★ここが重要!

★要点
2026年9月3日、科学誌Nature Communicationsに「塩湖の見落とされてきた保全価値」と題する論文が掲載された。ドイツ・ヘルムホルツ環境研究センターのアルフレッド・ブリアン氏と、ロシア科学アカデミー・クラスノヤルスク科学センターのエゴール・ザデレーエフ氏が取りまとめ、20か国60人を超える研究者が参加した国際共同研究である。
世界85の塩湖を評価し、IUCNレッドリストに掲載された絶滅危惧種・準絶滅危惧種200種が、これらの湖に依存していることを確認した。うち53%が鳥類だった。
塩湖は「生物多様性に乏しく、人にもたらす恵みも少ない」と見なされ、政策の優先順位から外されてきた。研究チームは、その見方を正面から否定している。
塩湖は地球上の湖水量の45%以上、湖の表面積の23%を占める。にもかかわらず、その価値はほとんど測られてこなかった。

★背景
塩湖のほぼすべては、流れ出す川を持たない「終端湖」である。水位は、流入量と蒸発量のわずかな差で決まる。だから、気候の変化にも、流域での水の使い方にも、極端に敏感に反応する。
アラル海、グレートソルトレイク、ウルミア湖、死海。この数十年で劇的に水位を下げた湖の名を、多くの人が知っている。一方、東アフリカの湖では降雨量の増加で逆に増水が起きている。
しかし、その価値は評価されてこなかった。理由は測り方にある。飲み水、灌漑、漁獲。淡水湖を評価するための指標を当てはめると、塩湖の成績は悪くなる。
2022年の昆明・モントリオール生物多様性枠組は「30by30」を掲げ、企業にはTNFDによる自然関連情報の開示が求められ始めた。自然を測り、経営と政策に組み込む時代である。
だがその物差しが偏っていれば、測られなかった生態系は、存在しないものとして扱われる。

干上がった湖は、静かに消えるわけではない。
残されるのは、塩と微粒子に覆われた広大な湖底だ。風が吹けば、それは舞い上がる。アラル海では、その粉じんが数百キロ先まで運ばれ、人の健康と周辺の生態系を痛めつけてきた。
逆に、湖が存在しているあいだ、その被害は起きない。誰の目にも触れないまま、災害が防がれている。
これは、自然からの恵みと呼べるだろうか。呼べる。ただし、値段をつけるのは難しい。
2026年9月3日、Nature Communicationsに掲載された論文は、こうした「測りにくいがゆえに無視されてきた価値」を、世界85の塩湖にわたって洗い出した。
20か国、60人を超える研究者。発端は2018年、中国で開かれた陸水学の会議での立ち話だったという。
なぜ塩湖は、これほど過小評価されているのか——。

淡水の物差しで測れば、塩湖の価値はゼロになる

塩湖とは何か。この研究では、塩分濃度が1リットルあたり1グラムを超え、海とは物理的に隔てられた湖を指す。上限はない。今回対象となった85湖の塩分濃度は、1グラムから375グラムまで広がっている。海水の10倍を超える濃度の湖も含まれる。
評価から漏れてきた理由は、単純だった。
淡水湖の価値は、飲料水、灌漑、漁業といった指標で測られる。この物差しを塩湖に当てはめれば、点数は低くなる。塩水は飲めないし、高塩分の湖に魚はほとんどいない。
共著者の一人で、スペイン・ブラネス高等研究センター(CEAB-CSIC)のエミリオ・O・カサマヨール氏は、この構造をはっきり指摘する。淡水湖に期待する恵みを基準に判断されるから、塩湖は過小評価される、と。
だが、塩の採掘、療養目的の入浴、無脊椎動物の商業的な採取。塩湖には塩湖固有の使われ方がある。
たとえばグレートソルトレイクでは、アルテミア(ブラインシュリンプ)の採取が年間7,000万ドルを超える産業になっている。世界の養殖業が稚魚の飼料として使う、あの小さな甲殻類である。
それでも、これらは「湖の価値」として集計されてこなかった。
研究チームは、ここで方法を変えた。塩湖を研究する世界中の専門家に、71問からなる調査票を送る。生態系の特徴、保全状況と絶滅危惧種、湖がもたらす恵み、そして湖が直面する脅威。全項目に回答が揃った85湖分のデータが集まった。
科学的な知見に、現地の知識と保全の実務知を重ねる。塩湖の研究者コミュニティが、自分たちの手でデータベースをつくったのだ。

