
★要点
北軽井沢スウィートグラスがジャパントラベルアワード[特別賞 ファミリー部門]を受賞。評価の核は、薪ストーブを中心に据えた滞在体験と、自然循環に参加することで生まれる「家族の関係性の再編集」にある。
★背景
効率と利便性を追い続けてきた現代社会で、家族の分断や孤立が進行。観光もまた「消費」から「関係性を回復する体験」へと役割転換を迫られている。
旅は、非日常を消費するものだった。だが今、その前提が変わり始めている。
浅間山北麓、標高1,100メートルの高原に広がる北軽井沢スウィートグラス(運営:有限会社きたもっく、本社:群馬県長野原町、代表:福嶋誠)は、キャンプ場という枠を超え、「家族の関係性を再生する場」として評価された。火を起こし、森に触れ、不便さを引き受ける。その一つひとつの行為が、分断されがちな日常を編み直していく。観光が社会装置へと変わる、その転換点がここにある。
レジャーから再生へ――「家族」という最小単位に向き合う旅
ジャパントラベルアワードが評価したのは、派手なアクティビティではない。30年にわたり積み重ねられてきた「家族で過ごす時間の質」だ。
北軽井沢スウィートグラスは、キャンプを娯楽として提供するのではなく、家族関係を見つめ直すための“間”を設計してきた。スマートさより、あえての不自由。効率より、手間。そこで生まれる沈黙や会話が、関係性を再起動させる。
少子化、共働き、デジタル依存。家族を取り巻く環境が複雑化する今、旅先が果たす役割も変わり始めている。
火のある日常――薪ストーブがつくる時間の密度
全50棟に設えられた薪ストーブ。火を焚くという行為が、滞在の中心に据えられている。
薪は自社管理林の間伐材から生まれ、宿泊費に含まれる。利用者は気づかぬうちに、森の循環に参加している。火を囲み、揺らぎを眺め、言葉を探す。その時間は、スイッチ一つで完結する現代生活とは対極にある。
エネルギーを「使う」のではなく「扱う」。その体験が、子どもにも大人にも、生活と自然の距離感を問い直させる。

建築が遊びになる――想像力を解放する空間設計
ツリーハウスビルダーの稲垣豊さんによる建築群は、設計図に縛られない。地上15メートル超の「ノッポ」、樹上回廊で結ばれた「トントゥ・ノア」。そこにあるのは、正解のない空間だ。
子どもは冒険者になり、大人は童心に引き戻される。「石窯コテージMUGI」では、パンを焼き、店を開く。家族が役割を持ち、協働する。そのプロセス自体が、体験の核となる。
建築は背景ではなく、関係性を生むメディアとして機能している。

ネイチャーポジティブという実装――楽しむことが循環になる仕組み
サステナビリティは、我慢では続かない。スウィートグラスの循環モデルは明快だ。
森を手入れし、木を薪や建材にし、蜂蜜として価値化する。そのすべてが、場の運営と来訪者の体験に直結している。スウィートグラスには年間約8万人が訪れ、楽しむほどに地域の自然基盤が健全化する。
消費と保全を分断しない。ネイチャーポジティブを理念で終わらせず、日常の行動に落とし込む設計思想が、評価の根幹にある。
30年の現場力――「安心」があるから、冒険できる
忘れてはならないのが、裏側の労働だ。
清掃、点検、修繕。30年間、手を抜かずに積み上げられてきた現場の仕事が、「ここなら大丈夫」という信頼を支えている。安全が担保されているからこそ、利用者は自然の不自由や冒険を引き受けて楽しむことができる。
創造性は、管理の放棄からは生まれない。誠実なメンテナンスが、独創的な場を成立させている。

観光の次章――「豊かさの市場」をどうつくるか
北軽井沢スウィートグラスが示したのは、観光の新しい役割だ。
それは経済効果の最大化ではなく、関係性の回復を価値として流通させること。家族という最小単位から始まり、地域、自然、未来へと波及させることだ。
旅は逃避ではなく、再接続の装置になり得る。火を囲む時間が、その可能性を確かに証明している。
施設情報:
施設名称:北軽井沢スウィートグラス
所在地 :群馬県吾妻郡長野原町北軽井沢1990-579
https://sweetgrass.jp/
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