終えたことを確かめたものではない。LocateとPrepareの差だけで、同じ企業が途中で立ち止まったとも言い切れない。
課題として最も多く挙がったのは「指標、目標の設定や計測」で179社。「サプライチェーンが複雑」が156社、「知識、人員、時間や予算の不足」が149社と続く。
自然との関わりは、場所によって違う。炭素のように一つの単位で測ることは難しい。共通の指標を整えるだけでなく、自社や取引先がどの生態系と関わり、何を変える必要があるかを見極める人と体制が求められている。

TNFDに動く企業。開示の広がりと、自然の改善は別の物差し
情報開示にも動きがある。生物多様性の情報を開示している企業277社のうち、75%にあたる208社が、TNFDを参照・対応していると答えた。
ここでの分母は、回答した332社ではなく、開示している277社である。また、「参照・対応」は企業の回答で、TNFDの提言に完全に沿っていることを第三者が確かめたものではない。
有価証券報告書など法定の報告書で開示している企業は80社で、回答した332社の24%。報告書は増加傾向にあるとしている。30by30(保護地域とOECM)に該当する取り組み(計画中のものを含む)があると答えた企業は148社・45%だった。
これらは、企業の対応がどこまで進んだかを示す数字だ。守られた土地の面積や、生態系の回復の度合いを直接表すものではない。
「何社が開示したか」と「どの自然が、どう変わったか」。両方を確かめて初めて、企業の取り組みを実際の保全に結びつけられる。
海の保護区は、「面積と質」をともに問う
日本自然保護協会(NACS-J)とUMINEKOサステナビリティ研究所は10月14日、「質の高い海洋保護区の推進に向けた提言」の最終報告を公表した。2024年から2026年にかけて、専門家による検討会で議論してきた成果である。
提言は、海洋保護区やOECMについて、面積を増やすだけでなく、生物多様性の保全・回復の効果という「質」を高めることが重要だと指摘した。そのうえで、重要な区域の特定と保全・回復、目標の設定と管理計画づくり、幅広い関係者の参画、定期的なモニタリングと結果の公表、結果を踏まえて管理を見直す順応的管理、という5つの基準を示している。
さらに、地域の生物多様性の保全・回復に向けた包括的な計画の策定・実施に取り組む地域を、全国30か所につくる目標を掲げた。これは提言した団体の目標で、国が30か所の整備を決めたという発表ではない。
背景には、海の生物多様性の劣化が沿岸の産業を衰えさせ、担い手が減り、海の手入れがさらに行き届かなくなるという「負のスパイラル」への危機感がある。提言は、国や自治体の推進体制、保全・回復の現場への支援、財源の検討などにも踏み込んでいる。
もともとGBFの30by30は、面積だけでなく、効果的な保全・管理や、生態学的な代表性、区域どうしのつながりなどを求める目標だ。面積の目標をやめて質に切り替える、という話ではない。
線を引いて守るだけでは、海は戻らない。目標を立て、測り、見直しながら手入れを続ける。提言が求めているのは、保護区を「管理し続ける仕組み」である。

30by30は、今年度「中間評価」へ
国内の30by30も、節目を迎える。
環境省は、2022年に策定した30by30ロードマップについて、本年度に進捗状況の中間評価を行う予定だ。それに先立ち、11月4日14時から17時まで、東京・虎ノ門で「30by30ロードマップ未来対話」の第2回を開く。
有識者、自治体、民間企業、NGO、関係省庁などが参加し、セクターを超えた連携をどう強め、取り組みの実効性をどう高めるかを話し合う。一般の傍聴はオンラインのみで、申し込みは10月30日17時まで。報道関係者の現地取材にも事前の申請が必要だ。
区域の数や面積、参加者や資金の量に加えて、生きものや生息環境の状態をどう確かめるか。企業アンケートが示した「測る」ことの難しさと、海洋保護区への提言が求めた「質」の視点は、国内の中間評価にもそのまま重なる論点である。
エレバンへ持ち込む、データと現場の経験
COP17には、政府だけでなく、日本の企業や若者も関わっている。
生物分布のデータベースとAI分析を手がけるシンク・ネイチャーは、海外メンバーを含む5名の専門家チームを派遣した。発表によると、10月21日に農林水産省主催のセミナーに登壇し、22日と23日はTNFD関連のイベントに参加。24日から28日までは現地の日本人参加者向けに連日ブリーフィングを開き、26日には生物多様性データに関するイベントで発表する予定だ。
神戸市は、36名の応募から書類と面接で選んだ学生5名を派遣する。学生たちは、北区の自然共生サイトの棚田での草刈りや、棚田・ため池での希少な動植物の観察などの研修を重ねてきた。現地には4日間ほど滞在し、ユースイベントでの登壇や、海外の学生・自治体との意見交換を行う。渡航費などは協賛企業と市が負担し、帰国後は12月13日の生物多様性シンポジウムで報告する予定だ。
自然の状態を捉えるデータと、地域で手を動かした経験。日本がエレバンに持ち込むものは、政府の交渉方針だけではない。