本研究に含まれる85の塩湖の位置と特徴: 上部パネルのグローバルマップには、含まれる湖の位置、イオンの種類、恒久性が示されています。下部パネルのヒストグラムは、回帰モデルの予測因子としてイオン型および永久性に加え含まれた6つの他の環境および管理特性の分布を示しています。ベースマップはGoogle Mapsを使用。(Nature Communications (Nat Commun) ISSN 2041-1723 (online))

絶滅危惧200種、その半分以上が鳥だった

結果は、従来の認識を覆すものだった。
85の塩湖から、IUCNレッドリストで絶滅危惧または準絶滅危惧に分類される200種が記録された。1湖あたり平均5種、中央値は3種。いずれも、その湖の存在に決定的に依存している種だけを数えた数字である。
最も多かったのは鳥類で、全体の53%を占めた。
理由は明快だ。塩湖は乾燥地帯にあることが多い。周囲は不毛の土地でも、湖には藻類やアルテミアなどの無脊椎動物が大量に発生する。渡り鳥にとって、長距離移動の途中で餌を補給し、休息できる数少ない場所になる。採餌地であり、営巣地であり、中継地である。
つまり、塩湖を水中の生き物だけで評価すれば、その保全上の重要性は大幅に過小評価される。湖の価値は、水の外側にまで及んでいる。
興味深いのは、逆方向の発見もあることだ。
研究チームは85湖から約500種の優占プランクトンを記録した。そのうち、絶滅危惧種に指定されているものは一つもない。
モノ湖に固有のアルテミア・モニカのように、極度のストレス環境にしか存在しない種でさえ、リストには載っていない。
IUCNのレッドリスト作成は、魚類、鳥類、哺乳類で先行し、無脊椎動物では大きく遅れている。塩湖に膨大に存在する微生物群集にいたっては、評価の対象ですらない。
レッドリストという物差しにも、偏りがある。論文はそれを正直に書いている。

塩湖で確認された絶滅危惧種と、その分布を左右する要因:
A 塩湖に生息する、あるいは塩湖に強く依存することが報告されている分類群を示した系統樹。各分類群の系統的な位置づけ、地理的な分布、保全ステータスもあわせて表示している。バーの長さは、本データセットにおける種数を表す。
B 塩分濃度の影響。1湖あたりの絶滅危惧種の豊富さを説明する予測因子として、最も重要だったもの。
C 対象とした湖の数(サンプル数)に対する、絶滅危惧種の累積種数。実線は、本研究の湖データベースから5,000回ランダムに抽出した結果の平均値を示す。赤の網かけは95%信頼区間の幅を表す。この曲線に強い飽和傾向が見られないことは、個々の湖がそれぞれ固有の種構成を持つ場合が多いことを示しており、その結果として内陸塩水域のβ多様性が高くなっている。
アイコン画像のクレジットは以下のとおり。
ダニ https://www.flaticon.com/authors/vector-stall / カニおよび鳥 https://www.flaticon.com/authors/freepik / 巻貝 https://www.flaticon.com/authors/mayor-icons / 甲虫 https://www.flaticon.com/authors/park-jisun / 魚 https://www.flaticon.com/authors/planbstudio / カエル https://www.flaticon.com/authors/anditii-creative / レイヨウ類 https://www.flaticon.com/authors/delwar018 / ヘビ https://www.flaticon.com/authors/unknown-depths (Nature Communications (Nat Commun) ISSN 2041-1723 (online))

