★ここが重要!

★要点
都内で銭湯の減少が続くなか、約100年続いた銭湯を新しい担い手が受け継ぐ動きが生まれた。
合同会社OFURO WORKSは2026年10月22日、1927年(昭和2年)開業の東京都練馬区の銭湯「浅間湯」(西武池袋線江古田駅から徒歩2分)を事業承継し、2026年12月上旬にリニューアルオープンすると発表した。前経営者の高齢化と設備の老朽化で営業の継続が難しくなっていたところ、東京都と東京都公衆浴場業生活衛生同業組合による「東京都公衆浴場承継マッチング事業」を通じて引き継ぎが決まった。
浴室や「家族愛」をテーマにしたタイル絵、店先の信楽焼のたぬきは残し、外観や脱衣所、サウナ設備を新しくする。東京都の資料によると、都内の銭湯は2015年末の628軒から2025年末の417軒へ、10年で211軒(約34%)減った。歴史ある建物の一部を残しながら設備を更新し、地域の居場所を次世代につなぐ「承継」という手入れを読み解く。

★背景
銭湯は、家に風呂がなかった時代の暮らしを支えた公衆浴場だ。家庭に浴室が行き渡った今も、高齢者の健康づくりや住民どうしの交流の場として、地域で役割を果たしている。1981年に制定された「公衆浴場の確保のための特別措置に関する法律」は、公衆浴場を「住民の日常生活において欠くことのできない施設」としている。
一方で、銭湯の経営は厳しい。設備の老朽化や経営者の高齢化、後継者不足などが重なり、廃業が続いている。東京都の銭湯の入浴料金(大人)は、2026年8月1日から600円に改定された。
建物と設備を直しながら使い続け、経営そのものを次の世代に引き渡す。銭湯の承継は、街の生活インフラを守るためのメンテナンスでもある。

西武池袋線の江古田駅から歩いて2分。
住宅街の一角に、約100年にわたってのれんを掲げてきた銭湯がある。
1927年に開業した「浅間湯」だ。
浴室の壁には「家族愛」を描いた色鮮やかなタイル絵、店先には信楽焼のたぬき。
家族で3代にわたって守られてきたこの銭湯が、いったんのれんを下ろし、新しい担い手のもとで12月に再び湯を沸かす。
都内の銭湯がこの10年で約3分の1減るなかで、一軒の銭湯が受け継がれるまでの道のりから、街の生活インフラを残す方法を考える。

1927年開業の「浅間湯」、12月に再出発

合同会社OFURO WORKS(代表社員:宮井康太郎)は2026年10月22日、東京都練馬区栄町の銭湯「浅間湯」を事業承継したと発表した。浅間湯は1927年(昭和2年)に開業し、約100年にわたって地域に親しまれてきた。
前経営者は3代目で、家族で営業を続けてきたが、経営者の高齢化と設備の老朽化により、営業を続けることが難しくなっていた。承継後は一時休業して改装を行い、2026年12月上旬にリニューアルオープンする予定だ。
リニューアル後の営業時間は15時から23時まで。定休日は、これまでの金曜日から毎週月曜日に変わる。

リニューアル後の外観イメージ(完成予想図)
合同会社OFURO WORKSプレスリリースより

残すもの、変えるもの――タイル絵とたぬきは残し、サウナと外観は新しく

改装で大切にしたのは、何を残し、何を変えるかの見極めだ。
残すのは、昔ながらの面影が残る浴室、「家族愛」をテーマに描かれた色鮮やかなオリジナルのタイル絵、そして店先の信楽焼のたぬき。長年の利用者にとって、この銭湯らしさをつくってきたものだ。
変えるのは、外観、ロビー、脱衣所、サウナ設備だ。外観は街並みに調和する落ち着いたデザインに、ロビーと脱衣所は木のぬくもりを感じられる空間にする。サウナにはメトス製の電気サウナヒーターを新しく入れ、利用者が自分で蒸気を立てられるセルフロウリュにも対応する。
すべてを新しくするのではなく、価値のある部分を残し、傷んだ部分や時代に合わなくなった部分を直す。古い建物を使い続けるための、メンテナンスの基本的な考え方がここにある。

親しまれてきた浴室やタイル絵、信楽焼のたぬきはそのまま引き継がれる。
合同会社OFURO WORKSプレスリリースより
開放感のあるロビー(完成予想図)
合同会社OFURO WORKSプレスリリースより
サウナにはメトス製の電気サウナヒーターを導入
合同会社OFURO WORKSプレスリリースより

