
★要点
85年前にドイツ系ユダヤ人作家が遺した童話『冬にやってきた春と夏と秋』が、ピュリッツァー賞作家ジョナサン・フリードランドと人気絵本作家エミリー・サットンにより絵本化。季節が同時に訪れることで起こる異常気象と混乱を描き、現代の気候変動問題に警鐘を鳴らす。
★背景
地球規模での異常気象が常態化し、気候変動への対応が喫緊の課題となる中、子どもたちへの環境教育の重要性が増している。文学作品を通じて、自然のサイクルと生態系のバランスへの理解を深め、未来に向けた行動を促す新たなアプローチが求められている。
冬の宮殿に春と夏と秋が同時にやってきたら、世界はどうなるだろうか。85年前、第二次世界大戦下の混乱期に一人のユダヤ人作家が遺した童話が、時を超え、現代の気候変動時代に新たな意味を帯びて蘇った。ピュリッツァー賞作家と英国人気絵本作家の手によって生まれた『冬にやってきた春と夏と秋』は、美しい絵の中に、私たちへの深い問いを投げかける。自然のサイクルが乱れた時、地球と生命に何が起こるのか──この寓話は、まさに現代社会が直面する危機を映し出している。
若きユダヤ人作家が遺した警鐘──85年の沈黙を破り現代へ
物語の原点に立つのは、ウルリッヒ・アレクサンダー・ボシュヴィッツというドイツ系ユダヤ人作家だ。第二次世界大戦下、ナチスの迫害から逃れるためヨーロッパを転々とし、27歳の若さで命を落とした彼が、85年前に遺したのがこの童話だった。戦火の影が忍び寄る時代に書かれた作品が、現代の気候変動という新たな危機と呼応するとは、誰が想像しただろうか。ピュリッツァー賞作家ジョナサン・フリードランドがその物語を現代に紡ぎ直し、エミリー・サットンが細部まで描き込まれた繊細なイラストで彩ることで、原作者のメッセージは時代を超え、鮮やかに現代の子どもたち、そして大人たちの心に届く。
季節の狂宴が招く混沌──自然の摂理と異常気象のメタファー
冬の王さまが誕生日に兄弟である春の女王、夏の王、秋の女王を招いたことから物語は始まる。太陽も風も止めるよう忠告するが、冬の王は耳を貸さない。結果、冬の宮殿の外では、太陽が照りつける中で秋の雨が降りしきり、雪が舞い、春の花が咲き乱れるという奇妙な光景が繰り広げられる。田畑の作物は実らず、動物たちは冬眠の時期を失い混乱する。この描写は、まさに現代の異常気象と気候変動が引き起こす生態系の混乱を予見しているかのようだ。自然のサイクルを無視し、人間の都合で秩序を乱すことが、いかに深刻な結果を招くか。童話という形を取りながら、この絵本は読者にその本質を問いかける。



未来への希望と責任──物語が育む環境意識
やがて、季節の王たちは自分たちの行いがもたらす悲劇に気づき、それぞれが自身の宮殿へと帰っていく。そして、再び季節は元の秩序を取り戻す。この結末は、自然の摂理を尊重し、乱れたバランスを元に戻すことの重要性を示唆している。物語は、気象変動や異常気象といった現代の地球規模の課題を、子どもにも理解しやすい寓話として提示。美しい絵と言葉を通じて、自然との共生のあり方、そして未来の地球を守るために私たちが何をすべきかを考えさせる「きっかけ」を与えるだろう。教育現場や家庭で、この絵本が自然環境について語り合う貴重なツールとなることは間違いない。
【徳間書店】https://www.tokuma.jp/book/b669488.html
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