85湖でも、まだ数え終わらない

塩分濃度が高くなるほど、1湖あたりの絶滅危惧種の数は減る。統計的にも明確な傾向だった(p<0.001)。
ならば、高塩分の湖は保全価値が低いのか。
そうではない、というのが論文の主張である。
例として挙げられているのは、ロシアのクラスノヴィシネヴォエ湖、イランのウルミア湖、オーストラリアのシーガル湖。いずれも平均塩分濃度は1リットルあたり100グラムを超える。そして三つとも、他のどの湖にも見られない絶滅危惧種を、それぞれ2種以上抱えていた。
種の数ではなく、種の顔ぶれが違う。
これを裏づけるのが、湖の数を増やしたときに累積の絶滅危惧種数がどう伸びるかを示した曲線である。85湖を調べても、この曲線は飽和する気配を見せない。
つまり、86番目の湖を調べれば、また新しい種が出てくる。
生物多様性条約は、種のレベルだけでなく、遺伝子と生態系のレベルでも多様性を評価するよう求めている。塩湖は、生態系レベルの多様性が極めて高い。一つひとつが、他にはない個性を持っている。
そして遺伝子。極端で変動の激しい環境は、強い選択圧を生む。塩湖の生物は、他では見られない適応を遂げている。
生命がどのように進化し、極限環境に適応するのか。その手がかりであると同時に、食品、医薬、農業、化粧品といった産業への応用可能性も指摘されている。
塩湖を守ることは、地球が環境変化に適応するための遺伝子の貯蔵庫を守ることでもある。論文はそう位置づけている。

ウルミア湖
死海

数えられない恵み、値のつかない働き

研究チームは、湖が人にもたらすものを11種類に分類して調べた。同じ主題を扱った過去の湖沼研究のうち、7種類以上を検討したものはわずか2%。この時点で、かなり踏み込んだ調査である。
最も多く記録されたのは、文化にかかわる恵みだった。研究対象としての価値(対象湖に関する論文が20本以上)が88.4%、観光・レクリエーション利用が83.7%。
資源の供給や環境の調整にかかわるものは、個別には少ないが種類が多い。漁業19.8%、魚以外の生物の採取24.4%、製塩25.6%。そして排水の放流先としての利用が41.9%——その多くは未処理だった。
1湖あたり平均5種類の恵みが記録された。
提供数を左右していたのは、湖の面積と、都市からの遠さだった。塩分濃度ではない。大きな湖は生物量が多く、フラミンゴのような観光資源も育つ。逆に人里から遠い湖は、利用そのものが難しい。
ただし論文は釘を刺す。遠隔地の湖で恵みの利用が少ないのは、潜在的な価値が低いという意味ではない。
そして、この11種類にすら入らなかった働きがある。論文が「真に隠れた恵み」と呼ぶものだ。
一つは、地域の微気候への影響である。
ケニアとエチオピアの国境にあるトゥルカナ湖では、1日あたり5,500万立方メートルもの水が蒸発する。南東からの強い風が、この水蒸気を南スーダンへ運ぶ。
湖の蒸発が、遠く離れた土地の雨になっている。
もう一つが、冒頭に挙げた粉じんの抑制だ。湖が存在する限り、塩を含んだ砂じん嵐は起きない。アラル海や米カリフォルニア州のソルトン湖では、湖の縮小が周辺住民、特に子どもの健康問題として報告されている。
さらに、塩湖の微生物群集は、面積あたりで世界最高水準の一次生産速度を記録する。栄養塩の循環、ガス交換、炭素の固定。海に比べれば規模は小さいが、水量が同程度である以上、淡水湖に匹敵する寄与があってもおかしくない。
ベータカロテンやグリセロールといった有用物質の高い生産能力も知られている。南極の塩湖からは、炭化水素を分解する能力を持つ微生物が見つかった。
熱帯雨林の植物や昆虫と同じだ、と論文は書く。まだ何が眠っているのかわからない。

