★ここが重要!

★要点
2026年9月、土壌を舞台にした技術や事業の発表が相次いだ。岩石の風化を促して二酸化炭素を除去する融資案件。微生物を定着させたバイオ炭による土づくりの実証。もみ殻を炭に変える装置。果皮由来の吸水性ポリマーによる赤土流出対策。モンゴルの草原管理を改善するための協定である。
共通するのは、土の働きを事業や研究の対象として捉え直していることだ。ただし、目的は同じではない。炭素の貯留、作物の生育、水の保持、土砂流出の抑制。それぞれの効果を、それぞれの指標で確かめる必要がある。
そして同じ月、高齢のコナラを伐採して萌芽再生させても、根による土壌補強強度が8年後まで低い水準にとどまる研究が公表された。「8年待てば回復する」という報告ではない。地上の再生と、地中の機能回復は、同じ速度で進むとは限らない。

★背景
土壌は、地球の大きな炭素貯蔵庫の一つだ。土地利用や管理の仕方によって炭素を失うこともあれば、劣化した土壌の修復や適切な管理によって貯留を増やせる可能性もある。FAOも、土壌炭素の保全を農業生産や侵食防止と結びつけている。
ただし、土に何かを入れれば、それだけで環境がよくなるわけではない。投入する材料、土質、気候、管理方法によって結果は変わる。実証の開始、装置の販売、協定の締結と、現場で効果が確認されたことは分けて読む必要がある。
土を直す仕事には、技術を導入する時間と、その後を確かめる時間がある。本稿は、9月に公表された五つの取り組みと一つの研究を、この二つの時間から見ていく。

岩を砕いて、畑にまく。
地球を修理する技術として、これほど地味なおこないがあるだろうか。
2026年9月17日、出光興産が、米国子会社を通じたInPlanet社への融資を発表した。ドイツ・ミュンヘンに拠点を置く同社は、ブラジルの農地などで、粉砕したケイ酸塩岩の風化を促進し、大気中のCO2を除去する事業を進めている。
同じ9月、千葉県佐倉市で7月から進む微生物付きバイオ炭の実証が公表され、もみ殻を炭に変える装置の受注開始も発表された。沖縄では、7月に始まった赤土流出対策の実証への参画が公表され、モンゴルでは草原再生と土壌炭素保全に向けた協定が結ばれた。
国も規模も、仕組みも違う。それでも、出発点には土がある。
そして、土の機能を確かめる研究は、技術への期待にもう一つの視点を添える。コナラの根は、伐採から8年後にも、伐採前の補強力を取り戻していなかった。
直すことと、直ったと確かめること。その間には、時間がある。

緑の農地で砕いた岩石を散布する赤い農業機械
ブラジルの農地で岩石を散布するInPlanetの取り組み。岩石の風化反応を促し、CO2の除去を目指す。
出典:出光興産株式会社プレスリリース(InPlanetの取り組み)

岩を砕いて、風化を急がせる

ケイ酸塩岩の風化では、CO2が水に溶けて生じる酸が岩石と反応し、炭素が重炭酸イオンなどの形になる。InPlanetが取り組む岩石風化促進、Enhanced Rock Weathering(ERW)は、岩石を細かく砕いて表面積を増やし、この反応を速める手法だ。
散布の舞台は農地だが、除去した炭素がすべて土壌有機炭素として土に残るわけではない。重炭酸イオンとして水に溶け、河川や海へ運ばれる経路も含む。バイオ炭や草原土壌の炭素貯留とは、仕組みが異なる。
出光興産の発表によると、InPlanetは土壌改良や農業資材への依存低減も目指している。農家にとっての利益と、炭素除去を評価する仕組みを組み合わせる事業である。ただし、土壌や作物への効果は、個々の条件で確かめなければならない。
同社のクレジットは2024年12月から供給され、出光興産はBeZero Carbonの「A」格付け取得も紹介した。これはクレジットの炭素効果に関する評価であり、個々の散布地での効果や、測定誤差の不存在を保証するものではない。
地球が続けてきた反応を、人の時間に近づける。だからこそ、どれだけ反応が進み、どれだけCO2を除去したのかを測る仕事が、事業の中心になる。