持ち帰りたいのは、「測ったあと」の行動
日本の企業では、自然との接点を探し、依存や影響を評価する取り組みが広がっている。同時に、指標を決める難しさや、人員・予算の不足も残る。
海の保護区には、面積とともに管理の質が問われる。国内の30by30も、掲げた目標に対して実施を確かめる時期を迎えた。
測ることは欠かせない。だが、測定や開示だけで、自然の損失が止まるわけではない。
何を保ち、どこを回復させるか。そのための人と資金をどう確保し、結果に応じて何を変えるか。COP17での議論を、そこまでつなげたい。
2030年まで、残り4年余り。必要なのは、新しい数字を並べることだけではなく、数字を根拠に次の手入れを決めることである。
参考:
生物多様性条約第17回締約国会議(CBD-COP17)、カルタヘナ議定書第12回締約国会合(CP-MOP12)及び名古屋議定書第6回締約国会合(NP-MOP6)の開催について(環境省)
https://www.env.go.jp/press/press_05695.html
COP17開幕の発表(生物多様性条約事務局、2026年10月19日)
https://www.cbd.int/doc/press/2026/pr-2026-10-19-cop17-en.pdf
COP17 暫定議題(生物多様性条約事務局)
https://www.cbd.int/doc/c/8344/fbc9/280c8fa06e317bd6aafec8ad/cop-17-01-rev1-en.pdf
ハイレベル会合に関する通知(生物多様性条約事務局)
https://www.cbd.int/doc/notifications/2026/ntf-2026-016-cop17-hls-en.pdf
GBF ターゲット3/ターゲット15(生物多様性条約)
https://www.cbd.int/gbf/targets/3
https://www.cbd.int/gbf/targets/15
生物多様性条約第17回締約国会議の注目点(大和総研)
https://www.dir.co.jp/report/research/capital-mkt/esg/20261009_026119.html
Live from COP17: ISSB nature-related disclosures consultation(IFRS財団)
https://www.ifrs.org/news-and-events/news/2026/10/cop17-issb-nature-related-disclosures-consultation/
企業の生物多様性への取組に関するアンケート結果(2025年度調査)(経団連、経団連自然保護協議会)
https://www.keidanren.or.jp/policy/2026/054.html
https://www.keidanren.or.jp/policy/2026/054_kekka.pdf
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000019.000085779.html
「質の高い海洋保護区の推進に向けた提言」最終報告を公表(日本自然保護協会、UMINEKOサステナビリティ研究所)
https://www.nacsj.or.jp/statement/68434/
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000220.000027546.html
30by30ロードマップ未来対話(第2回)の開催について(環境省)
https://www.env.go.jp/press/press_05667.html
シンク・ネイチャー、国連生物多様性条約第17回締約国会議(CBD COP17)に専門家を派遣、現地参加者向けブリーフィングを実施(シンク・ネイチャー)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000074.000100724.html
国連の生物多様性条約締約国会議(COP17)派遣事業(神戸市)
https://www.city.kobe.lg.jp/a66324/kurashi/recycle/biodiversity/cop17.html
FAQ
Q. COP17で行う「初のグローバルレビュー」とは何ですか?
A. 2022年に採択されたGBFの実施について、各国の目標や報告などにもとづき、世界全体の取り組みの進展を検討するものである。条約事務局の世界報告書では、締約国の90%近くが国家目標を設定した一方、締約国自身が順調と評価した国家目標は半数に満たなかった。自然の回復の度合いを一つの数字で表すものではない。
Q. GBFは、企業に直接開示を義務づけるものですか?
A. GBFは、企業の評価・開示などを促す措置を各国に求める国際的な枠組みで、その採択だけで、すべての企業に一律の国内法上の義務が生じるわけではない。個々の企業に適用される要求は、各国・地域の制度や適用される基準を確認する必要がある。
Q. LEAPの60%、44%は何の割合ですか?
A. 経団連のアンケートに回答した332社のうち、Locateに該当する取り組みがあると答えた200社が60%、Prepareに該当する取り組みがあると答えた145社が44%である。日本企業全体の普及率や、手順をすべて終えた企業の割合ではない。
Q. TNFDを参照・対応している75%は、332社の75%ですか?
A. 違う。生物多様性の情報を開示している277社を分母とする、208社の割合である。また、「参照・対応」は企業の回答で、第三者が完全に沿っていることを確かめたものではない。
Q. 「質の高い海洋保護区」の30か所は国の決定ですか?
A. 日本自然保護協会とUMINEKOサステナビリティ研究所の提言が掲げた、地域の生物多様性の保全・回復に向けた包括的な計画の策定・実施に取り組む地域を全国30か所につくる目標である。国が30か所の整備を決めたという発表ではない。
Q. 30by30の中間評価とは何ですか?
A. 環境省が2022年に策定した30by30ロードマップについて、2026年度に行う予定の進捗状況の評価である。その実施に先立ち、11月4日に、有識者、自治体、企業、NGOなどが議論する「30by30ロードマップ未来対話」の第2回が開かれる。
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