★ここが重要!

★要点
美術家・清川あさみと彫刻家・名和晃平による初の二人展「Invisible Garden」が、東京・銀座のポーラ ミュージアム アネックスで2026年9月16日から11月8日まで開かれる。中心となるのは二人の共作となる全幅約9メートルの新作《PixCell-Our New World》。風景写真と生成AI画像の断片で清川が構成した画面を、名和が透明なセルで覆う。本展が描き出そうとするのは、完成された風景としての庭ではない。滴、胞子、微生物、動植物、記憶、時間、夢——目に見えるものと見えないものが同居する「にわ」である。
★背景
生成AIの普及によって、画像は撮るものから生成されるものへと変わった。花の写真も、森の風景も、それが現実の記録なのか合成なのかを見分けることが難しくなっている。情報が絶えず流動し、現実と仮想、自然と人工の境界を定義できない時代。一方で、その裏側では巨大なデータセンターが電力と冷却水を消費し続けている。人は「自然」をどこで感じるのか。銀座の白い空間から、その問いが立ち上がる。

庭は、放っておけば庭ではなくなる。
草が伸び、木が茂り、やがて土地は森へ戻る。
庭という風景は、人が手を入れ続けることによってのみ成立する、きわめて人工的な自然だ。
2026年9月16日、東京・銀座のポーラ ミュージアム アネックスで「Invisible Garden」が開幕する。清川の著書『みえないにわ – Invisible Garden』の刊行をきっかけに構想された展覧会であり、1975年大阪生まれ、京都を拠点に「セル(細胞・粒)」という概念で彫刻の表皮を問い続けてきた名和晃平との初の共同展示となる。
刺繍という、世界でもっとも遅いメディアのひとつ。そして、イメージを粒に分解して覆う透明なセル。
速度の異なる二つの手つきが交差する場所に、いま、庭が出現しようとしている。

9メートルの新作は、AIが見た風景を「粒」で包む

展示の中心は、共作《PixCell-Our New World》だ。
2026年制作、ミクストメディア、およそ1300×9000×85ミリ。撮影は表恒匡。全幅9メートルという寸法は、絵画というより風景に近い。
つくり方が興味深い。まず清川が、風景写真と生成AI画像の断片を組み合わせて画面をつくる。実在した景色と、実在しなかった景色。撮られたものと、計算で出力されたもの。両者が同じ平面の上で混ざり合う。
その上を、名和が透明なセルで覆っていく。イメージは分割と統合を繰り返し、おぼろげに揺らめく。
レンズを通した像は、拡大され、屈折し、輪郭を失う。どこまでが撮影された自然で、どこからが生成された自然なのか。観る者は、その判別を早々にあきらめることになるだろう。
そしてそれこそが、この作品の狙いだ。
私たちが日々スクロールしているスマートフォンの画面も、すでに同じ状態にある。実写と生成物が、区別されないまま並んでいる。作品はその現実を、拡大鏡の下に置いて見せているにすぎない。

庭とは、手入れをやめた瞬間に消える自然

「にわ」という言葉が、この展覧会の鍵を握っている。
日本の庭園は、自然の模倣ではない。石を据え、水を引き、樹形を整え、苔を守る。数百年にわたって人の手が入り続けた結果として、あの風景がある。剪定を止めれば、三年で見え方が変わり、十年で別のものになる。
つまり庭は、メンテナンスによってのみ存在する自然だ。
里山も同じ構造を持つ。人が薪を採り、下草を刈り、水路を維持することで、あの生態系は保たれてきた。放置された里山では生物多様性がむしろ下がることが知られている。
自然を守るとは、手を触れないことではない。関わり続けることだ。
本展が提示する「にわ」も、完成された景色ではない。世界と人が出会うなかで生起する、感覚的な場として設計されている。展示空間を歩きながら、断片的なイメージを自分の記憶と重ねていく。そのプロセス自体が、鑑賞者の内側で庭を育てる作業になる。

