
★要点
大林組が、鋼・コンクリートのハイブリッド構造を採用したTLP型浮体式洋上風力発電施設の支持構造物で、日本海事協会(ClassNK)から基本設計承認(AiP)を取得した。TLP型ハイブリッド浮体式基礎に対するClassNKのAiPとしては世界初の事例とされ、浮体建造費25%削減、発電効率約8%向上、漁業活動への影響抑制を見込む。
★背景
日本の再エネ拡大にとって、洋上風力は大きな柱だ。一方で、遠浅の海が少ない日本では、海底に固定する「着床式」だけでは限界がある。深い海域でも設置できる浮体式洋上風力を、どう量産し、コストを下げ、地域や漁業と共存させるか。技術だけでなく、産業構造と合意形成の問題でもある。
日本の海は広い。
だが、風車を建てやすい海ばかりではない。
遠浅の海が少なく、水深が急に深くなる。港湾、漁場、航路、景観、海底地形。洋上風力を広げるには、海の条件を読み解き、地域と折り合いをつけ、巨大な構造物を安く、早く、安定してつくる技術がいる。
大林組が開発を進めるTLP型ハイブリッド浮体式洋上風力発電施設は、その難題に挑む一手だ。鋼とコンクリートを組み合わせ、浮体を張力で海底につなぎ、海上での揺れを抑える。ClassNKから基本設計承認を得たことで、商用化を想定した設計の次段階へ進む足場が整った。
洋上風力は、風車だけでは成り立たない。
支える構造物、つくる工場、運ぶ港、つなぐ海域、受け入れる地域。
海に浮かぶ発電所の勝負は、足元から始まっている。
TLP型とは何か——“浮かせる”だけでは足りない
浮体式洋上風力とは、海底に固定せず、海に浮く基礎の上に風車を載せる方式だ。深い海でも設置できるため、日本のように遠浅の海域が限られる国では重要な選択肢になる。
ただし、浮かべばよいわけではない。
風車は高く、重く、風を受ける。海では波、潮流、風が複雑にぶつかる。浮体が大きく揺れれば、発電効率や機器寿命、保守性に影響する。
TLPは「テンション・レグ・プラットフォーム」の略だ。浮体を海底のアンカーと係留索でつなぎ、常に張力をかけることで上下方向の揺れを抑える。大林組の試算では、他の浮体形式であるセミサブ型と比べ、発電効率が約8%向上するとされる。
この差は小さくない。
洋上風力は、数十基、数百基の風車を長期間運用する事業だ。1基あたりの発電効率、点検頻度、建設コスト、占用海域。その積み上げが、電気の価格と事業の採算を左右する。
海の上では、揺れを抑えることが経済性につながる。
TLP型が注目される理由は、そこにある。
鋼とコンクリートを組み合わせる——量産を見据えた“つくり方”の設計
今回のポイントは、TLP型であることだけではない。
鋼とコンクリートを組み合わせたハイブリッド構造を採用した点にある。
大林組は、鋼製部材とコンクリート部材を適材適所で使い分ける構造とした。部材をそれぞれ製作し、運搬後に現場の組立ヤードで接続することが可能になる。これにより、製作方法や施工方法の選択肢が広がり、同社試算では他の浮体形式である鋼製セミサブと比べ、浮体建造費を25%削減できる見込みだ。
洋上風力の普及で壁になるのは、発電技術だけではない。
量産できるか。
港で組み立てられるか。
部材を運べるか。
サプライチェーンを組めるか。
建設コストを下げられるか。
浮体式洋上風力は、1基だけ作って終わる技術ではない。
大量導入を想定するなら、造船、鉄鋼、建設、港湾、海洋土木が組み合わさる産業になる。
鋼とコンクリートのハイブリッド化は、素材の話であり、同時に産業の組み方の話でもある。どこで作り、どこで組み、どう運び、どう量産するか。浮体の設計は、製造体制の設計と切り離せない。
ClassNKのAiPが持つ意味——技術を“成立可能な設計”へ進める
今回、大林組は日本海事協会(ClassNK)から基本設計承認、いわゆるAiPを取得した。AiPは、設計がガイドラインの要求事項に照らして評価され、成立可能な設計であると確認されたことを示す。ClassNKが鋼・コンクリートのハイブリッド構造を採用したTLP型浮体式洋上風力発電施設の支持構造物にAiPを発行するのは、同協会調べで世界初とされる。
これは、事業化のゴールではない。
だが、次へ進むための門である。
洋上風力は、発想だけでは動かない。海上構造物には安全性、構造強度、係留、施工、保守、台風や波浪への耐性など、多くの確認がいる。認証機関による評価は、投資家、発注者、行政、地域関係者にとって、技術の信頼性を判断する材料になる。
大林組は2012年からTLP型浮体式洋上風力発電施設の研究開発に取り組み、水槽模型実験、数値解析、浮体のみの実海域実証試験などを重ねてきた。2018年には、風車を搭載したTLP型コンクリート浮体についてClassNKからAiPを取得している。今回の承認は、その蓄積の上にある。