アラル海

恵みは、使いすぎれば脅威に変わる

ここで論文は、重要な留保をつけている。
湖から恵みを受け取ること自体は、基本的には良いことだ。しかし、使いすぎれば、ほぼすべてがそのまま脅威に転じる。
例として名指しされているのが、アンデスのリチウム採掘である。
チリ、アルゼンチン、ボリビアにまたがるいわゆる「リチウム三角地帯」。高地の塩湖の塩水(かん水)からリチウムを取り出すこの産業は、電気自動車と蓄電池の普及に不可欠な資源を供給している。
一方で、気候変動とリチウム採掘がフラミンゴの生息数に影響していることを示した研究が、すでに存在する。
脱炭素のための資源採掘が、自然の回復と衝突する。熊本のネイチャーポジティブ国際会議でも繰り返し指摘された構図が、ここにもある。
製塩も同じだ。塩分濃度が高い湖ほど製塩が行われやすいが、濃度の低い湖に蒸発池が設けられることもある。その場合、湖が果たしている環境の調整や、生きものを支える働きと競合する。
そして、塩湖の水位はもともと大きく変動する。良い年と悪い年の差が激しい。だから、持続可能な利用の上限を決めるときには、予防原則を働かせるべきだ——論文はそう提言している。
専門家が挙げた脅威の順位も紹介されている。気候変動が28%、土地利用の変化が24%、資源の過剰利用が22%。
どれか一つが突出しているのではない。三つがほぼ同じ重みで、絡み合いながら塩湖を追い詰めている。

五つの提言——湖ではなく、流域を管理せよ

論文は、分析を提言で締めくくっている。共著者間で三段階の合議を重ねてまとめられた、五つのベストプラクティスだ。
一つ、流域全体の管理計画をつくること。
塩湖は流入と蒸発の均衡で成り立つ。流域全体の水収支を勘定に入れなければ、湖そのものが消える。地下水の流れも含める必要があるが、多くの塩湖でその実態は把握されていない。
二つ、複数の「正常な状態」と、湖どうしのつながりを前提にすること。
塩湖の生物は、休眠や移動といった対処戦略を進化させてきた。個体数は激しく増減し、複数の湖がひとつのメタ生態系としてつながっている。淡水湖のように「本来あるべき唯一の状態」を設定することはできない。
三つ、反応の遅れと、湖ごとの個性を織り込むこと。
グレートソルトレイクでは、流域の水利用の変化が湖の生態系に完全に現れるまで15年かかった。堆積物中の休眠卵が影響を先送りし、ある日突然、個体群が崩壊することもある。長期の視点が要る。
四つ、関係者の参画。
塩湖の多くは乾燥地にあり、経済と政治の中心から遠い。流域が国境をまたぐことも珍しくない。一方の国が灌漑に使う水を、もう一方の国の湖が蒸発させる——そんな対立が起きやすい。先住民を含む多様な当事者を巻き込む枠組みが必要になる。
五つ、順応的な管理と再生。
すでに多くの湖が気候変動の影響を受けている。乾燥地では、増えた蒸発量を補って水位を元に戻すことは、現実的に不可能だ。過去の基準値と比べ続けることに意味はない。変化を前提に、管理も監視も更新し続けるしかない。
そのうえで論文は、こう書いている。管理が難しいからといって、手をつけないという選択は成り立たない。