Asami Kiyokawa | Kohei Nawa Metamorphosis Garden (full bloom) (Detail) 2021 mixed media Photo by Nobutada OMOTE
Asami Kiyokawa | Kohei Nawa PixCell-Our New World (Detail) 2026 mixed media Photo by Nobutada OMOTE

見えない自然は、AIの裏側にもある

「見えない自然」という言葉には、もうひとつの意味を重ねられる。
生成AIが一枚の画像を出力するとき、その背後ではデータセンターが稼働している。学習にも推論にも、大量の電力が要る。サーバーを冷やすために水も要る。国際エネルギー機関をはじめとする各機関は、データセンターの電力需要が今後急速に伸びると見込んでおり、立地地域の水資源との競合も各国で議論になり始めている。
AIで生成された花には、匂いも、季節も、虫もいない。
だが、その花を生み出すために、どこかの土地の水と電気が実際に使われている。仮想の風景の背後に、物質としての自然がある。
《PixCell-Our New World》が、生成AI画像の断片を素材として選び、それを物理的なセルで被覆したという構造は、この二重性と静かに響き合う。デジタルなイメージが、レンズという物質を通ってはじめて手で触れられるものになる。
自然と人工の境界を定義できない時代とは、自然が消えた時代ではない。自然が見えにくくなった時代だと言える。

Asami Kiyokawa | Kohei Nawa PixCell-Random (Detail / Series reference) 2026 mixed media Photo by Nobutada OMOTE
Asami Kiyokawa Sep.14 (Detail) 2026 photograph / acrylic / thread Photo by Nobutada OMOTE
Asami Kiyokawa Serendipity (Diverge) 2025 mixed media Photo by Nobutada OMOTE

刺繍という、いちばん遅いメディア

清川あさみは、兵庫県淡路島生まれ。写真や雑誌、布、書物に刺繍を施す表現を出発点に、「見えないものを可視化すること」をテーマに制作を続けてきた。近年は記憶、神話、自然、AI時代の想像力を主題に、平面、インスタレーション、公共アート、映像、出版と領域を横断している。虎ノ門ヒルズ駅の大型パブリックアート《Our New World (Toranomon)》も手がけた。
一針ずつ糸を通していく刺繍は、生成AIとは対極にある。プロンプトを打てば数秒で画像が出る時代に、布に針を刺し続ける時間。その遅さが、作品に時間の厚みを与える。
本展では、清川の「Serendipity」や《Sep.14》などの新作も並ぶ。
一方の名和晃平は、2009年に制作プラットフォーム「Sandwich」を設立。2018年にルーヴル美術館のピラミッド内で彫刻《Throne》を特別展示し、2023年にはパリ・セーヌ川のセガン島に《Ether (Equality)》が恒久設置された。アートパビリオン《洸庭》のような建築プロジェクトや、振付家ダミアン・ジャレとの協働も続けている。本展では、代表作「PixCell」の近年の展開のひとつである「PixCell-Random」が出品される。
手仕事の遅さと、システムとしての粒。
この二つが同じ空間に置かれるとき、どちらか一方では見えなかった何かが浮かぶ。

現代美術家/アートディレクター 清川あさみ
彫刻家/Sandwich Inc.主宰/京都芸術大学教授 名和晃平

白い空間に、自分だけの「にわ」を持ち帰る

会場構成にも仕掛けがある。
白で統一された空間のなかに、清川の刺繍が紡ぐ物語と、名和のセルによって変換されたイメージが、それぞれの存在感を保ったまま置かれる。色彩と輪郭が静かに浮かび上がり、ゆるやかに結ばれて、ひとつの庭になる。
さらに、会期中は3階のギャラリーだけでなく、1階の店舗「POLA GINZA」でも作品が展示される。植物や滴をモチーフとしたインスタレーションだ。銀座の街路と展示室が、垂直につながる。
入場は無料。会期中は無休。開館は11時から19時まで、11月6日から8日のみ10時開館となる。主催はポーラ・オルビスホールディングス、協力にASAMI inc.とSandwich Inc.が入る。2026年のアートウィーク東京にも参加する。
銀座という、地球上でもっとも人工的に磨き上げられた街のひとつ。そこに現れる「みえないにわ」は、皮肉ではなく、必然なのかもしれない。
自然が遠くにあるものだと思っている限り、自然は見えない。
見えないものを見るための装置として、庭がある。