海に浮かぶ発電所は、机上のアイデアから始まり、模型、水槽、実海域、認証、量産、運用へ進む。
今回のAiPは、その階段を一段上がったことを意味する。

(左からClassNK 山口欣弥常務理事、NEDO 松本真太郎理事、大林組執行役員 上月健司)
漁業と共存できるか——占用海域を小さくする設計の意味
洋上風力で避けて通れないのが、海域利用との調整だ。
海は空いているように見えて、実際には多くの用途が重なっている。漁業、航路、観光、景観、防衛、環境保全。陸上の土地と同じように、海にも社会的な地図がある。
大林組が強調するTLP型の利点の一つが、係留索の広がりを抑えやすいことだ。一般に、カテナリー型係留は水深の10倍程度の占用幅が必要とされる。一方、TLP型は係留索の広がりが小さく、占用海域を最小限に抑えやすい。これにより、漁業活動への影響を抑制しやすい方式として注目されている。
再エネ導入は、発電量だけで評価できない。
地域にどれだけ負担をかけるのか。
漁業との調整は可能か。
海域をどれだけ占めるのか。
保守船や港湾への影響はどうか。
これらに答えられなければ、技術があっても進まない。
TLP型の係留方式は、発電効率だけでなく、海を共有するための設計でもある。浮体式洋上風力の社会実装には、風を読む力と同じくらい、地域の関係を読む力がいる。
日本のネットゼロに、浮体式洋上風力はなぜ必要か
日本は2050年カーボンニュートラルを掲げる。だが、再エネ適地には制約がある。太陽光は設置場所や系統制約、景観、農地との関係が問われる。陸上風力も騒音、景観、自然環境、地域合意の課題がある。
その中で、洋上風力は大きなポテンシャルを持つ。特に浮体式は、深い海域を活用できるため、日本の地形条件に合いやすい。Maintainableでも、2050年ネットゼロに向けた日本のエネルギー転換では、再エネ、電化、水素、産業転換を組み合わせる必要があると報じてきた。
ただし、洋上風力は“夢の電源”ではない。
コスト、系統、港湾、保守、環境影響、漁業調整。課題は多い。
だからこそ、基礎構造物の低コスト化と量産化は重要になる。発電するのは風車だが、風車を支える浮体が高すぎれば、事業は広がらない。発電効率が不安定なら、収益性は落ちる。係留が広がりすぎれば、海域利用の調整が難しくなる。
浮体式洋上風力の普及は、風車メーカーだけの問題ではない。
建設会社、港湾、海洋エンジニアリング、認証機関、自治体、漁業者、金融が絡む総力戦だ。
大林組のTLP型ハイブリッド浮体は、その一部を担う技術として位置づけられる。
2028年実海域実証へ——社会実装までの距離
大林組は今後、NEDO事業のもとで、2028年に風車を搭載した実海域実証実験の実施を目指す。今回のAiP取得により、商用時を想定した設計を次段階へ進める基盤が整った。
ここからが本番だ。
実海域では、水槽や解析では見えにくい現象が出る。台風、うねり、塩害、長期疲労、施工時のリスク、保守アクセス、予期せぬ揺れ、地域との調整。1MW級からより大型の商用機へ移るには、さらに多くの検証が必要になる。
また、量産化には港湾の整備も欠かせない。大型部材を保管するヤード、組立スペース、曳航ルート、作業船、保守拠点。浮体式洋上風力は、海上に発電所をつくると同時に、陸側の産業基盤も必要とする。
実証は、技術の試験であり、産業化の予行演習でもある。
浮体が浮くか。風車が回るか。コストが下がるか。地域と合意できるか。保守できるか。
この全部を確かめなければ、社会実装には届かない。
海を“発電所”にする前に、海をどう使うかを設計する
洋上風力の議論では、発電量やコストが注目されやすい。もちろん重要だ。だが、これから問われるのは、海をどう使うかという設計思想でもある。
占用海域を小さくする。
漁業への影響を抑える。
部材を量産しやすくする。
建設コストを下げる。
保守しやすくする。
災害に耐える。
TLP型ハイブリッド浮体の価値は、こうした複数の条件を同時に満たそうとする点にある。
日本の海は、脱炭素のフロンティアであると同時に、地域の暮らしと産業の場でもある。風を電気に変えるには、海の利用者と技術が同じテーブルに座る必要がある。
浮体式洋上風力の未来は、巨大な風車の姿だけでは決まらない。
その下にある基礎、係留、港湾、地域合意、量産体制が決める。
大林組のAiP取得は、その見えにくい足場に光を当てた。
海に浮かぶ発電所の時代は、構造物の設計から始まっている。
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