日本に塩湖はない。だが、無関係ではない

日本に、この研究が対象としたような内陸の塩湖は存在しない。
では、他人事か。
そうは言えない。三つの回路で、日本はすでにつながっている。
一つ目は、供給網である。
電気自動車と蓄電池のリチウムは、アンデスの塩湖から来る。養殖に使うアルテミアは、グレートソルトレイクのような塩湖から採取される。塩も同様だ。
企業がTNFDに沿って自然への依存と影響を開示しようとするとき、サプライチェーンの上流に塩湖がある。だが、現在の評価枠組みで塩湖の価値が測られていなければ、そこで何が起きているかは見えない。
二つ目は、渡り鳥である。
絶滅危惧種の53%が鳥類だったという事実は、塩湖が国境を越えた生態系の結節点であることを意味する。ユーラシア内陸の塩湖は、東アジアの空を渡る鳥たちの行程の一部でもある。
日本の干潟や湖沼で越冬する鳥が、どこを経由してきたのか。その経路に塩湖があるなら、日本の生物多様性は、遠い乾燥地の水位に支えられていることになる。
三つ目は、考え方そのものだ。
淡水の物差しで測れば価値が見えなくなる——この構造は、塩湖に限った話ではない。
日本にも、汽水域という「どちらでもない」水域がある。海の基準でも、川の基準でも、うまく測れない場所。評価の枠組みから外れやすい環境は、どの国にもある。
測る物差しを持たない生態系は、政策の議論の外に置かれる。そして、失われてから気づくことになる。

測られないものは、守られない

今回の研究には、もう一つ注目すべき点がある。
データの集め方だ。
研究チームは最初に、こう宣言していた。塩湖のデータを一つでも提供した研究者は、全員を論文の共著者として招く、と。
その結果、20か国から60人を超える著者が名を連ねた。国際塩湖研究学会(ISSLR)のネットワークが、その基盤になった。
コーディネーターのブリアン氏は、驚きをこう語っている。世界のまったく異なる場所で、生態学的にもまるで違う湖を研究していたのに、直面している管理上の課題はほとんど同じだった。そして参加者が増えるほど、その印象は強まった。塩湖は圧力を受け、消えつつある——どこでも、同じ話を聞いた。
一つの湖を守るための研究が、85集まったとき、世界の構図が見えた。
偏りは、指標だけの話ではない。言葉にもある。
自然が人にもたらすものを、この分野では長く「生態系サービス」と呼んできた。1990年代、自然を経済の勘定に乗せるために選ばれた用語である。値段をつけ、比較できるようにする。そのための言葉だった。
だからこの言葉は、値段のつくものを数えることは得意でも、値段のつかないものを取りこぼしやすい。トゥルカナ湖の蒸発が南スーダンに降らせる雨に、誰が請求書を出すだろうか。
国際的な生物多様性の評価の場では、近年「自然がもたらすもの」という、より広い概念への言い換えが進んでいる。今回の論文も、その存在に触れている。ただし水域の研究では従来の用語のほうが定着しているため、データを集めやすい枠組みを優先した、と断ったうえで使っている。
測り方を選ぶことは、何が見えるかを選ぶことでもある。著者たちは、そのことを承知していた。
ネイチャーポジティブは、自然を測り、経済と政策に組み込む試みである。だが、その物差しが淡水湖と海洋を前提に設計されていれば、塩湖のような生態系は、永久に議題に上らない。
地球の湖水の45%以上が塩水である。にもかかわらず、それは「乾いた不毛の土地の一部」と見なされてきた。
測られないものは、守られない。
今回の論文が突きつけているのは、塩湖の危機であると同時に、私たちが自然を評価する枠組みそのものの偏りである。
自然資本を経営と政策に組み込む時代に入った。ならば次に問われるのは、何を数えていないのか、という問いだろう。

塩湖の主な環境的・生物的特性と、それらがもたらす管理上の課題(青のボックス):
中心に置かれているのは「終端流域」である。これはほぼすべての塩湖に共通する特徴であり、塩湖の自然変動の大きさを生み出す要因となっている(地下水との複雑な相互作用については、図を簡潔にするため一部省略している)。 その結果として生じる生物的な特性や適応——時間・空間の両面にわたる複雑なニッチ、複数の「代替状態」が存在すること、個々の湖が互いに結びついてメタ生態系を形成していること——により、管理上の核心的な問いを定めることが難しくなっている(図の下部)。 さらに、塩湖の環境的な多様性の大きさや、流域が国境をまたぐことが多いといった特徴が、実務面での管理の難しさにつながっている(図の上部)。(Nature Communications (Nat Commun) ISSN 2041-1723 (online))