清川あさみ|名和晃平「Invisible Garden」
会期:2026年9月16日(水)〜11月8日(日)※会期中無休
時間:11:00〜19:00(入場は18:30まで)※11月6日〜8日のみ10:00開館
入場料:無料
会場:ポーラ ミュージアム アネックス(東京都中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階)/1階 POLA GINZA
主催:株式会社ポーラ・オルビスホールディングス
協力:ASAMI inc., Sandwich Inc.
https://www.po-holdings.co.jp/m-annex/

FAQ

Q. 「Invisible Garden」とはどんな展覧会ですか?
A. 美術家・清川あさみと彫刻家・名和晃平による初の二人展である。清川の著書『みえないにわ – Invisible Garden』の刊行をきっかけに構想され、滴や胞子、微生物、動植物、記憶、時間、夢といった有形無形のものが息づく風景としての「にわ」を描き出す。

Q. 会期と入場料を教えてください。
A. 2026年9月16日(水)から11月8日(日)まで、会期中無休。11時から19時まで(入場は18時30分まで)で、11月6日から8日のみ10時開館。入場料は無料である。

Q. 《PixCell-Our New World》とはどんな作品ですか?
A. 二人の共作となる全幅約9メートルの大型新作。風景写真や生成AI画像の断片を清川が構成した画面を、名和が透明なセルで覆っている。イメージは分割と統合を繰り返し、輪郭が揺らぐ。

Q. 「PixCell」とは何ですか?
A. 名和晃平の代表的なシリーズ。対象物の表面を透明な球体(セル=細胞・粒)で覆い、像を屈折・拡大させることで、物の見え方そのものを変換する手法である。本展では近年の展開である「PixCell-Random」が出品される。

Q. なぜ生成AIの画像が素材として使われているのですか?
A. 現実と仮想、自然と人工の境界が定義できなくなった現代を、作品そのものの成り立ちで示すためである。撮られた風景と生成された風景が同じ画面に同居し、その区別は意図的に曖昧にされている。

Q. 展示は1か所だけですか?
A. 3階のギャラリーに加え、1階店舗「POLA GINZA」でも展示が行われる。植物や滴をモチーフとしたインスタレーションが展開され、二つの空間を散策するように行き来できる。

Q. 清川あさみはどんな作家ですか?
A. 兵庫県淡路島生まれ、東京を拠点とする現代美術家・アートディレクター。写真や布、書物に刺繍を施す表現から出発し、「見えないものを可視化すること」をテーマに制作を続けている。虎ノ門ヒルズ駅の大型パブリックアートなども手がけた。

Q. 名和晃平はどんな作家ですか?
A. 1975年生まれ、京都を拠点とする彫刻家。2009年に「Sandwich」を設立し、セル(細胞・粒)を軸に彫刻の表皮を探究してきた。ルーヴル美術館での《Throne》特別展示や、パリ・セガン島の《Ether (Equality)》恒久設置などで知られる。

Q. この展覧会は、サステナビリティとどう関係するのですか?
A. 庭は手入れを続けることでのみ成立する自然であり、里山と同じ構造を持つ。自然を守るとは触れないことではなく、関わり続けることだという視点は、メンテナンスを軸にした持続可能性の考え方と重なる。

Q. 「見えない自然」には他の意味もありますか?
A. 生成AIの画像を支えるデータセンターは、大量の電力と冷却水を消費している。仮想の風景の背後には、物質としての自然がある。見えなくなった自然をどう捉え直すかが、本展の問いのひとつである。

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