炭に、微生物を住まわせる

バイオ炭は、植物などのバイオマスを、酸素の供給を制限しながら加熱・炭化したものだ。植物を「熔かす」のではない。分解されにくい炭素を含む材料に変え、土壌への施用などを通じて炭素を長くとどめることを目指す。
TOWINGは、この炭に土壌微生物を定着させた高機能バイオ炭「宙炭」を開発している。9月3日に公表された佐倉市との実証では、耕作放棄地の再生と有機農業への転換を目指す。実施期間は2026年7月から2027年3月まで。ホウレンソウ、コマツナ、カブを栽培する計画だ。
同社が掲げるのは、有機物を植物が利用しやすい養分へ変える微生物の働きを活用し、土づくりを短縮すること。ただし、この発表は実証の開始を知らせるものであり、佐倉市で短縮効果や収量改善が確認されたという成果報告ではない。
脱炭素、有機農業、生物多様性。佐倉市が掲げてきた複数の政策を、耕作放棄地という具体的な場所で重ねる試みでもある。
微生物を運び込んだ後、土はどう変わるのか。作物の生育、収量、施肥量、土壌の状態を追うことで、技術の手応えが見えてくる。

もみ殻を、土に戻す

同じバイオ炭を、農業の現場でつくる動きもある。
ヤンマーホールディングスは9月15日、もみ殻バイオ炭製造装置の受注を9月から開始したと発表した。公表仕様は、もみ殻の投入量が毎時100kg、バイオ炭の製造量が毎時約25kg。最長100時間の連続運転に対応する。
起動時には電気ヒーターを使い、その後はもみ殻自身の燃焼熱を利用する。ただし、「起動後は外部エネルギーが不要」ではない。機器を動かす電力は引き続き必要で、公表された平均消費電力は1.5kWだ。
年間約100tのバイオ炭製造と約160t-CO2の炭素固定量は、メーカーが示す年間利用の想定値である。しかも、160t-CO2は製造や施用に伴うCO2排出量を差し引く前の値だ。正味の環境効果を評価するには、その排出も計算に入れる必要がある。
J-クレジット制度に対応した炭化温度管理なども備えるが、装置を購入すればクレジットが自動的に発行されるわけではない。税制上の支援も、制度所定の認定や適用条件を確認して利用する仕組みだ。
地域にあるもみ殻を、地域の農地へ戻す。その循環を続けるには、装置だけでなく、原料の集荷、炭の使い道、稼働率、費用までつなぐ必要がある。

屋外に設置されたもみ殻バイオ炭製造装置のイメージ
もみ殻バイオ炭製造装置のメーカー掲載イメージ。
出典:ヤンマーホールディングス株式会社

サンゴを守る作業は、畑からも始まる

土の話は、炭素だけではない。水と一緒に、土そのものが流れ出すことも問題になる。
EF Polymerは9月18日、国頭村の赤土等流出防止対策地域協議会、琉球大学、沖縄県環境科学センターなどと連携する実証への参画を公表した。オレンジやバナナなどの果皮を原料とする天然由来の吸水性ポリマーを使い、農地からの赤土流出を抑えられるかを調べる。
赤土流出を、土の保水力低下だけで説明することはできない。沖縄県の解説では、侵食されやすい土壌、強い雨、地形、裸地化などの人為的な要因が重なる。対策も、その組み合わせに応じて考える必要がある。
今回の事業期間は2026年7月14日から2027年3月26日。琉球大学の施設で人工降雨を用い、国頭村2地点の土壌について、無処理区と比べた浸透水や流出水、流出土砂の量を調べる。沿岸に堆積した赤土の状況調査も並行して行う。
これは、流出抑制の効果を検証する段階だ。サンゴ礁が回復したことまで示す結果ではない。それでも、海への負荷を陸側で減らそうとする視点は重要である。傷んで見える場所だけが、手を入れる場所とは限らない。
同社は9月21日、果皮の累計アップサイクル量が1万tを超えたとも発表した。この数値は原料となる果皮の量で、ポリマー製品の生産量ではない。