承継を支えた仕組み――担い手の養成とマッチング

銭湯を継ぎたい人がいても、閉めようとしている銭湯と出会えなければ承継は起きない。浅間湯の承継を支えたのは、行政と業界団体がつくってきた仕組みだった。
宮井氏は大学卒業後、メーカーなど数社に勤めた。長年銭湯に通ううちにその魅力に引かれ、銭湯の経営を志したという。2021年には、東京都公衆浴場業生活衛生同業組合が主催する「銭湯の担い手養成講座」を修了している。その後、東京都と同組合が連携して進める「東京都公衆浴場承継マッチング事業」を通じて、浅間湯とのマッチングが成立した。
同組合の佐伯雅斗副理事長は、リリースの中で「入念な準備をしチャンスを待っていた方だけがその権利を得ることができます」と述べ、宮井氏の意欲と行動力を評価している。講座を修了してから承継が実現するまでには、数年の時間がかかった。

10年で211軒減――都内の銭湯の現在地

浅間湯の承継が注目されるのは、都内の銭湯が急速に減っているからだ。
東京都が公表する「東京の公衆浴場の現況」(各年12月末時点)によると、都内の銭湯は2015年末の628軒から、2025年末には417軒になった。10年で211軒、約34%の減少だ。
一軒の銭湯が閉まると、近くの住民は遠くの銭湯まで通うか、銭湯に通うこと自体をやめることになる。特に、高齢者や、浴室のない古い住宅に住む人にとっては、日々の入浴の場が失われることを意味する。
銭湯の入浴料金は、東京都が統制額として定めている。2026年8月1日からは、大人が550円から600円に改定された。料金の改定だけでは経営の課題は解決しない。建物や設備の維持と、担い手の確保をどう両立させるかが問われている。

地域とともに直す――大学との連携とクラウドファンディング

浅間湯のリニューアルは、地域や若い世代を巻き込みながら進められている。
新しいロゴとキャラクターは、日本大学芸術学部デザイン学科との産学連携で制作を進めている。キャラクターのモチーフは、店先の信楽焼のたぬきだ。同学科の布目幹人准教授は、学生とともにリニューアルに関われることを喜び、浅間湯が芸術と暮らしが交わる場所になることへの期待を示している。
リニューアルに向けては、クラウドファンディング(CAMPFIRE)も行う。期間は2026年11月1日から30日まで、目標金額は100万円。リターンには、プレオープンの特別見学ツアーやオリジナルのTシャツ・タオルなどが用意される。
銭湯を「お客として使う」だけでなく、「直すことに参加する」入口をつくることで、地域の銭湯を地域で支える関係を広げようとしている。

日本大学芸術学部デザイン学科 准教授 
布目幹人さん
合同会社OFURO WORKSプレスリリースより
CAMPFIREプロジェクトのメインビジュアル
合同会社OFURO WORKSプレスリリースより

建物と営みを、次の世代へ

古い建物を残すには、建物を直すことと、そこで営みを続ける人を見つけることの両方が必要になる。
浅間湯の承継は、担い手を育てる講座、継ぎたい人と継いでほしい銭湯を結ぶマッチング、残すべきものと変えるべきものの見極め、そして地域を巻き込む資金集めという、いくつもの手入れが重なって実現した。
都内の銭湯は10年で約3分の1が姿を消した。一軒一軒の承継は小さな動きだが、街の生活インフラを次の世代へ手渡す方法を具体的に示している。
12月、江古田の浅間湯は、約100年の歴史を受け継いで再び湯を沸かす。

【参考】

東京都:「東京の公衆浴場はどうなっているの?(東京の公衆浴場の現況)」(2026年7月21日更新、浴場数は各年12月末時点)
https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.lg.jp/chousa/yokujyo/genjo.html

合同会社OFURO WORKS:プレスリリース「約100年続く江古田の銭湯『浅間湯』を事業承継。2026年12月にリニューアルオープン」(2026年10月22日発表)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000193047.html

文京区:「公衆浴場の入浴料金が変わります」(令和8年東京都入浴料金の統制額、2026年7月21日告示)
https://www.city.bunkyo.lg.jp/b026/p003047/index.html

衆議院:公衆浴場の確保のための特別措置に関する法律(昭和56年法律第68号)
https://www.shugiin.go.jp/Internet/itdb_housei.nsf/html/houritsu/09419810609068.htm

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