
★要点
三菱重工業が、カタールの発電造水プラント「ファシリティE」向けに最新鋭M701JAC形ガスタービン4台を初受注。送電容量の約20%に当たる240万kWの電力と、1日49.5万トンの淡水供給を担う計画だ。
★背景
気候危機が「暑さ」と「水不足」を同時に深刻化させる中、淡水化はエネルギーを食い、エネルギーは水を必要とする“水×電力の結び目”が世界のリスクになっている。脱炭素の道筋は理想論だけでは走れず、既存インフラの更新速度と供給安定の両立が現場のテーマだ。
電気は止められない。水も止められない。砂漠の国であるカタールにとって、その二つは同じレバーでつながっている。三菱重工業が受注したのは、発電と造水を同時に支える“国家規模の心臓部”だ。水素対応の最新鋭ガスタービンは、脱炭素の切り札なのか。それとも、化石燃料依存を長引かせる延命装置なのか。問いは単純で、答えは複雑だ。
電力2.4GWと淡水49.5万トン。“生活インフラの二刀流”が前提になる国
今回の案件は、首都ドーハ南方のラス・アブ・フォンタス地域に建設される発電造水プロジェクト「ファシリティE」。完成後、カタールの送電容量の約20%に相当する240万kWの電力と、1日当たり49.5万トンの淡水を供給する計画だという。プラント運転は2028年開始を見込む。
ここで重要なのは「電気」と「水」を別々に語れない現実だ。淡水化はエネルギー多消費型のインフラであり、逆に発電所も冷却や運用で水に依存する。国際エネルギー機関(IEA)も、水とエネルギーの相互依存が各国の政策課題であることを繰り返し指摘してきた。
つまり、気候変動の時代に“どちらか一方だけ最適化する”発想は崩れつつある。水が足りないから発電が止まる、電気が足りないから水がつくれない。そんな連鎖を、国家は最も恐れる。
水素対応ガスタービンの意味——「いつかゼロ」の前に「今日を落とさない」
三菱重工が供給するM701JAC形は、水素混焼能力を備えた最新鋭機種とされる。高効率・高信頼性に加え、起動や負荷変化への追従性を武器に、電力網の安定化に寄与する狙いだ。
ただし「水素対応」という言葉には、便利な誤解が混ざる。水素を“すでに十分使う”のではなく、“使える設計にしておく”段階であることが多い。燃料供給網、価格、認証(本当に低炭素か)、そして安全規制——どれが欠けても水素は主燃料になり切れない。
それでも各国が「対応」を急ぐのは、再エネが伸びても系統の調整力が必要で、需要ピークの切り札が当面は火力側に残るからだ。脱炭素は一本道ではない。「ゼロにしたい」だけでは、停電は防げない。
“淡水化”は気候対策の盲点。排熱と塩、そしてコストの現実
淡水化は、気候危機の適応策でありながら、エネルギーを増やして排出を誘発しやすい。しかも副産物として高塩分の濃縮塩水(ブライン)が生まれ、海洋環境への影響も議論が続く。世界銀行は淡水化の拡大が水ストレス対策として進む一方、エネルギー需要や環境影響を含めた管理が不可欠だと整理している。
今回のような発電造水一体型は、効率化の余地が大きい半面、固定資産としての寿命も長い。気候政策が厳しくなるほど、「この設備は将来どの燃料で回すのか」「CO2をどう扱うのか」が投資判断の核心になる。
エネルギー安全保障の裏面。“脱炭素”は地政学とセットで動く
発電と水は、政治のインフラでもある。今回のプロジェクトには、カタール側の事業体に加え、日本企業、韓国企業が関与し、EPCの取りまとめは韓国サムスンC&Tが担う。三菱重工は長期保守契約も結び、運転開始後の安定稼働を支えるという。
ここに見えるのは、脱炭素が「技術」だけでなく「供給網」と「長期運用」の競争であることだ。設備は納めて終わりではない。燃料転換の過渡期ほど、保守・改修・運用ノウハウの価値が跳ね上がる。
そして、カタールが掲げる国家ビジョン「National Vision 2030」は、低炭素化を含む持続可能な発展を志向する。だが同時に、足元の需要は増える。理想と現実の間で、インフラは“止まらない折衷案”を選び続ける。
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