
★要点
米国発の流域環境認証「Salmon-Safe」を日本で初めて取得した日本酒「MEGURU」が登場。飲む行為を通じて、水質保全と生態系回復に参加できる仕組みを実現した。
★背景
気候変動と水資源リスクが顕在化する中、国境を越えて「流域」という単位で環境を捉える動きが加速。日本酒もまた、農業・水・地域経済をつなぐ装置として再定義されつつある。
環境配慮は、もはや特別な選択ではない。
水を汚さず、土地を疲弊させず、その結果として「おいしい」ものが残るか。日本酒「MEGURU」は、その問いを正面から突きつける。米国の流域環境認証「Salmon-Safe」を日本で初めて取得したこの酒は、気候危機の時代における“選ぶ責任”を更新する存在だ。
流域で考える環境――Salmon-Safeという新しい物差し
Salmon-Safeは、州や国境ではなく「流域(Watershed)」を基準に水質と生態系を守る環境認証だ。オレゴン州を拠点に、米国西海岸で広がり、農業から都市開発までを対象にしてきた。マイクロソフトやNIKEの敷地が取得していることからも、その射程の広さが分かる。
重要なのは、単なる「環境に優しい」表示ではない点だ。化学肥料や農薬の使用、水路管理、生物多様性への配慮まで、専門家が現地で厳格に審査する。守る対象は一社一製品ではなく、川の上流から下流まで続く生態系全体。その思想が、今回初めて日本酒に接続された。

廃棄物が米になり、酒になる――「環」(MEGURU)がつくる循環の設計
「MEGURU」の原点には、神戸新聞社が進めてきた「地エネの酒 for SDGs」プロジェクトがある。牧場のバイオガス事業で生まれる消化液を肥料に、兵庫県産の酒米「山田錦」を育てる。これまで廃棄されてきた副産物が、農地を潤し、日本酒へと姿を変える。
7つの農家と7つの酒蔵が連携し、生まれた純米吟醸「環」。資源循環、脱炭素、地域内連携。その実践は、Salmon-Safeが求める流域思想と自然に重なった。環境配慮は“付け足し”ではなく、酒造りの前提条件へと組み込まれている。

同じ米、異なる表情――二つの蔵が醸す「MEGURU」
「MEGURU」には二つの顔がある。
一つは、1874年創業の岡田本家による「MEGURU-SEITEN」。2~3人という極小規模で、洗瓶からラベル貼りまで手作業。澄んだ酒質は、手仕事の積み重ねそのものだ。
もう一つは、1839年創業の富久錦が手がける「MEGURU-FUKUNISHIKI」。自然の乳酸菌と酵母を活かす生酛造りを現代化し、複雑で奥行きのある旨味を引き出す。
同じ米、同じ流域。それでも酒は異なる。土地と水を共有しながら、表現は分かれる。その多様性こそが、健全な循環の証明でもある。

飲めない人も参加できる――循環素材が広げる選択肢
環境アクションは、酒を飲む人だけのものではない。
「MEGURU」では、循環素材「WACS」を用いた靴下やフーディーも用意された。廃棄される繊維を原料に戻し、再び製品へ。背中に記された「Watersheds matter」という言葉が、このプロジェクトの核心を端的に語る。
消費の形を一つに限定しない。参加の入り口を複数用意する。その設計思想もまた、流域的だ。


“おいしい”は続けられるか――購買行動の次の基準
サステナブルは、努力目標では長続きしない。
透明な基準があり、第三者が検証し、しかもおいしい。Salmon-Safeというエコラベルは、感情論ではなく判断軸として機能する。Super Normalが掲げる「優れたふつう」とは、こうした選択が無理なく日常に溶け込む状態を指す。
水は、すべての産業を貫くインフラだ。
その源流に目を向ける日本酒「MEGURU」は、単なる新商品ではない。流域から未来を考えるための、小さくも確かな実装例である。
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