畝の周囲に濁った水が流れる農地
農地での赤土流出
写真提供:国頭村環境保全課/掲載元:EF Polymer株式会社

管理方法も、技術になる

土壌の手入れは、必ずしも新しい装置を必要としない。
Green Carbonが9月25日に発表したのは、モンゴル牧草地利用者グループ全国連盟(MNFPUG)との基本合意書の締結だ。改良型草原管理(IGM)や持続可能な放牧を通じて、草原再生と土壌有機炭素(SOC)の保全を目指す。
ただし、発表時点では、事業の実現可能性の評価やパイロット開発に向けた初期段階にある。対象地や実施体制を検討していく案件であり、草原の回復量や炭素クレジットの発行量が確定したわけではない。
放牧の場所や時期をどう調整するか。植生や土壌の状態をどう記録するか。地域の暮らしと両立する費用負担や利益配分をどうつくるか。ここでは、材料の性能だけでなく、管理を続ける仕組みが技術の一部になる。
地球の修理技術という言葉は、装置や材料だけを指すのではない。地域と協働し、状態を確かめながら手入れを続けることも含んでいる。

8年後にも、戻っていなかった

導入を早めることと、回復を早められることは、同じではない。
9月16日、兵庫県立農林水産技術総合センターを中心とする共同研究グループが、高齢コナラの伐採後に残る根の土壌補強強度を報告した。論文は8月5日に公開されている。
対象は約60年生のコナラ林。今回調べた伐採5年後と8年後の根株は各3個体で、根の分布と引き抜き抵抗力から補強強度を計算し、伐採前や3年後までの既往データと比較した。同じ根を毎年8年間測り続けた研究ではない。
補強強度は、5年後に3.51kPa、8年後に1.99kPa。伐採前の約10%、約6%に相当する低い水準だった。ただし、これは調査した位置・条件における根の補強成分の比較であり、森林斜面全体の安全性が「6%になった」という意味ではない。
5年後までは伐採前の根株の太さと関係していた補強強度が、8年後には萌芽枝の太さと関係するようになった。研究グループは、芽かきなどによって萌芽の成長を促す管理が、補強強度の回復に役立つと提案している。
大切なのは、8年が回復期限ではないことだ。地上に新しい芽が伸びていても、地中の機能が十分に戻っているとは限らない。必要なのは「8年間だけ管理する」ことではなく、回復状況に応じて管理を続けることである。

コナラ根株の掘削、根の分布調査、根の引き抜き試験の三つの写真
コナラ根株の周囲を掘削し、根の分布と引き抜き抵抗力を調べる。根の補強力を確かめるには、地上の芽だけでなく地中の調査が必要になる。
出典:京都大学研究成果発表/兵庫県立農林水産技術総合センター・共同研究グループ

修理には、その後を確かめる仕事がある

岩、炭、もみ殻、果皮、放牧の管理。そして、伐採後の根。
この六つを「土壌は必ず元に戻る」という一つの物語にまとめることはできない。期待される効果も、実証の段階も、確かめるべき時間の長さも違う。
それでも、共通して問えることはある。何をよくする技術なのか。導入前と比べて何が変わったのか。その変化は、いつまで続くのか。
修理に養生期間があるという比喩は、この確認の時間を考える手がかりになる。ただし、すべての土壌修復で「途中が最も危険になる」と決めつけることはできない。コナラの事例が示した具体的なリスクは、具体的な条件とともに読む必要がある。
土は、プロジェクトの会計年度に合わせて動いてくれない。
投資も、実証も、装置も、協定も、入口である。その先に、継続する資金と人と記録を用意できるか。地球の修理現場を支えるのは、導入時の技術だけではない。
地球の修理現場は、たぶん土の中にある。
そして修理の現場は、工事が終わった後にも消えない。誰かが同じ場所に戻り、状態を測り、必要なら手入れを変える。Maintainable®は、技術の導入とともに、その後に公表される数字を追っていく。

参考:

出光興産|岩石風化促進によるCO2除去事業を展開するInPlanet社への融資(2026-09-17)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000679.000023740.html

TOWING・千葉県佐倉市|宙炭を活用した実証(2026-09-03)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000074.000081010.html

ヤンマーホールディングス|もみ殻バイオ炭製造装置の受注開始(2026-09-15)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000392.000034384.html

EF Polymer|国頭村での赤土流出対策実証への参画(2026-09-18)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000016.000096070.html

EF Polymer|果皮アップサイクル累計1万トン(2026-09-21)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000096070.html

Green Carbon|MNFPUGとの草原再生・土壌有機炭素保全に関するMOU(2026-09-25)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000306.000117956.html

兵庫県立農林水産技術総合センター・名古屋大学ほか|コナラの根の土壌補強強度(2026-09-16、詳細資料PDF。研究方法・数値はPDF3ページ、図は4ページ)
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/upload_images/20260916_env.pdf

FAO|Soil Carbon Sequestration(土壌炭素貯留の背景)
https://www.fao.org/soils-portal/soil-management/soil-carbon-sequestration/en/

BeZero Carbon|Our new rating scale explained(格付けの意味)
https://bezerocarbon.com/insights/our-new-rating-scale-explained

沖縄県|赤土等流出の原因(地形・土壌・気象・人為的要因)
https://www.pref.okinawa.jp/kurashikankyo/kankyo/1004750/1018610/1004456/1004458.html

FAQ

Q. 土壌はなぜ気候対策で重要なのですか?
A. 土壌は大きな炭素貯蔵庫の一つであり、土地利用や管理の変化によって炭素を失ったり、蓄積を増やしたりする可能性があるためだ。ただし、すべての土壌が同じ量を貯留できるわけではない。

Q. 岩石風化促進(ERW)とは何ですか?
A. 粉砕したケイ酸塩岩などの風化反応を速め、CO2の除去を目指す手法。炭素を重炭酸イオンなどとして保持する経路を利用し、土壌有機炭素を増やす手法とは区別される。

Q. なぜブラジルなどの農地で行うのですか?
A. InPlanetは、温暖で降水のある環境での風化反応と、農地への土壌改良資材の散布を組み合わせて事業を進めている。効果は岩石や土壌、気象などの条件に左右される。

Q. バイオ炭はなぜ炭素固定につながるのですか?
A. 植物などを炭化して分解されにくい炭素を含む材料に変え、土壌などにとどめるためだ。正味の効果を見るには、製造、輸送、施用などによる排出量も考慮する必要がある。

Q. 「宙炭」の佐倉市実証では、何が確認されたのですか?
A. 今回確認できるのは、2026年7月から実証を進め、3品目の栽培を通じて検証する計画が公表されたことだ。土づくりの短縮や収量改善について、この現場での最終結果が出たという発表ではない。

Q. もみ殻装置は、起動後には電気を使わないのですか?
A. 使う。炭化に必要な熱をもみ殻の燃焼で賄う一方、機器の運転には電力が必要だ。メーカー公表の平均消費電力は1.5kWである。

Q. 吸水性ポリマーを入れれば赤土流出は止まるのですか?
A. 今回の実証は、流出抑制効果を調べる段階だ。赤土流出には土質、降雨、地形、裸地化なども関わり、保水力だけで決まるわけではない。

Q. モンゴルではすでに大規模な草原再生が始まっているのですか?
A. 今回発表された案件は、基本合意に基づき、実現可能性評価やパイロット開発を検討する初期段階にある。実施面積、参加世帯数、炭素貯留の成果が確定したものとしては扱えない。

Q. コナラの根は8年待てば元に戻りますか?
A. この研究は、そのようには結論づけていない。8年後にも補強強度は低く、萌芽枝の成長を促す管理と継続的な確認の重要性が示されている。

Q. 土壌を直す取り組みを評価するとき、何を見ればよいのですか?
A. 目的に合った指標、導入前の状態、比較対象、測定条件、効果が続く期間を見る。発表、実証、効果の確認、事業化を混同せず、何年後のデータが公表されているかを確かめたい。

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