論文(オープンアクセス)
The overlooked conservation values of saline lakes
Nature Communications, vol.17, 9456(2026年9月3日)

https://www.nature.com/articles/s41467-026-76684-0

発表元(ブラネス高等研究センター CEAB-CSIC)
World’s saline lakes support threatened species and provide key ecosystem services(2026年9月8日)

https://www.ceab.csic.es/en/els-llacs-salins-del-mon-sostenen-especies-amenacades-i-ofereixen-serveis-ecosistemics-clau/

FAQ

Q. 塩湖とは何ですか?
A. この研究では、塩分濃度が1リットルあたり1グラムを超え、海とは物理的に隔てられた湖を指す。ほぼすべてが流れ出す川を持たない終端湖で、水位は流入量と蒸発量の均衡で決まる。世界の湖水量の45%以上、湖の表面積の23%を占める。

Q. 今回の研究は何を明らかにしたのですか?
A. 世界85の塩湖を評価し、IUCNレッドリストの絶滅危惧種・準絶滅危惧種200種がこれらの湖に依存していることを示した。うち53%が鳥類。また、湖が人にもたらすものを11種類に分類して調べ、1湖あたり平均5種類が記録されることを確認した。

Q. なぜ塩湖は過小評価されてきたのですか?
A. 飲料水、灌漑、漁獲量といった淡水湖向けの指標で評価されてきたためである。塩湖には、塩の採掘、療養目的の入浴、アルテミアなど無脊椎動物の採取といった固有の利用があるが、これらは集計されてこなかった。

Q. 「隠れた恵み」とは何ですか?
A. 数値化が難しく、定量分析に含められなかった働きを指す。学術的には生態系サービスの一部にあたる。地域の微気候の調整、干上がった湖底からの塩を含んだ粉じんの発生抑制、炭素の固定、そして未知の機能を持つ微生物群集の保持などである。

Q. なぜ鳥類が多いのですか?
A. 塩湖の多くは乾燥地帯にあり、周囲が不毛でも湖では藻類やアルテミアなどが大量に発生する。渡り鳥にとって、長距離移動の途中で餌をとり休息できる貴重な場所となるため、採餌地、営巣地、中継地として機能している。

Q. 塩分濃度が高い湖は、保全価値が低いのですか?
A. 1湖あたりの絶滅危惧種の数は塩分濃度が高いほど減る。ただし、高塩分の湖は他のどの湖にもいない固有の種を抱えていることが多い。85湖を調べても累積種数の曲線は飽和せず、湖ごとの個性が非常に強いことが示された。

Q. 塩湖に対する主な脅威は何ですか?
A. 専門家の評価では、気候変動が28%、土地利用の変化が24%、資源の過剰利用が22%と、三つがほぼ同じ重みで挙げられた。アラル海、グレートソルトレイク、ウルミア湖、死海などで、急激な水位低下が起きている。

Q. 研究チームが示した提言の要点は何ですか?
A. 五つある。湖だけでなく地下水を含む流域全体を管理すること、塩湖本来の大きな変動を前提とすること、長期的な監視で不可逆な変化を早期に捉えること、越境流域では関係国と多様な当事者を巻き込むこと、そして変化を前提とした順応的な管理を実装することである。

Q. 企業経営とどう関係しますか?
A. 電気自動車や蓄電池に使われるリチウムは、アンデスの塩湖のかん水から採取される。養殖飼料となるアルテミアや、製塩も同様である。TNFDなどで自然への依存と影響を開示する際、サプライチェーンの上流に塩湖が存在する可能性がある。

Q. 日本にも塩湖はありますか?
A. この研究が対象とした内陸の塩湖は日本には存在しない。ただし、淡水の基準で測ると価値が見えにくくなるという構造は、汽水域など「どちらにも分類しにくい」水域に共通する。評価の枠組みから外れた生態系が、政策の議論からも外れやすいという問題は日本にも当てはまる。

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